Cold Play_3
時刻は昼の1時前。
あの落石地獄を難なく抜けた俺達はほどなくしてケズマラディークに到着した。
ここらは海が近いからか、ケズバロンやケズブエラより少しばかり空気が肌寒い。
今夜は冷えるかもな……。
そうそう、件の胡散臭い映画監督は――
「そんじゃ兄ちゃん! まじサンキューな! あと嬢ちゃんも! お陰で良い画とれたよ! キミらの旅に幸あれ! じゃっ!!」
シェイクス・ピルバーグ――彼はケズマラディークに着くより少し前にダバから降りていった。
スタコラサッサと凄まじい足さばきでケズトロフィスを目指して一直線。
風のような――いや、台風のようなヒトだった。
「ねぇしー君、結局あのヒトなんだったの?」
「さぁな。よく解らん、映画監督のピルバーグだとさ。どーせくだらんB級映画撮ってるヤツだろ。」
「え!? ピ! ピピ!! ピルバーグって!!」
ん? なんだ急に?
突然興奮した様子でファラが詰め寄って来た。
近い近いツバを飛ばすなツバを。バカが移るだろが。
「あのシェイクス・ピルバーグ!?!!?」
「は? なに? お前知ってんの?」
「はぁ!? 逆に何で知らないの!? 劇場版ヒケコイの監督だよ!!」
え――
「え!? まじ!!!!!!???!??」
「あーーーーもうそうと知ってたらサイン貰ったのにーーーーーー! しー君のアホーーーーー!!」
「……。」
そんなバカな――あんな胡散臭いオジンがか?
と、まぁそんな出会いもあったわけだが――ケズトロフィスに向かったのなら近いうちにまた出会う機会もあるかもしれんし……。
俺は「キーキー!」と腹をすかせた猿の様に喚くファラを宥めつつ村の入り口でダバを預け、地図を頼りにルギィさんの家を訪ねた。
「やぁ、遠路はるばるいらっしゃい。キミがシーヴ君、そっちがファラちゃんだね。」
「初めまして、ルギィさん。この度は無理を言ってしまい申し訳ございません。どうかよろしくお願いいたします。」
俺達は背の高い気さくな老人に快く歓迎された。
穏やかで落ち着いた笑顔、薄い白髪、皺の寄った細い目、少し曲がった背中、そしてチェック柄の黄色いシャツが印象的な老人だった。
「本当によく来たねぇ、疲れたろう?」
「そんなとんでもないです~っ。楽しかったよねっしー君っ。」
「え……。」
そりゃお前はな。
「もう準備は出来てるからね。さ、入りなさい、早速始めようじゃないか。」
準備――そういうとルギィさんは何故かウキウキと家の中へ入って行った。
そうして家の中に案内されて最初に思ったのは――
「ン……。これ、もしかして。」
やっぱりなんか勘違いされているらしい――
「ん? もちろんパーティーさ。」
あかーん、アメリカのホームステイかよ。
壁一面にカラフルな装飾。
天井にいくつもぶら下がった星の形の飾り。
テーブルには豪華な食事と大量のお酒。
ルギィさんのいう準備とは、早速始めようとは――つまるところ、パーティーの事だった。
「うわぁ! やったーーーー!」
「はっはっはっ! 何か飲むかね~? お酒もた~んまりあるぞぉ?」
キュッポンッ!
ゴクッゴクッ!!
ルギィさんはビールの栓を景気よく飛ばすといきなりソレを一気に飲み干した。チャラい。
「うっはぁ~~~~! こーゆー時に飲むノーリーズンは最高だな! まじまんじっ!!」
「くぅ~~~! サム14のエナジーウォッカは定番よねっ! ルギィさん! ウォーターパックスラベルのブロンドはある?」
「あるよぉ~~~!!」
「ひーーーーはーーーー!!!」
「いぇ~~~~~い!!」
「……。」
なに、このテンション。
そしてこの光景。
なんかいよいよ歌いながらグルグル回り始めた。
「ずくだんずんぶんぐぅ~んっ!!」
「げつぱんつんさんぷぅ~んっ!!」
酔っ払った老人とアホな留学生がノリノリで腰を振って、うにょうにょと気持ち悪い踊りを踊ってるが、当の目的を忘れてはいけない。なにしろ俺はボーラさんとフレンさんの為にここまで来たんだのら。
「どうしたシーヴ君、バカンスは最初が肝心だぞ!」
だからバカンスじゃねっっぺが。
三角帽、クラッカー、部屋中の手の込んだ装飾がそれまでの苦労を物語っている。
どんだけ楽しみにしてたんだこのヒト。
「あのルギィさん……。俺たち別にバカンスに来たわけじゃないです。」
「え、そうなの? なんだ、バカンスに来たんじゃ無いのか、折角準備しとったのになぁ……。チョベリバ。」
う、露骨にガッカリしたな……。
チョベリバって。アンタの時代の言葉でもないだろ多分。若ぶってるけど露骨に失敗してるし。
「え~しー君ノリわる~い! 折角楽しもうって言ってくれてるんだからちょっとくらい良いじゃんっ!」
んー……。
まぁ確かに……。
勘違いとはいえ、こんだけ張り切って歓迎の準備をしてくれてたのを無下にするのは良くないよな。
けどお前が言うな……。存在がもう図々しいんだよなコイツは。
「ほら、飲んで? ドリームボーイっ! これなら飲みやすいからっ。」
「お、おう。」
ドリームボーイ――あまり聞き慣れない名前だが、なんか飲んだ瞬間飛びそうだな……。
「シーヴ君シーヴ君! いっき! いっき!」
ルギィさんのテンションはサイ&コウ。
手を叩いて嬉しそうに一気飲みコールをしてくるその姿は正に近年のバカ大学生のそれだった。
というか普通にウザい。
まぁしかし、ここはいっちょ上げときますか!!――
「ふんがーーーーッ!!!」
「おぉ~~~~! 良い飲みっぷりだあ~~~!」
「さっすがしー君! いなせだねぇ~~~~!」
「ぶっはぁ!!!」
ン~……。
おにょ~、これはなんというか、まさに夢見心地……。
あいやぁ、なんだろうか、最高にポワポワしてきたぞ~……。
「ふぃー、クラクラしる~……。」
「え? しー君……。それほとんどジュースだよ?」
「うえぇ……?」
そう、なの……? ぅおっ…とぉっ…とぉ~、もう、立ってりゃれん……。
「うぅ、ルギィさん……。すわってもいいれふかぁ……。」
「ん? あぁそうそう、料理もあるからなぁ、食べながらジャンジャンやろうじゃないかっ。
どれ、ワシはここらでテンプルプランブランドのノスタルジックを呑もうかの!」
「いやっほ~~~~~! サイ&コ~~~~ウ!!
アタシはウィルロータスのロマンティックディザスターにしよ~~っと!」
おれたちはしばし、おいひいおろうりを食べながら、楽しくはしゃぎまひた~。
くひぃ……。
「るくだんるんぶんぐぅ~ん……。」
ポップパンクは上がる。




