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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第一部 終章 ノー スリープ フォー ルーシィ
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Verge_5

「おいヒロシィッ!! 大盛り4つと中盛り1つ持ってったかよ!?」


「はい! そっちはオーケーです! その後の特盛り2つも出てますっ!

 新たに特盛1つオーダー入りましたー! 紅ショウガモドキ多めです!!」


「あいよーーー! やるじゃねーかヒロシッ!! ヘヘッ!

 あっ!! しまった!? 紅ショウガモドキがっ!! もうねぇ!!」


「ボーラさん、それならさっきそこに出しておいたよっ。

 マヨネーズと細切りチャーシューもっ。次、キャベツ切っとくねっ。」


「おぅファラ坊ッ! ナイスアシストッ!!

 シャアオラァ!! このままフィナーレまで一気にブレイクスルーすっぞ野郎どもぉっ!!」


「うーっす!!!」


「さぁ! おあがりよっ!!」


 ボーラさんの屋台を訪れたのは17時より少し前――いよいよ花火が始まるという頃。

その為屋台の前には長蛇の列ができており、俺達は話す間もなく戦場へと駆り出された。


「うっほおおおおおおおおっ! この麺もっちもちだぁ!! こりゃ相当素材にこだわってるぞ!?」


 俺は列の最後尾にいるヒトから常にオーダーを取り、出来上がったモノから順番に提供。

ファラは調理のサポートと食材の用意――


「んっはぁぁぁああああんっ! なんて! なんてフルーティでジューシーなソースなの!?

 これは! これはもう異次元の味よぉぉおおお!!」


 そしてボーラさんはひたすら鉄板を引っ搔き回していた。

他の追随を許さない圧倒的なチームワーク、どっかのエリート料理学校のそれを軽く凌駕する見事な焼きそば――


「ぐっはああああああああ!! うっ! うますぎるっ!

 儂は今までこんな美味い焼きそば食ったことないぞぉぉおおお!

 シャキシャキキャベツ! 食べ応えのあるチャーシュー!

 そして何よりこのもっちもちの麺とソース! すべてに抜かりがない完璧な仕事っぷり!!」


 そしていよいよフィナーレ、凄まじい花火の爆音とお客さんの猛襲にも俺達の完璧な陣形が崩れることは一切なかった。

しかし唯一これだけは見過ごせないという問題があった。


「いぃぃやぁぁああああああんっ!!!!」


「んっはぁぁあああああああんっ!!!!」


「ぐっはぁぁああああああああっ!!!!」


「うっほぉぉぉおおおおおおおっ!!!!」


「んにゅぅうううううううううっ!!!!」


 ー こんなのっ!! だっメ~~~~~ン!! ー


 そう……。

老若男女問わずボーラさんの焼きそばを食べたお客さんは一人残らず、恍惚とした表情を浮かべて服が爆散したのである。


「……。」


 こんなの初めて……。

日々ボーラさんの料理の腕も上達しているって事なのか?――


「オソマツッ!!」


 ボーラさんが頭に巻いたタオルを握りしめて、決め顔でそう言った。

焼きそばのボーラ、のら。


「ふぅ、今日もおわったな……。さてと、飲み物取って来るか。ヒロシ、ファラ坊、お茶でいいか?」


「あ、はい。」


「はーいっ!」


ボーラさんが飲み物を取りに行ったその瞬間、最後に大きな花火が一つ頭上に高く上がり、まるで俺達の勝利を祝福するかのように盛大に弾け、鮮やかに空を染めた。


「うおぉ……。」


 思わず見惚れた。

思えば俺はフィナーレまで見たことなかったんだ。

初日は途中で疲れて帰ったし、2回目はヒケコイ読んでるうちに寝ちゃったし。

ひと汗かいた後だからだろうか――胸がいっぱいになって鳥肌が立った。

俺は空に堂々と咲き誇る大輪をこの目に焼き付けた。


「ファラ……。俺、生きててよかったよ……。」


「むぐっ……?」


 そう。これまで本当に大変だったんだ。

初めてボーラさんの屋台を手伝ったあの日……。

俺は散々ザコだのカスだのボケだのとコケにされて、挙句屋台を放り出されたんだ……。

あれから何度か、叱られながらもめげずにやってきた。

血のにじむような、涙も枯れるような――そんな日々だった。

ゴミ扱いされ、嫌がらせをされ、ツバを吐かれ、売れ残りを投げつけられ。

後で掃除しとけよカスっ!! て――ボーラさんはよくゴミ箱を蹴っ飛ばして八つ当たりしていたっけ……。


お前のカーズ顔のせいで焼きそばが不味くなった。

お前のカーズ顔のせいでチャーシューの仕込みに失敗した。

お前のカーズ顔のせいで客が全然来ねー。

お前のカーズ顔のせいで発注ミスした。

お前のカーズ顔のせいで…

お前のカーズ顔のせいで……

お前のカーズ顔のせいで………


 それはもう死にたくなるくらい――さんざん指導されたよな。

ふふっ、一度は舌を噛み切ろうとホントにベロを嚙んだっけ……。

まぁ結局、度胸が無くって血の一滴すら出なかったんだけどさ。

まだまだひよっこな俺だけど、それでも今日――ようやく最後までやりきったんだぜ……。

おまえさ――よく頑張ったよ――


「うっ……。」


 あれ……。なんか、胸がいっぱいで苦しいや……。

へへっ……。

今日くらい、胸張って泣いても良いよな……。


「うっ、くぅっ……。」


「しー君まかない冷めちゃうよ??」


「あぁ……。ありがとう……。」


「ん~~~! うまし~~~!!」


「……。」


 常に俺のロマンタイムを邪魔にし来るこのアホウシめが……。

今も口の周りに食べカスを付けて、口いっぱいに焼きそばを頬張っている。

なんでお前の服はバカみてーに爆散しねんだよ。


「あのよぉ、お前もうちょっとデリカシーとかねーのか?」


「デリカシー……?? それって美味しいもの??」


「ふぅ~。2人ともお疲れ様っ。今日も大変だったわね。はい、お茶。」

 

「ありがとうございます。」


「むぐぐぐぐぅむぐぐぅっ!!」


「飲み込んでから喋れよ……。行儀わりーなぁ。」


「あらあら、うふふ。それにしてもヒロシ。凄い成長したじゃないっ。いろんなことがあったけど、本当によく頑張ったわね。」


 えっ……。

そんな――嘘みたいだ……。


「はっ! ぐっ! ボーラさん……。俺……。俺……。」


「本当に、立派になったわね……。ヒロシ。」


 ボーラさんに、認められた……。

俺が。

俺みたいな――カーズ顔のカスが……。

認められたんだ――

 

「あらあら、よしよし。ヒロシはいい子……。ヒロシはいい子……。」


「俺は、ヒロシじゃ――ないです……。うぁぁあああああああっ!!!」


 ボーラさんのゴツイ腕に抱かれながら、俺はしばし漢の涙に顔を濡らした。

けれど俺は、ヒロシじゃない。

くっだらねぇ、早く話進めろよ。

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