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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第一部 終章 ノー スリープ フォー ルーシィ
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Everything I Never Was_3

「フレンとワタシはね、ケズトロフィスの出身なの。」


「え? ケズトロフィス――って……。」


 ケズトロフィスの大災害――そのワードが脳裏に浮かぶ。

何か嫌な予感がした。


「その様子なら、話くらい聞いたことがありそうね。あの未曽有の大災害のこと。

 ――そう、フレンとワタシはあの大災害で家族を亡くしたの。」


「あの、すみません……。

 お恥ずかしながら、その大災害については詳しい話を聞いたことが無くて……。教えていただけませんか……?」 


「あら、そうだったの? ファラちゃんアナタは?」


「アタシは知ってるよ? おじいちゃんから少し聞いた程度だけど。」


「え? お前知ってたの?」


「え? うん。」


「……。」


さも当然のようにファラは頷くが――


「ん?」


 盲点だった――そりゃそうよ……。

チーさんと一緒だったんなら大体の疑問はコイツに聞けば解決したんじゃないか?

しかしまぁ、コイツといるといっつもトラブルに巻き込まれるから、なかなかそーゆー踏み込んだ話まで発展したことないんだよな……。

それに、そうだよ。ノーマルが何か訊いた時も知らないって言われたし――なんかコイツ、頼りにしていいのかどうなのか、今一わからない。

ファラは先ほどから目をパチクリさせながら、それが何か? というふてぶてしい顔をしている。あー折りてぇ。クイッと。クイッと――


「それじゃあ、シーヴちゃんには少し辛い話になるかもしれないけど、アナタたち二2人にとっても大切なことだから、聞いて頂戴ね。」


 そういうとボーラさんは目を伏せ、小さくため息を漏らした。

それはたったの20年程前の出来事――けれど恐らく、この世界のこれまでの常識を変えてしまうほどの大災害だったんだろう。 

少しの沈黙の後、緊張した様子のボーラさんが静かに語り始めた。


「ここケズバロンから北へ向かうと、綺麗な海に囲まれたケズトロフィスという街があったの。

 今のケズバロンなんて目じゃないくらい、大きな大きな都市だったわ。

 街の人口も観光客も、少なく見積もってもここの10倍はいた。

 それこそ当時はケズバロンなんて田舎扱いだったくらいだから、この20年で随分変わったのね。

 ワタシとフレンはその頃からもうケズバロンで寝具と家具のお店、アウルシティをしていたわ。

 あの頃はちょうど仕事が軌道に乗ってきたばかりで大変で、ケズトロフィスの家になんて殆ど帰れなかった。

 それが幸か不幸か、お陰でワタシ達はケズトロフィスの大災害を免れたわ。

 多分、街に居て生き残ったヒトなんて――数えるほども……。いなかったと、思う……。」

 

 落ち着いてそこまで話すとギュッと眉間に皺を寄せて目を閉じ、声を詰まらせて黙り込んでしまった。

もう20年も前の出来事――それを今、思い出すことすら苦しいのだろうか……。

話が進むにつれ、ボーラさんの顔色が悪くなっていくのを感じた。


「あの、ボーラさん――大丈夫ですか?」


「えぇ……。ご、ごめんなさいね……。

 今でも思い出しちゃうのよ、あの知らせを聞いた時のこと……。

 空気、匂い、呼吸、心臓の音――頭が急に痛くなって、急に吐き気と眩暈がした。

 フレンは目を見開いたまま膝から崩れ落ちて放心していたわ……。

 本当に、本当に大勢のヒトが、亡くなったの……。

 行方の分からないままのヒトも含めると、約2160万人――」


「は……? に――」


 え……。

にせん、百……?

なにかの、間違いじゃ、ないのか?

ヒトって、そんなにたくさん、一度に死ぬのか?

ふと隣に腰掛けたファラを見る、特に驚いた様子はない。

これ――本当なんだ……。

本当に、そんなにたくさんのヒトが、一度にこの世界から消えたんだ……。

これが、ケズトロフィスの大災害……。

あまりの死者数に、現実味がない……。


「あの、一体、その時一体何が起こったのか、聞いても良いですか……。」


動揺が言葉に出てしまった俺の問いに、ボーラさんは大きく深呼吸をすると、落ち着いた様子で再び話し始めた。


「正直なところ、正確な原因は解っていないの。見方によっては自然災害と言えなくもないから。

 けれど――ファラちゃん、ごめんなさいね……。」


「ん~ん、いいの。気にしないで。大丈夫だから。」


 え……なんだ?

急にボーラさんが申し訳なさそうに謝ると、ファラは何かを察したように笑顔で頷いた。

なんで、ファラに謝る必要があるのだろうか――


「事情を知るヒトや、街から離れていたほとんどのヒトは、業苦のせいだと言っているわ。」


「――業苦?」


「えぇ、リンネの業苦。

 生き残ったヒト達の話だと、あの日、大災害の起こる直前――大声で泣き叫びながら街を慌てて駆け回る翼人がいたそうなの。

 街が落ちる、街が落ちる、みんな逃げろ、みんな逃げろって。

 そして、ケズトロフィスを襲ったのはソイツの業苦だったって。」


「……。」


「災害が起こったのは街のヒトビトが寝静まる真夜中だったの。

 突然足元からズンッと、何かが突き上げるような、体が浮くほどの強い振動を感じたそう。

 次の瞬間、街が、まるごと沈んだ。

 そしてね、街が沈んでいく傍から、周りの海の水が流れ込んだの。

 本当に、一瞬。本当に、あっという間、街のあった場所は海の一部になったそう。」


「……。」


何を、言えばいい――


「……。」


 わからない――何も言えない。

何も知らない俺が、先に口を開くことが許されない気がした。

俺は今どんな表情をしているのだろう。

ボーラさんが俺の目を見て申し訳なさそうに視線を落としていた。


「その翼人の男はね、以前から自身の業苦の事で悩んでいたそうよ。

 俺は時々、夢に見たことが現実になる――そしてそれは外れなくなってきているって。

 勿論それでも外れる事はあったし、たまには良い事もあった。

 そのお陰で救われたヒトも大勢いたそうね。

 予知夢、未来予知――この場合そういう言い方をするのかしら。

 だから街のヒトからは感謝されていて、それこそ奇跡の様に扱われていたの。

 けれどそれが良くなかったのね、男には居場所があったから……。

 愛されてしまったから、街を離れるタイミングを失ってしまったんだと思う。

 男はその災害で亡くなったわ。

 だから結局、男の業苦のせいなのか、自然災害なのかは未だによく解らないの。

 それが、20年前のケズトロフィスの大災害ね。

 それとね、翼人の男はその翼で、本当なら一人でも逃げられたんだと思う。

 けれどきっと彼にも、大切なヒト達がいたと思うの。

 だから彼も一人で逃げるなんてこと、出来なかったんじゃないかって、ワタシは思ってる。」


「……。」


 ファラは相変わらず無言だ。

何を考えているのか、その表情からは解らない。


 けれど――全部、知ってたんだな、お前。

確かシルフィさんは、ケズトロフィスの大災害の後からヒトビトは業苦に対して過敏になったと言っていた。

それは、そうだろう……。

むしろ黒印持ちが迫害されていてもおかしくない程の出来事だ……。

なのに、この世界のヒト達は。

ボーラさんは――


 あぁ……。

仮に俺に家族がいたとして、全員その大災害に巻き込まれていたとしたら、俺は許せただろうか……。

受け入れられただろうか……。

割り切れただろうか……。


そんなわけ、ないじゃないか――


 ふと、あることを思い出した。

あの物悲しいオルゴールの戦慄。

作りかけの小さなベッドに刻まれた名前……。

ルーシィへ……。

その夜の夢を――




もうすぐだ――




もうすぐ…帰れる――




もうすぐ帰るから――




あの必死なフレンさんは――あぁ……。これは、やりきれねぇや……。


「フレン…さんも――」

 

 俺は、ようやく出掛かった言葉にすら声を詰まらせていた。

言葉にすることが重かった。

胸を締め付けられ、喉の奥からギュッと言葉を押し潰されるのを感じる。 




痛い――




辛い――




 ヒトの事なのに、こんなに苦しい……。

俺がこんなに苦しいなら、このヒト達は……。

フレンさんは……。

今どんな思いで生きているんだよ……。

俺、何も知らないで――

 

「しー君……。ちょっと、休む……?」 

 

 そう言われて、ファラの表情が暗く曇っていることに気付いた。

あぁ、また……。余計な心配かけただろうか……。

お前の方がよっぽど辛い思いしてきただろうに。

コロさんの時といい、この思悩む癖、早くなんとかしないとな。

ファラに心配されるようじゃ、半人前ですらねぇじゃんか。


「そうね。この話は一度ここまでにしましょ。それに今回の件とはまた別だしね。

 飲み物冷めちゃったわね、ちょっとコーヒーでも入れようかしら。」


「え?」

 

 そう言うとボーラさんはよっこらしょーいちっと席を立ち、台所へ向かった。

そうか、飽くまでケズトロフィスの一件はフレンさんが心を閉ざす引き金でしかないのか……。

いや待てよ……。

それにしたって、働いたら負けだって――どういうことだ……。


「……。」


 ダメだ。

どうしてもそこだけは理解が出来ねぇ……。

俺は冷めてしまったお茶を飲みながらお茶菓子に手を伸ばした。

頭を回し過ぎたし、甘いものでもと思ったのだがしかし――


「あ、あれ……。」


 俺の指先は何度お菓子を取ろうとしても空をかすめるばかり。

YES――もう、ない。

OK――アイアムわかってる。

アイアムチラッと隣のデブウシを見る。

整った綺麗なバカ面をよく見ると口元にクッキーのカスが付いてる。


「おいお前よぉ。あの重苦しい空気の中よくこんだけ茶菓子食えたな……。」


「え? なんのこと?」


「口に、クッキーのカスついてるぞ。」


「あら、やだもう……。あっははっ。」


ファラは頭をかいてヘラヘラと恥ずかしそうに笑い、口の周りを手で払っている。


「……。」


「ん???」


 そして「しー君どったのん?」とでも言うかのように白々しく目をパチクリとさせている。

なんかもうなんも言えねぇ。


「ボーラさんすみません。ファラがお茶菓子全部食べちゃったみたいで。俺なにか買ってきます。」


「あらそう? 悪いわね。それじゃあお言葉に甘えようかしら?

 そろそろお昼だし、ワタシは何か作って待ってることにするわ。ごはん、食べるでしょ?」


「あ、はい。ありがとうございます。ほらファラ、行くぞ。」


「わーいっ! 美味しいモノたっくさん食べれるのね~~~っ! ひゃっは~~~~~!!」


「……。」


「あらあら、うふふ。」


 時刻は11時前――俺はファラを連れて一度街へ買い物に出掛けた。

扉を開いた途端、住宅街だというのに怖い程の喧騒がザワザワと流れ込んで来る。

それは、先ほどの重苦しい空気が、まるで夢であったかのように感じられるほどだった。


「あ? なんだありゃ? おいみんなみろぉ!」


「は?」


俺達がボーラさんの家から喧騒の中へ出た途端、こちらに気付いた一人の男が俺達の方を指さして、周りに知らせるように大声を上げた。


「ヒト食いボーラの家から巻きウンチとウマモンが出て来たぞー!」


「ほんとだっ! へんてこなクソブターバン被りやがって、バカじゃねーのっ!!」

 

「おいアイツよくみりゃカーズマンだぜっ!!」


「はーっはっはっはっ! クソブターバンにジョブチェンジだーーーっ!! バーーーーーーカッ!!」


 ー あーはっはっはっはっはっ!!!! ー


「……。」


帰ろう。

ひでぇ話だ。

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