線香花火_1
ヒュウゥ~~~………ドドドン!! パパパパッ!!
ゆったり、まったりと、ダバに揺られて数十分――いよいよフィナーレなのだろう。
遠くにケズバロンの街明かりがあり、そこから打ちあがる無数の花火が見えた。
微かに聞こえてくる花火の音――それが盛大なフィナーレを物語っている。
「花火ってこんなに離れても見えるモノなのね~。――ねぇ、こーやって静かに眺める花火も乙なモノじゃない?」
「あぁ、そうかもな。ダバに揺られてのんびりと――こーゆーのも意外といいもんだ。」
空には星が零れるほどいっぱいに広がっている。
ケズバロンの明るい街の中からはほとんど見えなかった星に、微かに聞こえてくる花火の音が優しく耳に広がる。
なんだかんだ、良い夜だろう――
「あ~ぁ、楽しかったなぁ~。思い出すだけでお腹が空いてきちゃうもの。
ねえねえ、明日も行きましょ? まだまだ食べられなかったもの沢山あるのっ!」
「もうお前とはいかねーよっ! 行きたいなら一人で行け!」
「ちょっと! 酷くない?! 誘ったのはしー君の方なのに!
わーーーーー! やだやだやだやだ!! 行きたい行きたい行きたい!! しー君と行きたい行きたい行きたいーーー!!」
「あーもうっうるさしうるさしうるさしーっ!!」
ほら皆見て! ファラのクソうざ特殊スキル、駄々っ子が発動したよ! ほら!
そんでこうなるともう手が付けられない。
俺が逃げられないのを良い事に、ファラはダバの上でバタバタと手を振り回してキーキーと喚いている。
もはや風情も何もあったもんじゃない。
「わかった! わかったから! それじゃあ家に着いたらもっと良いものやるからっ! それで我慢しろ!」
「良いもの? それって美味しいものなの……?」
ピタッとファラの挙動が止まり、不思議そうに首を傾げた。
「あぁそうだ。とびっきり美味いものだ! でもこれ以上駄々をこねたらやらない!」
「うぅ、わかったよぉ……。ごめん……。」
え、まじでコイツ――バカすぎんだろ……。
逆に罪悪感に押し潰されそうになるから急にシュンとするなよ、俺が悪いみたいじゃん……。
それからファラは、何故か俺が話しかけても一言も発することなく、家に着くまで本当に黙り続けてて逆に気まずかった……。
***
「くぅ~~ん、アホ……。」
そんなこんなで俺たちは喧嘩中の同棲カップルの様に一言も言葉を交わすことなく家に着いた。
ふふっ、パトラッシュは気持ちよさそうに眠ってるや。
「ねぇしー君、良いものってなに? はやくちょうだい?」
おまえは乞食かっての。
あと急にベラベラ喋り始めるのやめろ、腹立つなぁ。
散々無視しやがってよ。
「ん、あぁ、持ってくるからちょっと待ってろー。俺がいいって言うまでこっち向くなよー。」
「はーい。い~いもの~い~いもの~しー君のい~いもの~。」
へっ、馬鹿女が――目に物を見せてやるよ。
俺はファラを残して家に戻り、昼にアスから貰った袋を持ってひっそりと外へ出た。
そしてそこからロケット花火を数本取り出し、その内の一本にマッチで火をつけ――
「も~い~かい。」
「まーだだよ~! うひひ!」
ファラの背中目掛けて勢いよく……!!
シュバ…!!
「ギャンッ!!!」
ぃよっしゃぁ!! バーローみさきぃっ!!
撃ち放ったそれは見事ファラの背中に命中し、衝撃に驚いたファラが飛び跳ねると同時にパンッ!! と思いっきり弾けた。
「プッ! アハハハハハハ!! ざまみろハゲーっ!! ぅわぁゲッホぉ!! ゴッホッ!!」
わ、笑い過ぎてむせた……。
けど――いや~! 最っ高っ!!
ファラは大層驚いたようで目を見開いてこちらに振り返ると、地団太を踏みながら大声でギャーギャーと喚き始めた。
へ! 踏んだりっ蹴ったりっラジバンダリッ! ってなもんよっ!
「いったーーーー! ちょっと!! ひどい!! そーゆーのヒトに向けて撃っちゃいけないんだよ!」
「ゲホッ! ゴホッ! ――し、っ知るか! 日頃の恨み、今ここで晴らしてくれるわ!」
「嘘でしょ? ――この、ゆるせない!」
ボウッ!!
「血も肉も心の臓も灰になるまで燃やしてやる……。」
ぉえ……? まじヤバくね? 目がマジだよ?
「あ! おい! 魔法はズルいだろ!! 爆発する! 花火爆発するから!!」
「焼け死ねやーーーーーー!!」
ファラはトゥズの魔法で両の手のひらにゴウゴウと着火すると、鬼の形相でソレを振りかざし、キェェエエエエエ!!!! と奇声を上げながら凄まじい速度で走ってきた。
俺はあまりの恐怖に思わず逃げ出してしまい――
「まったく、こんなに沢山――どこで買ってきたの?」
「ハァ! ハァ! おまえ! 卑怯だぞ!」
「とりあえず、こんなもんかな~?」
あろうことか袋ごと落とした花火をそのまま全て奪われ、その中身を見たファラが呆れた様子でため息をつきながら、ロケットのみを次から次へと取り出すのだった。
「覚悟してよね! しー君!! 男に遊ばれた女の恨みは怖いわよ!」
「わー! ちょまちょま! なしなし! その量は死ぬーーー!!」
そこからは、防戦一方、だった。
ファラには無尽蔵の弾薬、ノータイムで着火できるトゥズの魔法。
しかも魔法でロケット花火の巨大化まで。
俺はと言えば数本のロケットと、マッチと、ラジバンダリ。
初めから勝負は見えてた。
俺は黒焦げのズタボロにされて奴隷のように蹲り、騒ぎを聞きつけて飛び起きたパトラッシュに慰められていた。
撃ったり、撃たれたり――ラジバンダリ……。
「シーヴ!! アホッ!! アホッ!!!」
「うぅ……パトラッシュ、俺、疲れたんだ……。なんだか、とても眠いんだ……。」
「アホッ!! アホッ!! パンッ!!! シーヴ!! アホッ!! ヘッ!!」
「あ、しー君、袋の底にまだ何か入ってるよ。これも花火なの?」
そういってファラがスカスカの袋から取り出したのは――
「あ、それ、たぶん線香花火だ。一本貸してみろよ。」
「??? うんっ。」
ファラから一つ貰って確かめると、やはり線香花火だった。
早速マッチで先端に火をつけると、静かにその灯はプスプスと可愛らしい音を立てて燃え始め――
「わぁ、綺麗……。ねぇ、これも最後は爆発するの?」
「するか! これはこーやって眺めるモノなのっ。ほら、揺らすと火の玉落ちちゃうから慎重に持てよ?」
灯のともった線香花火をファラに渡すと、呼吸も忘れて不思議そうにその灯をジッと見つめていた。
…………あ、れ――
あぁ、この感じ……まただ……――
今日何度目かの眩暈と共に、線香花火の明かりが滲むように眼前に広がっていく……――
急に笑い過ぎてムセる事あるよね。




