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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第一部 余談 打上花火
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打上花火_5

「あ! あーーーー!!」


 突然ヒト気のない屋台にキラキラと目を輝かせて嬉しそうに駆け寄って行くファラ。

見ればなんてことはない、そこはカブトムシを売っている屋台のようだった。


「おい、あんま勝手に離れるなよ。こんどは俺たちが迷子になるぞ。」


 また逸れられては堪らない――しかしこれじゃまるで子供の御守りだ。

そう思いながらも、先ほどから俺はファラから目を離さないように気を付けている。

何しろ迷惑をこうむるのは俺の方なのだから。


「いらっしゃい。仲いいねぇ、カップル? いや兄妹かな?」


「違いますよ……。どうしたらそう見えるんです。」

 

「え? そうなのかい? それじゃあお忍びかな?」


「もっと違いますって……。ただの旅仲間ですよ。」


「どうかなぁ? お忍びのヒトは皆そう言うからなぁー?」


 瞬間、どこに隠していたのか判らないが、躊躇いなく刃を抜く音が隣から聞こえた。

ファラ、やるんだね。

言わなくてもわかるよ、目が笑ってないもん。


「ちょ! 嬢ちゃん! そのエモノどっから出した!!」


「しー君、このヒト切っていい? 良いよね。」


「いーよー。」


「ちょちょちょ! 待って待って! 死ぬ! 死ぬから!――まったく最近の若い子はすぐ殺したがるんだからぁ。」


 アンタがしょうもないこと言うからだろ。

みればこの胡散臭い店主の格好も相当に変わっていた。

黒く焼けた肌。ちょび髭。

金髪のオールバック、謎の素材でできたサングラス。

アロハ模様のシャツ。短パンにつっかけ。

なんだこのヒト、なんちゃってワイハかぶれか?


「キミたちカブトムシ好きなの? ウチのはすっごいよ? 例えば――ほら! クワガタカブトゼミィ!!」


ジジジジジジジッ!! ジジッ!!!


え――


「キモい……。」


 そもそもカブトムシじゃねーじゃねぇか。

色々合体してるしキモくてうるせぇ。

てか欲張りすぎだろ。いや待てそこじゃない。まずセミの要素はなんで足したんだ。


「え? だめ? おっかしぃなあ……。そんじゃこっちはどうだ! ヘラクレスオオカブトゾウムシ!!」


「いやだから! それゾウムシなんだろ?! カブトムシじゃねーじゃん!

 あと普通にキモいのよ! ツノも全部グニャッと垂れてて!」


「だーもう! わがままなマーマレードボーイだなぁ! そんじゃうちのとっておき!!! ゾウゼミィ!!」


ジジッ!!!


クソのら。


「ねーねーおじさん、これも売ってるの?」


ワイハと漫才の打ち合わせをしていると、突然ファラがワイハの脇のしょぼい虫かごを指さして何かを期待するようにそう問いかけた。


「ん? あー売ってるよ。けど残念、ソイツは失敗作。普通のカブトムシなんだ。」

 

 んでだよ、それでいいだろ。

しかし何故かワイハは店一番の目玉商品を貶し、顔の前で手を振って渋い顔をする。

お前がこれまでに生み出した不毛なキマイラの方がよっぽど残念でならねぇよ。 


「ん? 違う違う。アタシが言ってるのは、こっち。」


 しかしファラはさらに虫かごの奥の方を一生懸命に指さす。

はて、なんだろうか――その指の示した先にあったのは、なんてことはない、ただの虫ゼリーだった。


「ん? あぁ? 虫ゼリーかい? 勿論売ってるよ? お嬢ちゃん、カブトムシ飼ってるのかい?」


――あ。


「……? 何言ってるの? アタシが食べるのよ。」


 あいやー、やっちまった。

こんだらずが――ホント何言い出すんだ頭大丈夫か?


「…………。」


ワイハ固まっちまったじゃねーか。


「はっは~ん? さてはおじさんモグリね? この美味しさは、正にナイアの風物詩なんだから。」


「へ、へー……。あ、っそぉ~うぅ……。」


 いよいよ華も恥もあったもんじゃない。

ファラはチッチッチッと右のヒト差し指を揺らしながら得意気に語り始めた。

ワイハも相当変わっていたが、その店主がマジでドン引きしていたので流石に気まずい。

関わりたくないから向こう行こっと――


チリン……


「え――」


 ふと、懐かしい音が聞こえた。

なんだろう――なんでこんなに、愛おしい……。

あの音色は――


チリン…チリリン……


その素朴な音色に惹かれ目をやると――揺れる度、燃えるように光る真っ赤な風鈴が見えた。


「凄い――」


俺はいつの間にかそちらへ吸い寄せられていた。


 「綺麗だ……。」


 心を洗われるような真っ赤な明かり、思わず見入ってしまったが、これはきっと風鈴だ。

けど一体どんな人物が作ったのだろうか、とても繊細で淡く儚い。

けれど優しさに包まれるような温かさがある。

恐らくはリンネ、それも日本出身の人物か、或いは日本文化に精通した何者かが――


チリン…チリリン……


そしてこの音色。これは――


「あの、これひとつください。」


「お、お兄ちゃんお目が高いねぇ! それはフーリンの中でも超上物!

 フーリン作家随一の天才! その名も!!! あーえっと……。いっけねぇど忘れしちまったぁ。

 えーと、えーと、たしかタ、タ、タカ…いや、タケ――」


「タケー……?」


「タケ、ダシンゲン……?」


「クソボケんがぁぁあああッ!!」


「そう天才タケ=ダシンゲンの遺作! フーリン・カザン!! だ!

 あっ! ふぅりんかざんん~ってな? 知ってるか!?」


「知るかんなもん! もぅいらねーよ! クソっ! 潰れちまえこんな店!!」


「え? なにどしたん? なんで怒ってんのよ兄ちゃん。」


 ここに来てこんな不快な思いをするとは――少しでも心を奪われた自分が憎い……。

しかし俺が苛立ちを抱えたまま屋台を離れた直後、風鈴屋の前にわらわらとヒトが集まってきた。


「え? タケさんのフーリンカザンだって? すっげぇ! 本物だ! これ! これ一つくれ!!」


「まいど!」


「なに?! ダシンゲンのフーリンカザンだと? 俺にも一つくれ!」


「はいはいまいど!」


「ほう、これは見事なフーリンカザンじゃ! さすがは神童ダシンゲンの遺作じゃなぁ!」


「まいどまいど!」


「おっちゃん! まだあるかい! うちの家内がタケさんのファンなんだ!」


「まいど! ありがとうございやしたぁ!!」


クソのら。


「あれ……。」


 ふと、気が付いたことがある。

みんなが、いない……。

あれ、そーいやファラもカブトムシ屋からいなくなっている。

どこ行ったんだろう。

…………。

俺、ひょっとして今、迷子か――




***




「どうしYO……。どうしYOったら、どうしYO……。」


 あれから数分――見事なハイブリッド俳句をブツブツと呟きながらみっともなくウロウロしていたら、見覚えのある美しい女性がヒトゴミの中に見えた。


「あれ、シルフィさん? うわ! シルフィさんだ! おーーーい!! シル――って、え?」


 そう、俺は遠くに白カラスのクロちゃんを肩に乗せたあのシルフィさんを見つけたのだ。

後ろで束ねた栗色の髪に、少し子供っぽい朝顔柄の白い浴衣がそれはもうなんとも可愛らしい。

しかしブンブンと子供みたいに手を振ってシルフィさんを呼んだ時、彼女が知らない背の高い男性に笑顔で駆け寄って行くのが見えたので――ゲボォ……。


「お? え、どゆこと? もしかして、彼氏??」


シルフィさんは戸惑う俺の事など気付く様子もなく、その男性と笑顔で楽しそうに談笑しているゲボォ……。


「ごめんシルフィ、待ったかい?――」


「ん~ん。でも30分も遅刻なんて、マサハルさんじゃなかったら私怒ってますよ?

 さ、早くいきましょ? 遅れた分まで、しっかり付き合ってくださいね――」


「あっははっ……。まいったなこりゃこりゃ……。――」


「うふふっ。――」


――まるで、その会話が聞こえてくるようだった。

まぁ、そんな話をしている気がするだけだけどさ――ゴフッ……。


 間もなく、優しそうなその男性の手を嬉しそうに引いて、シルフィさんはヒトゴミに消えて行った。

おい~……。まじかYO……。

まぁ、シルフィさん明るくて優しくて可愛いし――彼氏いてもおかしくないけど……。

それにあの男性も良いヒトそうだったし……。

くぅ……。現実ってなぁ厳しいなぁ。


「いった! あ、すみま……あ!!」


「ってぇなハゲ! 気ぃつけろやっ! って――」


 あいやー、そんなことを考えてボーっとしていたらまたもヒトにぶつかってしまったのら。

いや、ぶつかられた――という方がこの場合は正しい気がするが―― 

見れば、今日ここに来て一番最初にぶつかった後頭部ハゲの……あのゴロツキじゃねーか!!


「オメェコラァこの薄らトンカチ!! さっきはよくもっ!! ゥキャーーー!!」


「あぁ? またてめーかこのハゲ!! あとさっき言い忘れたが、浴衣似合ってねぇんだよ! ラブアンドピースだぜ!!! ぺっ!!」


うっ!!


「ぐっ――うぅぅうぅううううううっ!! は、ら、がぁぁああ……。」


 っきしょう! ふざけ、やがっ、て……。

なんでどいつもこいつも俺の顔見るとラブアンドピースしてくんだよ……。

なんだよラブアンドピースって!! 偽りの愛と平和を振りかざしやがって!!

あと俺はハゲじゃねぇ!! 浴衣の事ももう言うんじゃねぇ!!!


 本日3度目の腹痛に苦しみながらその場に蹲って俺は嗚咽混じりの半べそを掻いていた。

なんかいよいよ、凄い惨めな気分になって来たぞ……。


「あ、お~い! しー君まってよ~。 って――どうしたの? ――ねぇ、だいじょぶ?」 


「う……?」


 聞き覚えのある声が後ろの方から聞こえ、俺が腹を抱えて蹲ったまま顔を上げると、そこにいたのは自慢げにフーリンカザンを見せびらかす――ファラだった。


「えっへへ~、さっき凄いヒトだかりが出来ててね~? ほら見て! すごい綺麗でしょこれ。買っちゃったーっ!」


「もー、お前それ買ってくんなやー……。」 


「え、なに? どうしたの?」


 あー、まぁ、もういいや。

ひとまずファラと合流できたし、少し休みたい……。

メノさん達は俺たちがいなくなった事に気付いてない可能性もあるしな……。

それに今日はなんだか凄い疲れたよ――


「しー君、ほんとに大丈夫? 顔色悪いよ? 虫ゼリー、食べる?」


「いらねーよっ!!」


 あっく……叫んだらまた腹が――まさか、後遺症か……?

この調子じゃフィナーレまで身体が持たない気がする。

うぅ、遂に眩暈が……。過労と腹痛によるストレスだろうか――


「ファラ……。ごめん、ちょっと疲れちゃって、静かに休めるところないかな……。」


「……。それなら一度街の外に出ましょ。歩ける……?」


「あぁ、すまん……。」




***




 その後俺は惨めにもファラの肩を借りて街の外へ。

ヒト気の無いベンチに腰掛けて気を休めていると、流石にここにはほとんどヒトがおらず別世界のように静かだった。

虫の声、風の吹く音、星と月、そして少し遠くに聞こえる花火と賑やかなヒトビトの歓声――

なんだか、穏やかだ。安らかで、落ち着く――


「しー君、疲れてるならもう帰りましょ? 

 アタシも沢山美味しい物食べれて満足したし、色々あったから疲れちゃった。」


「そう、そうだな……。なんかごめんな、今日は面倒かけてばっかだ。」


「もう、そーゆーの無しって言ってるでしょ。ダー君連れて来るからここに居てね。」


「おう、ありがとう。」


 景気よく弾ける花火の音、また楽しそうな歓声が上がった。

夜はきっと、これからもっと賑やかになる。

その沸き上がる熱気に押し負けて、俺は早々に退場することになったが――正直言うと、なんか思ってた夏祭りとちょっと違ったわ……。

腹痛と暴力と虫ゼリーとクソダサラップバトルの事しか覚えていないYO……。

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