貴族ボルドーダの末路
カンザの町の教会の中は、重苦しい雰囲気で静まりかえっていた。
軽蔑の表情を見せている司祭たちが、ボルドーダを見下ろしていたのだ。
「ボルドーダ卿よ……。教会の神聖なる『武具天臨の儀式』を私物化して、珍しいアーティファクトを得た少女を誘拐。それに民への暴力。あげくに鍛冶屋を破壊までしたと言うではありませんか。貴族にあるまじき行為ですよ、これは……」
「司祭様方!! それは、きっと何かの間違いで……!!」
「貴重な聖具お作り頂いている信頼の置ける鍛冶屋や、周囲の人間からも証言を得ています」
ボルドーダは、しまったと思った。
くそ真面目な教会の人間に対して偽証は罪が重くなる。
他なら賄賂で何とかできるのだが、古くさい信仰に生きている人間は面倒くさい。
金と権力と暴力が一番の信仰だと何故わからない。
「き、きっと勘違い……そう、勘違いですよ!! マサムネという魔力無しのゴロツキがすべて仕組んだことで……! アイツが魔法を反射するアーティファクトを使って――」
司祭は呆れた表情で溜め息を吐いた。
「はぁ……。魔法を反射するアーティファクトなど、存在するはずがありません。今までの『武具天臨の儀式』でも確認されてないし、この世界の神聖なる原理である魔法を反射するなど神が許すはずもありません」
「で、ですが実際にはね返してきて――」
「いきなり人に翼が生えて空を飛んだり、魚が地面を走り回ったりすると言っているのと同じくらい、荒唐無稽な話ですよ。もしかして、頭がおかしくなって、今回のような行動を起こしたのでは? どうです、ボルドーダ卿?」
ボルドーダは怒りで震え、血管を浮かび上がらせ、醜悪な裏の表情を見せていた。
雷がモチーフのアーティファクトを出現させ、殺意を漲らせる。
「魔力レベル5の私を怒らせたな……。もう面倒だ、全員殺せばこの場は何とかなる!! 死ねぇーッ!!」
「――ということらしいです。どうぞ、お入りください」
「なっ!?」
司祭が合図をすると、教会の扉が開かれた。
瞬間、ボルドーダの周囲に光の矢が同時に数十本突き刺さり、それが鳥かごのようになって拘束した。
ぞろぞろと入ってきたのは、この国の宮廷魔法使いたちだ。
「な、なぜ宮廷魔法使いが……こんなところにいるはずが……」
宮廷魔法使いがザッと左右に移動して跪き、その奥には貴人が乗る豪奢な馬車が駐めてあった。
施された紋章は紫褐色、黒、緑があしらわれている。
中から退屈そうな女性の声が響いた。
「つまらん、つまらんのじゃ。妾――ベラドンナ・ワルプルギスをあまり退屈させるではないぞ、世の中」
「いきなり世の中に語りかけて、なんなんだコイツ……。い、いや、ベラドンナ・ワルプルギス!? 女王ベラドンナ様!?」
「ほう、ゴロツキでも妾の名を知っておったか」
「ご、ゴロツキなどではなく、私は女王様の国を支える貴族の一人でして――」
「貴族など興味がないのじゃ。妾の興味はそういうところにはない。まだ強いアーティファクトの使い手だったのなら目をかけてやってもよかったのじゃが――」
次の瞬間、ボルドーダのアーティファクトが光となって消えた。
「えっ!? 私のアーティファクトがなくなって……!?」
「魂に定着していた弱すぎるアーティファクトの魔法を消したのじゃ」
「えええぇぇぇえッ!? 私の大切なアーティファクトぉぉおおお!?」
「大げさじゃなぁ。あってもなくても変わらないレベルじゃろ」
「超すごい魔力レベル5ですよぉぉおお!?」
「妾、たぶんその基準だと100とか1000じゃぞ。あっ、そうそう。妾は興味ないがお家も取り壊しで」
「そ、そんな、ウソですよね!? ど、どうか考え直してくれませんか!?」
ボルドーダはショックの連続で目を限界以上に見開き、涙を流しながら懇願している。
女王の心は一ミリも動かなかった。
「妾は面倒だから消し炭にしてもいいのじゃが」
「ひぃぃぃいいいい」
「まぁ、殺しはせん。まだ聞きたいことがあるからのぉ。マジックカウンターを使うという少年のこと――何よりも興味があるのじゃ」
「は、話します!! 話しますから殺さないで!!」
「それじゃあ、拷問が得意そうな宮廷魔法使いの彼奴に――って、いない。どこへ行っておるのじゃ?」
控えていた宮廷魔法使いの一人が、少し言いにくそうに報告する。
「エグオンなら、ご執心のエルフを追うために出立してしまって……」
「はぁ……。面倒くさいが自分で、このゴロツキの脳をイジるかのぉ。あまりそっち系の魔法は得意ではないからすぐに壊してしまいそうじゃが……」
「ひぃぃぃいい!! 止めてぇぇぇぇええ!!」
ボルドーダの絶叫が響き渡るも、すでに張られていた防音魔法で周囲には聞こえない。
――その後、元貴族のボルドーダがどうなったか知る者はいない。




