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ゲーム間のTP補充タイム

 一回戦目が終われば、次のゲーム開始まで休憩時間が設けられる。

 デスゲームとは言っても、全員が自由参加なので拘束されたりせず、時間内に戻ってくればいいだけだ。

 施設の中だけでなく、外へ出ていても問題はない。


「随分と人数が減ったな……」

「そ、そうですね……。最後辺りに参加したウチが登録者ナンバー100なので、半分以下になったくらいですかね」


 ラブレスはゾンビ化からの回復でまだ身体が辛いのか、何かゲッソリとした表情だ。

 戦闘もあったし。幼い子供にさせていいゲームではない。

 許すまじ、ベラドンナ……。


 そんなことを考えながら、40まで減ってしまったTPに目が行った。

 さすがにこのままで次のゲームを戦うのは厳しいだろう。

 どうにかして補充をしなければいけないのだが、さすがにTP溜めで建物内の壁を殴りまくるわけにもいかない。


「ラブレスは疲れただろうから控え室で休んでいてくれ」

「あれ、どこかへ行くんですか?」

「俺はちょっと外で鍛錬をしてくる」


 嘘は言っていない。

 TP溜めで街路樹を殴りまくるのも鍛錬になる……かもしれない。

 これ以上話すとボロが出そうなので急いで控え室の扉を抜けて、建物の外を目指す。


〈マサムネ、急にどうしたの?〉


 フォティアが疑問を投げかけてきたので、なるべく小声で答えた。


「TPが40まで下がってしまったから、外の街路樹を殴ってTP溜めをしなければならない」

〈街路樹を殴るって……メチャクチャ目立たない? こっちの仮想の箱庭(エメラルドシティ)の中に入ってくれば?〉

「いや、万が一それを見られてしまってはまずい。ここでどうにかする、背に腹は代えられない」

〈兄君、TPを増やすもう一つの手段があるじゃないですか!〉


 コダマが嬉しそうに言ってきたのだが、嫌な予感しかしない。




 ***




 なぜかフォティアと公園のベンチに座っている。


「お、おい……コダマ……」

〈ほら、兄君! これは仕方のないことなんですよ! 鍛錬の一環だと思って接吻をしてください!〉


 ずっとコダマはこんな調子なのだ。

 TPを増やすにはフォティアとドキドキするようなことをすればいいとか言い出して、フォティアと公園のベンチに強引に座らせたのだ。

 ちなみに変装を解いた状態なので表情をすべて見られている。


「わ、私もTPを増やすことには協力したいけど、さすがにキスはちょっと……」


 フォティアもこちらと同じようなリアクションをしている。

 ぎこちなく、しかもエルフ特有の長い耳の先まで真っ赤だ。

 ベンチの隣に座っているのに遠くに感じる。


〈え~、接吻はダメですか~……〉


 さすがに俺とそういうことは嫌だろう――と言おうとしたのだが、先にフォティアが喋りだした。


「まだちょっとそういうことは……」


 まだ!?

 まだということは、あとならいいのか!?

 場の空気に流されて言葉のあや、というやつか!?

 それとも本当にそう思っているのか!?

 い、いや……そもそもTPを増やすために仕方なくということだろう!


 激しい剣術の鍛錬をしたあとのように心の臓がドキドキとして、感情の波が抑えられない。

 よく見たらTPが少し溜まり始めてしまっている。


〈うーん、それじゃあハグ――〉


 抱きつくということか!? フォティアに!?

 ついフォティアを眺めてしまい、後悔してしまった。

 その美しい、芸術品にも劣らぬような整った顔が近くに来ることになるだろうし、密着するという動作は、その柔らかそうで豊満な身体に全体で触れてしまうということだ。

 想像しただけで理性がどうにかなってしまいそうだ。


〈いや、ハグも二人には早いのかもしれませんね。まずは手を繋ぎましょうか〉


 手を繋ぐくらいなら、コダマとよくやっているので慣れている。

 鍛冶屋の親方とも別れ際に握手をしたのも記憶に新しい。


「ふっ、それくらいなら楽勝だ」


 きっとフォティアもそうだろうと思って顔を見たら、何やら赤面してプルプルしている。

 一瞬だけ目が合ったのだが、すぐに逸らされてしまった。


「お、おい。フォティア……?」

「に、人間と手を繋いだことがないの……」


 しまった。

 エルフと人間という特殊な関係だった。

 そのせいでフォティアはメチャクチャ意識して緊張しているようだ。

 それを見ていると、なぜかこっちまで緊張してきてしまう。


「そ、そうか……。無理強いするのもいけないから、俺は木を殴ってくる! 俺は今、猛烈に木を殴りたい気分だ!!」

「ま、待って!! 無理じゃない!! 無理じゃないから……たぶん……」


 大きく深呼吸をして落ち着こうとしているフォティアが、妙に可愛らしく見えてしまう。

 しばらくして、フォティアはベンチの座っている部分からちょこんと手を伸ばしてきた。

 こちらには半分くらい届いていない距離だ。


「ん!」


 私は頑張ったんだから、あとはマサムネ――とでも言いたげだ。

 少し手を伸ばして、フォティアと手を繋げばいいだけ。

 楽勝だ。

 ……楽勝のはずなのだが、何か緊張してしまう。

 落ち着くために深呼吸して、周囲の景色――それも遠くを眺めて平常心を取り戻す。

 よく見たら、物陰でラブレスがジッと見ている。

 興味津々の表情だ。

 余計に緊張が高まってきた。

 しかし、ここで女性側であるフォティアを待たせるというのは、相手にとても失礼なのではないか?

 ここは漢を見せなければならない。

 見せなければならないのだが……。

 ドキドキが止まらない。


〈もう、兄君! 早く! いくら剣の修業ばかりやってて、異性との関わり方がポンコツだからって時間かかりすぎです! 次のゲームが始まっちゃいますよ!!〉


 うおおおおおおおおおおおおおおお!! 気合いだああああああ!!

 内心そう叫びながらも、実際の腕の動きは亀の歩みのスローさだ。

 フォティアの白魚のような綺麗な手先に、こちらの修業であかぎれだらけの無骨な指先をチョンと当てた。

 TPがマックスの100になった。


「よし!! これでもう溜まった!! ご協力感謝する!!」

「えっ、あ、うん」

〈ヘタレー!! 兄君のヘタレー!!〉

「次は……もうちょっとしてもいいよ……?」


 頭の温度が急上昇してきたので最後の言葉はスルーして、急いでその場から立ち去ったのであった。

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