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参加者狩り

 ベラドンナゲームに参加する者は大まかに三種類いる。


 一つ目が〝腕試しのために参加する者〟だ。

 自分の今の実力がどれくらいかを知るのに、多種多様なルールで攻めてくるベラドンナゲームは丁度良いのだ。

 それにVIPを含む数多くの者に見てもらえるので、名声を上げて戦闘関係で雇ってもらえることもある。


 二つ目が〝賞品のために参加する者〟だ。

 勝てばベラドンナができる範囲で願いを叶えてくれる。

 過去、これで爵位持ちになったり、大金持ちになったりした者もいる。

 大部分はこれに思えるが、普通に悲惨な水晶球映像が公平に流されているため、実際は賞品目的の参加者は少ない。


 そして、最後が〝人殺しをしたくて参加する者〟だ。

 いくらこの世界が魔法による私闘が多く発生しているとはいえ、大っぴらに人殺しをするのは問題がある。

 それでいうとベラドンナゲームは殺人をしても誓約書によって国から守られているし、そういう人間にとっては特別な場所なのだ。


 今回、そういう参加者が狙うのはどこか?

 そう、ゾンビに噛まれた者が絶対にやってくる光の柱――治療薬が設置されている場所だ。

 森の一角にあるのだが、その茂みにもはや顔馴染みとなった参加者たちがパーティーを組んでいた。


「今回はまだ一人も殺せてねぇな……」

「ひ、ひひひひ……人殺しってどんな感触なのか楽しみだなぁ……」

「お~、人を殺すのは初めてか? 命を奪うってのは大変重いことだ。その分楽しいぞぉ」

「ひひひひ……オデ……人殺す、楽しみ!」


 食肉店を営む彼の手には解体用の〝ブッチャーナイフ〟と呼ばれる大振りな短剣が握られていた。

 他参加者も殺人用に珍しい武器を手に持っていた。

 たぶん砦とは違う場所に設置されていた武器を確保してきたのだろう。

 魔力を持たない者が作った炭を使った、カンザの町の特別製の武器だ。

 その武器を血で滴らせるために、今か今かと得物を待っていた。




 ***




 その頃――マサムネはラブレスを背負って全力疾走していた。

 手で抱きかかえては襲われた時に反撃できないので、背中へ移動させたのだ。


「思っていたより光の柱の根元まで遠いな……。くっ、遠近感のせいか……」


 軽いラブレスを背負って速度が落ちているでもなく、元から脚の速いマサムネをもってしても時間がかかるのだ。

 こうなると気になるのはラブレスのゾンビ化の症状の進行具合だ。


「ラブレス」

「ん? はい? 広くて逞しいお背中、快適な乗り心地ですね~」

「いや、そうじゃなくて……」


 思ったより平気そうで、少し疑問に思ってしまう。


「意識は大丈夫か? 急に痛みが麻痺するとか……人肉が食いたくなるとか……」

「あ、えーと……。そう言われると!! 意識が朦朧としてきて、痛みも無くなり、今にもマサムネさんにかぶりつきたくなる雰囲気が漂ってきてます!!」

「くそっ!? なんてことだ……これは急がなければ……」


 きっとゾンビ化の進行が激しく、自分がゾンビになりそうなことにすら言われるまで気が付いていなかったほどなのだろう。


「妹よりも小さな子が、ゾンビ化でこんなにも錯乱した状態になっているなんて……絶対に助けてやるからな……!!」


 その強い気持ちがTPブックの白紙部分を輝かせた。


「これは……新たな文字が浮かび上がって……」


【消費TP10 素早さ強化】


「使うしかない……!!」


 それを発動させると、元々早かったマサムネがさらに韋駄天の如く速度が上がっていった。

 あまりに早すぎて、途中の木に肩をぶつけてしまうくらいだ。


「ぐっ!? だが、それでも急がなければ……!! ラブレス、しっかり掴まっていろよ!!」

「あばばばばばば」


 速度が速すぎるためかラブレスが何か悲鳴めいたものを上げているが、今は緊急事態だ。


「ぎゃんっ!?」


 背負っているラブレスの顔面に木の枝がバシンと当たったが、これもラブレスのためなので仕方がない……。

 命がかかっているのだ……!!


「あ、あの……ちょっと速度を落としても……」

「うおおおおお!! 全力疾走!! 間に合えええええええ!!」

「ぎゃああああああああ」


 ラブレスの声がドップラー効果のようになって響き渡る。

 それは光の柱の根元にいる人殺し目的の参加者の耳にも届いていた。


「ひひひひ……得物が近付いて……何か様子がおかしい?」

「うお、遠くから来るありゃなんだ!?」


 凄まじい速さで何かをおぶって、般若と見間違うような表情で迫ってくる黒ずくめのマサムネだ。

 潜んでいた参加者たちは一瞬気圧されたが、すぐに飛び出して持っている武器を突き刺そうとしたのだが――


「速すぎる!?」


 一瞬にして通り過ぎてしまった。

 即座に治療薬がある台座のところへ突破されてしまった。

 参加者たちは呆然としつつ、全員で結論を出した。


「……ありゃヤバすぎる。手を出して良い相手じゃない」

「あの身のこなし、戦ったら一瞬で全滅させられるな……」

「眼が怖すぎる、悪魔だ」

「オデ、これが終わったらベラドンナゲーム棄権する。もうマジメに肉屋で働く……」

「こっちも棄権するわ……」

「うん、私たちがなりたいのは狩る側であって、狩られる側じゃないので……」

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