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第一回戦、ゾンビ鬼ごっこ

 マサムネたち参加者が案内されたのは、信じられないことに建物の中にある〝屋外〟だった。


「なっ、どういうことだこりゃ!? 外でデスゲームをやるってのか!?」


 ハーポンが怒鳴り散らしたタイミングで、それを聞いていたのか管理者であるエグオンがどこかからアナウンスを入れてくる。


『ベラドンナ様の魔法で、この建物の中は空間拡張されています。屋外のように見えても、建物内に外部の人間はいないのでご安心を。……まぁ、逃げ出すこともできませんがね。棄権の場合はゲーム開始前にお早めに』

「あ、あー……魔法で空間拡張ね……。知ってたし……それくらい知ってたし。おまえらがそう思ってそうだなって後から言おうとしてたら、先に解説されちまったぜ……ははは……」


 そんなことを言うハーポンだったが、明らかに挙動不審だった。

 取り巻き達も何かを察しつつフォローをする。


「そ、そうよね!」

「は、ハーポン殿が知らないはずないでありますな!」


 そんなやり取りがされつつ、続きのアナウンスが聞こえてくる。


『どうやら棄権する者はいないようですね。それでは第一回戦を説明します。ゲーム名は――ゾンビ鬼ごっこ!』

「ゾンビ鬼ごっこ……?」


 そのゲーム名で会場はざわつき始めた。

 ゾンビというのは、あのモンスターのゾンビだろう。

 ゾンビからの攻撃で感染すると、自分もゾンビになってしまうという厄介な敵だ。


 そして鬼ごっこは、誰しも知る子供の遊びだ。

 鬼役が誰かを捕まえれば鬼役になる。

 この二つを組み合わせたとなれば、嫌な予感しかしない。


『ルールは簡単。開始時にゾンビたちが会場に解き放たれます。二時間、生き残れば次のゲームへ進めます』

「な、なんだ。簡単じゃねーか……」

「ただ逃げるだけでいいのよね……」

『そう、ただ逃げるだけで勝利という大変優しいルールです。しかも、治療薬が特定箇所に設置されます。では、一分後に移動制限が解除されて、ゲーム開始となります』

「一分待ちとかダリィなぁ、早く始めろよ」

「そうよそうよ!」

「ハーポン殿がいれば余裕でありますからな」


 三人組は即開始してもいいと思っているらしいが、準備というのは重要な部分だ。

 合戦前の軍議と似ている。

 一歩間違えば死ぬような場所で、生存率を何十パーセントも向上させてくれるだろう。

 今すべきなのはコンビの意思確認と――


「ラブレス、一緒に行動する方針でいいよな?」

「はい! ムメイさんについて行きます!」


 ルール的に広いフィールドのどこへ移動するか、というのを決めておくべきだろう。

 ここは室内なのに、魔法のせいかほぼ室外に見える。

 遠くには山だったり、森だったり、それと砦らしきものもある。

 目立つ光の柱のようなものも見えるが、たぶん根元に治療薬が配置されているように思える。

 さて……〝ゾンビ相手にどう戦うか?〟となると常識的に考えて砦で閉じこもるのが一番だろう。

 しかし、今回のデスゲームでは懸念点が出てくる。

 それを考慮すると――


「ラブレス、見晴らしの良い平地に行くぞ」

「え? は、はい」


 困惑気味のラブレスだったが、信じてくれているのか即同意をしてくれた。

 それを見ていたハーポンは大笑いをする。


「ギャハハ! ゾンビに見つけてくれと言っているようなもんじゃねーか! バカかお前は! おーい、みんな! オレたちは砦に行こうぜー! みんなで防衛すれば楽勝だぜ!」


 この選択が危険度を大きく分けることになるだろう。




 マサムネとラブレスは、見晴らしの良い道を進んでいた。

 ラブレスは恐る恐る聞いてくる。


「あの、ムメイさん。こんなに堂々と歩いていては見つかってしまうのでは……?」

〈それは心配いらないわね。ゾンビは目で見るのでは無く、相手の生気を感じ取っているんだもの。たとえ壁越しに隠れていても無駄よ〉

〈義姉君、ラブレスちゃんには聞こえてませんって〉

〈あら、それじゃあマサムネがそのまま伝えておいて〉


 なぜか伝えることになった。


「それは心配いらないわね。ゾンビは目で見るのでは無く、相手の生気を感じ取っているんだもの。たとえ壁越しに隠れていても無駄よ」

〈口調まで真似なくていいのよ!〉


 低い声でフォティアの口調を真似したため、ラブレスから気持ち悪い者を見るような視線を感じる。

 言われた通りにしただけなのに理不尽だ……。


〈コダマちゃんのお兄さんって、もしかして戦い以外はポンコツ?〉

〈それもまた良いところです〉


 全部聞こえているのが辛い。

 そのまま運良く目星を付けていた見晴らしの良い平地に辿り着くことができた。

 中心になりそうな場所に座り込んだ。


「背中合わせになって、ラブレスは俺の背後を見張っていてくれ」

「は、はい」


 ラブレスがちょこんと座ってきて、背中越しに小さな存在を感じる。


「あ、あの……どっちみち見つかってしまうというのはわかったのですが、それでも壁がないというのは心細いものですね……」

「普通ならそうかもしれないが、今回は事情が違うからな」

「え?」

「強制的に参加させられた奴らなら協力できるかもしれないが、自分から参加しているような奴らが集まっているんだ」

「それって……」

「壁があっても、それは敵から守る物になるか、それとも――猛獣たちを閉じ込めるための檻になるかということだな」

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