ラブレス=ベラドンナ(ネタバレ)
くふふ……どうやらバレてないようじゃのぉ……。
妾が転生魔法を応用して、若返っていることに。
横にいるマサムネは本当に人が善い。
お忍びで少し前、カンザの町で贔屓の鍛冶屋にベラドンナゲーム用の武器を作ってもらったとき、偶然にもマサムネの噂を聞けたことはラッキーじゃった。
突然、魔力無しの人間が魔法を反射するという力を得たという。
それを聞いたときに心が躍ったものじゃ。
まさしく、それは妾と一緒で真の魔法を持つ者。
この国に出回っている魔法など、魔法の劣化版である〝魔術〟を大仰に言い換えたモノ。
ただ特定事象を起こすだけの魔術を、国を運営する大臣たちが勝手に箔を付けるために吹聴しただけじゃ。
まぁ『武具天臨の儀式』でアーティファクトを生み出す仕組みを作ったアレは魔法と言えよう。
世界のルールを書き換えるモノ、それが真の魔法なのじゃから。
そういう意味でマジックカウンターは、どんな魔法でも跳ね返すという理不尽さが、とても魔法めいている。
その情報を話してくれたゴロツキ共の記憶を消してから、マサムネをストーキングすることにしたのじゃ。
次の町でようやく追いつくと、どうやら宮廷魔法使いの……えーっと、なんじゃったかな……エグ味……じゃなくて、エグオンが無様にやられたあとじゃったな。
仕方なく、情報を聞くために密かに救出した。
そこでマサムネの戦いを聞いてワクワクして、一度戦った此奴なら面白いこともできそうだと、色々と思いついた。
ベラドンナゲームの管理者としてマサムネと間接的な対決をさせる……。
しかし、それだけでは妾の欲が収まらぬ。
マサムネの真横で観戦したい。
自分も生と死の境のスリルを味わえて、一石二鳥ではないか。
そうして転生魔法の応用で幼女として身分を偽り、マサムネと一緒の馬車に乗って、話しかけるタイミングを窺っていた。
窺っていたのだが……下々の者との触れ合いがよくわからぬ。
そのままアークルークスへ到着してしまったときは本当に焦った。
もう自然に接触できるタイミングがなくなりそうだったため、城門を通ったところで決死の作戦を取った。
困っている子供を放っておけない作戦……!
マサムネから丁度良い距離を魔法で計測し、困ったフリをして向こうから話しかけさせるという高度な戦法。
そして狙い通りにマサムネが食い付いてきた……のじゃが。
『キミ、馬車に乗ってた子だよね? どうかしたの?』
ここでもう少し引っ張って興味を持ってもらった方が、妾的に嬉しいかなと思って一度断ってしまった。
『あ……いえ、何でもないのです……』
『そうか! 何でもないのか! 困っているようだったから気になってしまって』
信じられなかった。
妾に対して、このような素っ気ない態度を取る存在がおるのか?
いや、いない。
此奴――マサムネ以外は……!
内心、焦りまくって心臓がバックバクじゃった。
妾、死んだ時でさえここまでテンパったことはなかった。
『あ、あの……』
『それじゃ!』
ちなみに『それじゃ!』はマサムネのセリフじゃ。
妾の口調ではなく、それじゃーね、バイバーイの意なのじゃろう……。
万策尽きて打つ手無しになった妾は……全力で惨めに――。
『えーんえんえん……』
嘘泣きをするしかなかったのじゃ……。
何とか懐に入り込むことに成功。
それから人の善い……いや、人の善すぎるマサムネたちに圧倒され続けた。
妾、生まれてこの方、周囲にこんな奴らはおらんかったと変な気持ちになってしまった。
とても馬鹿な奴らで、周囲からつけ込まれてすぐに利用されて野垂れ死ぬタイプ。
それから母親が病気で……というと、コロッと騙されて、死ぬかもしれないというデスゲームに一緒に参加してくれるという愚か者じゃった。
さすがにマサムネも〝ムメイ〟と正体を隠して参加してきたがバレバレじゃった(妾のように誰にもバレないように隠しきれと小一時間……。ちなみに壇上のアレはいつもの影武者……くふふ)。
これからベラドンナゲームの一回戦目。
管理者であるエグオンに任せてあるため、ルールはわからぬが……。
いや、わからぬ方がただの参加者としてスリルを楽しめる。
さぁ、どう動くマサムネ。
この妾――ベラドンナ・ワルプルギスを存分に楽しませてみせるのじゃ!




