美人エルフと旅をすることになって困惑
「ちょっと現状確認したいのだが……」
「「はい?」」
小さな畑を耕すコダマとフォティアの声がハモっていた。
ここは仮想の箱庭の中にある空間だ。
そこで当たり前のように二人は会話をして、仲良く畑を耕し始めたのだ。
何か色々と自然に進んでいるようだが、マサムネとしては訊きたいことがありすぎる。
「マサムネが確認したいのは、畑を作っていること?」
「あ、それなら兄君! これは何かの拍子に仮想の箱庭に引き籠もらなければならない場合もあるかと思って、広い土地を有効活用――」
「いや、そうではなくてだな……」
もしかしたら、自分だけがおかしいのかもしれないと思い始めてしまう。
なぜかフォティアと旅をすることになったのは、世間一般では普通の流れなのかも……と。
そんな疑念を振り払いつつも、勇気を持って訊いてみる。
「なんでフォティアがついてきてるんだ?」
「え、マサムネから誘ってくれたのにひどい」
ドストレートな反応。
死ぬほど正論で返されてしまった。
「兄君……まさか自分の都合でおなごを物のように扱う鬼畜系男子だったのですか……?」
「な、なんだそれは……? いや、そうではなく、『一緒に来るか?』というのはコダマが言えと……」
「本心ではなかったと? もっとひどい……」
「い、いや……場を和ませるためのジョークかと……。だって、出会ってすぐの男についてきたりしないだろ、普通……」
「迷惑? 嫌だ?」
フォティアが心配そうな視線を向けてきた。
何か照れくさくなり、思わず視線を逸らしてしまう。
「コダマによくしてくれるし、そういうことは思っていない……。むしろありがたいが……」
「よかった」
フォティアはホッとした表情で、人の良さがうかがえるようだ。
「でも、なんでだ? 理由を知りたい」
「理由……かぁ……。たしかに言葉にできるモノも必要なのかもね、うん」
フォティアはそんなよくわからないことを呟きながら、うーんと熟考の末に口を開いた。
「村人のみんなを守るため。エルフの私が村にいたら、また違う奴に襲われて巻き込んじゃうかもしれないし」
村人たちは迷惑していないと言うかもしれないが、たしかに同じ事が起きないとも限らないだろう。
心苦しいフォティアが村を離れるというのは納得できる理由だ。
「で、村を離れるのなら一人……もしくは、一緒にいても平気なくらい強い相手じゃないとダメ。悪い言い方をすれば、守ってくれる力があるのが二人」
「いや、正直でいいと思う。合理的な説明で俺も納得できた」
「まぁ唐変木な兄君にはこうやって伝えないと理解してもらえないですからね」
「ん? コダマ、何か言ったか?」
「いえ~、何も~」
たしか唐変木とは、気が利かない人間のことを言う。
何か至らなかった点があるのだろうか。
いや、そうか。
エルフという狙われる存在のフォティアが、他者に対して守ってくれと直接的に言うのはプライドが傷付いてしまうかもしれない。
それを言わせてしまったというのは反省すべき点だ。
そこはフンワリとさせておいて、何となくついてきたという方向に融通を利かせた方がよかったのかもしれない。
本当にとても反省すべき点だ。
コダマとフォティアの二人は敢えて、何となく楽しそうだからついてきたみたいな風に装っていたのだから。
「お、俺が悪かった……すべて俺が悪い……。融通の利かない人間ですまない……。人間として修業不足だ……猛省する……」
「なんかマサムネ、メチャクチャ落ち込んでるけど……どうしたの?」
「兄君はたまにこうなるので気にしないでいいですよ。純粋すぎる性格というのも大変なんです」
「そ、そうなんだ……」
頭を抱えながらうずくまっていると、二人は普通に畑仕事を進め始めていた。
どうやら畑の作り方は村人から教わり、種や苗なども出発時にもらっていたらしい。
何か食人植物の森で見たような物もあるが、たぶん心労から来る幻覚だろう。
そんな気も知らずに、フォティアは真剣な表情で喋りかけてくる。
「私もただ守られるだけっていうのもアレだし、なるべくマサムネとコダマちゃんの役に立つことをしたいと思ってる。できることは限られてるから、仮想の箱庭の中の環境を整えたりとか……」
「それに義姉君はTPも増やせますしね!」
その言葉を聞いて思いだした。
「そういえば、戦闘中にTPが増えてピンチを脱したんだったな……。言葉の内容はなんだったっけ……? ええと、たしか……何でもす――」
「そ、それはそうと!! 次はどこへ行くか決めたの!?」
フォティアが強引に新たな話題を出してきた。
「そうだなぁ、ひとまずは王都かな。コダマに色々見せてやりたい」
「王都アークルークス。アクアランツ王国で一番華やかであり、最強の魔法使いで国を治める女王――通称〝悪役女王〟ベラドンナ・ワルプルギスがいる場所ね」
「な、なんかすごそうな人ですね……」
「詳しくは知らないけど、この時期は女王ベラドンナ公案の催し物も行われるそうよ」
「じゃあ、丁度良いタイミングだな。さっそく向かうか」
***
王都アークルークス。
俯いて震えた声で、幼い少女が言ってきた。
「一緒に死んでくれませんか……?」
「え?」
「悪役女王ベラドンナが主催するデスゲーム……通称〝ベラドンナゲーム〟。一緒に出てくださいませ……!」




