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幕間。愉快な董卓軍

重要人物登場。……ですが、今の本編とはあんまり関係ないですね。

初平2年(西暦191年)3月下旬・洛陽。大将軍府


「大将、戻りやした」

「これ、報告書です」


「ご苦労って……はぁ。こいつらもか。やはり名家は滅ぶべきだな」


報告書を持ってきた二人の将軍、すなわち李傕(りかく)郭汜(かくし)に洛陽の名家を襲わせ、これまで彼らが横領していた大量の財貨を回収することに成功した董卓は、彼らが上げて来た報告書に書かれた数字を見てそう(ひと)()ちた。


これは誰が聞いても非常に物騒な物言いであり、袁紹などが聞いたら顔を真っ赤にして激昂すること間違いないのだが、董卓の目の前にある資料をみれば少なくとも辺境警備の経験者は誰もが同じ感想を抱くであろう。


何せその量は概算だけでも漢の租税の10数年分にも匹敵するのだ。


それがどれくらい凄いことかと言えば、最初は密かに横領することを企んでいた李傕と郭汜ですら、あまりに回収する量が多いためにうんざりしたり、最後の方では「報告書がめんどくせぇ……」だの「運搬だりぃ」だのと、もはや悟ったような顔をして作業に当たるくらいの量であったと言う。


これらの資料に目を通せば、何進が大将軍になる数年前まで自分たちがどれだけ切り詰めて任務に当たっていたかを思い出し、自然と名家に対する憎しみが湧いてくるのを感じる。


「とりあえず孫堅(南方担当)公孫瓚(北方担当)への予算は増やすのは確定だな」


そう決めた董卓だが、これは今まで不正をしてきた名家連中に対する当て付け……ではない。


多少の同族意識はあるが、元々荊州の南部を所領とする孫堅や、幽州に所領を持つ公孫瓚は自前で予算編成が出来るような状況では無いのはわかっているのだ。


かと言って彼らがまともに職務に従事出来なければ、漢と言う国は異民族によって侵犯されてしまうことになる。よって漢の軍務を司る大将軍としては至極まともな判断であると言えよう。


「しかしあの腐れ名家共は本当に救えんな。陛下もお怒りだが……一体どうしてくれようか」


「あ~大将?あんまり名家名家と言ってたら荀攸サマとかの気を悪くしませんかね?」

「ですです。それに旦那だって名家の出なんでしょ?聞かれたらやばいんじゃ……」


報告書を前にしてどんどん声が大きくなる董卓の独り言に対し、報告書を持ってきた李傕と郭汜はやんわりと『そろそろ止めておけ』と言うのだが、長年憤りを溜め込んできた董卓の怒りは、一度漏れ出したらそう簡単に収まらない。


「愚痴くらい言わせろ。それに洛陽に巣食う虫どもに関しては荀攸殿も憂慮しているから彼の耳に入っても特に問題はない。そして『あの方』は今洛陽におらんから大丈夫だ」


「あ~まぁ大将がそう言うなら」

「……いいんですかねぇ?」


董卓からの安全宣言を受けて、李傕と郭汜も『愚痴くらいはしょうがねぇか』と顔を見合わせ、聞かなかった事にすることにしたようだ。


ちなみに大将軍である董卓が気を使う相手と言えば、皇帝の劉弁や丞相である劉協が真っ先に挙げられるのだが、当然のことながら『あの方』とはそのどちらでもない。


一応政務を担当する司徒の王允や司空の楊彪も気を使うべき相手ではあるが、彼らの場合は『力こそ正義(パワー)!』を体現したような生粋の涼州人である李傕や郭汜が気を使うような相手ではない。


目下戦闘中の連合軍を『数が多いだけの烏合の衆』と切って捨てているほど豪胆な彼らが一様に気を使う相手は誰か?と言えば、もちろん帝の師(太傅)である、どこぞの腹黒のことである。


役職や官位もそうだが、実のところどこぞの腹黒はその言動から董卓旗下の全武将に恐れられていた。そして、彼らが恐れる人間はもう一人いる。


「ふむ。誰のことを論じているのかはわかりませんが、私もそうですが師も名家の生まれになります。故に誤解を受けるような蔭口は謹んだ方が良いでしょう」


「「「う、うわぁ!!」」」


突如として現れた少年に歴戦の三人が一斉に悲鳴を上げた。しかしその少年はどこぞの腹黒の一番弟子であると同時に、彼らが恐れる人物の一人であるので、この態度も仕方のないことなのかもしれない。


とは言え、当の少年から見たら今の彼らの反応は悪巧みをしていたところを目撃された悪党だ。そして今の話の流れで言えばその悪巧みは……


「ふむ?私を見てその反応。よもや先ほど大将軍殿が口にした『あの方』と言うのは、我が師のことですかな?」


彼の立場で言えばそんな疑惑を持つのは当然と言えば当然であると言えよう。


「そ、それは違うぞ司馬懿殿!我々は太傅殿に含むところはござらん!そうだなお前ら!」


「「へいっ!」」


なんの打ち合わせもなく董卓の言葉に即答する二人。


滲み出る三下っぽさに、大の大人がそれでいいのか?と思わないでもないが、彼らとしても下手なことを言って司馬懿の機嫌を損ねるわけにはいかないので、それ以外に返す言葉など持ち合わせては居なかったと言う。


「と、ところで貴殿が上洛してきたのは、陛下か太傅殿から何かしらの役目を賜ったからなのだろう?まずはそちらから終わらせねばならんのでは?」


「むぅ……それは確かにそうです」


「「(さすが大将ッ!)」」


自分のことなら笑って許しても良いのだが、師を冒涜されたのであれば弟子として動かないわけにもいかない。そんな感じで三人を注視する司馬懿だったが、確かに董卓の言うように彼は遊びに来たわけではない。


そして彼としてもここで無駄な時間を過ごすよりも、さっさと弘農に帰還したいと思っていたので、とりあえず疑惑を棚上げにすることを選択した。


「師より大将軍殿に宛てた指示書を預かっております。また今回の粛清で捕えた罪人共を受け取るようにとのことでした」


「そ、そうか、新たな指示か!分かった。承ろう。あと、罪人云々に関しては、すまんがそこの二人に聞いてくれ」


「「(大将?!)」」


助かったと思ったらいきなり崖下に突き落とされた形となった二人は、真っ青な顔をして首を振るも、董卓は「えーとなになに……」と些かわざとらしく声を上げて弘農からの指示書を読んでおり、決して彼らと目を合わせようとはしなかったと言う。


「そちらのお二人……確か李傕殿と郭汜殿。でしたか?」


「へい!そうです!」

「そうですけど、呼び捨てにしてください!!」


年下とはいえ、色んな意味での上位者である司馬懿に謙られると『認められている!』と言う優越感などよりも「名前を知られてるぅぅぅ!」と言う恐怖しか感じないから不思議である。


また、司馬懿の問いに対して直立不動で応えるその姿には、大将軍である董卓を相手にする時よりも気を使っているのがありありとわかる。


ある意味で董卓は蔑ろにされた形となるのだが、彼は二人の態度に不快感を示すどころか『……すまんッ!』と心の中で詫びを入れていたのだから、この少年が董卓らにどれだけ恐れられているのかが良くわかると言うものだ。


「呼び捨てに?まさかお二人が罪人なのですか?それならば喜んで弘農にお連れしますが……」


「違いやす!!」

「あっしらは何もしてませんぜ!」


見たこともないような早さで首を振る二人だが、元々の容姿も相俟(あいま)って逆に怪しく見えてしまう。しかし今の二人にはそんな客観的に物事を捉えるだけの余裕は無かった。


何せ彼らに罪人認定された場合に待っているのは、二つの結末しか無いと言うことは、今や董卓軍の中で知らぬ者がいないほど有名なことなので、二人はなんとか疑惑を晴らそうと必死になる。


その様子がまた不信を生むのだが……そんな悪循環を断ち切ったのは彼らの上司であった。


「あぁ司馬懿殿。そいつらは罪人ではない……一応な」


「「一応って何ですか?!」」


微妙にフォローになってないフォローを受ける形となった李傕と郭汜だが、それもむべなるかな。


なにせここ数ヶ月の間彼らがやったことと言えば、名家の殺害や家の破壊活動、財貨の押収と女官の(かどわ)かし等々、世が世なら立派な犯罪行為である。


一応彼らの行いは許可があった場所にだけ行った正規の軍事行動ではあるのだが、可能性を論じるなら丁原の時のような漏れが無いとも言い切れない。故に董卓としても『彼らが何かしらの犯罪行為に手を染めていないことは某が保証する!』と言い切ることは出来なかったのだ。


そんな董卓軍の内部事情はともかくとして。


「……よくわかりませんが、まぁ良いでしょう。では李傕殿に郭汜殿。罪人の搬送の用意をお願いします」


「「へいッ!」」


どこぞの腹黒から司馬懿に課せられた任務は、罪人を摘発し捕らえることではなく、すでに捕らえられている罪人を弘農に搬送することだ。


故に彼は他のことを些事と切って捨て、職務の遂行を優先した。


「じゃ、じゃあ準備してきやす!」

「あ、お、俺も!」


そうして司馬懿の口から紡がれた言葉を耳にして目に見えて安堵の息を漏らした二人は、先を競うように執務室から退室していったと言う。


「……とりあえず連中の準備が整うまで茶でも飲みますかな?」


「えぇ。頂戴します」


子供相手に心なしかビクビクしている董卓(大将軍)に対し、厳しい大人を相手にしても自然体を崩さぬ司馬懿(議郎)の図であった。






洛陽での一幕。


意外と上司との仲が近い、和気藹々とした職場らしい。


幕間は半ばギャグ時空が入りますので、多少の矛盾は大目に見てやって頂ければと思いますですはい。


彼ら師弟が何をやらかしたのか。そして弘農に搬送された罪人を待つ運命とは……


まぁ、書きませんけどね!(断言)

書かない理由?書いたらグロ描写で警告が……おや、だれかきたようだ。ってお話



――――


独断と偏見に塗れた人物紹介。


李傕:りかく。董卓配下の将軍にして、古代中国の世紀末を舞台に活躍したモヒカンの代名詞。ネタバレになるので以上。


郭汜:かくし。同上



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