第九十五話 家庭菜園 ⑤
「やあ、来たよ。」
精霊王は手をあげて軽く挨拶をしてくる。
「強引じゃな。しかし、来たものはしょうがない。」
そう言って少し不機嫌そうだが老婆は周りを見回す。
「ところでここは何だい?この土地からは四大精霊の加護を感じるよ。ここならすぐにでも世界樹が植えられる。」
老婆はこの土地について気が付いたようだ。そしてその直後3階の窓が開く。
そしてそこからは精霊と人間が4人ずつ飛び降りてきた。
「この強大な気配は何だ?」
龍斗は地面に着地するなり叫ぶ。
それに続いて美雪とサトルの両親が地面へと着地する。
そして、精霊王を見たとたんに理解した。
「精霊王、どうしてここにいるのだ。」
龍斗は精霊王の突然の来訪に驚愕し問いかける。
「ちょっと相談があってね。君もそろそろ気づいてるだろ。その事だよ。」
精霊王は内容をぼかしながら答える。
しかし龍斗達4人にはそれで伝わったようで頷きで答えた。
続いてその横には精霊が4人下りてきておりサラマンダーは一人笑顔で迎えている。
彼女は全て知っているので余裕の態度だ。
しかし他の3人は何も知らない上に、今この家がこんな状態になっている事への主犯格なので視線を明後日の方へ向けている。
それを見て精霊王は苦笑して三人へと話しかけた。
「今回の事は怒っていないよ。結果的には褒めたいくらいだ。」
それを聞いて3人はやっと精霊王に視線を合わせた。
「実は世界樹が限界でね。そのための土地が必要だったんだ。」
そして、その理由を話し出した。
「今のままでは近いうちに地球が滅ぶ。」
それを聞いて龍斗達は驚愕する。しかし、彼女の説明を聞くために何も言わない。
「それを回避するためにこの土地に新しい世界樹を植えることにしたんだけど反対する人はいる?」
そこまで聞いて反対できるものはこの地球上にはいないであろう。
「それと、しばらくはその世話をするために私もここに住むんだけど・・・。」
そこまで言って精霊王は四大精霊に視線を向ける。
「当然、こんな面白い事してるんだからあとで私を誘ってくれる事になってたんだよね。」
それを聞いて4人の精霊は冷や汗をかき始める。
3人は秘密にしておくつもりであった。
全てを知るサラマンダーは実はうっかり忘れていた。
そして部屋は4つしか作っていなかった。
そのため4人の冷や汗は止まる事なく出続けた。
しかし、そこで「忘れていました」や、「隠し通すつもりでした」等とは口が裂けても言えない。そこで彼女たちは何とかごまかすことにした。
「すみませんちょっと家に用事が。」
そう言ってウィンディーネは急いでアクアの所へと向かう。
彼女ははキッチンに飛び込みアクアに泣きついて大急ぎで3階の中央に部屋を準備させる。
運よく中央には大きなフロアを残していたので問題なく部屋を一つ作ることが出来た。
そしてウィンディーネは三階から下の3人にGOサインを送る。
それを見て3人は精霊王を部屋へと案内した。
「即席で作ったにしては良い部屋だね。」
それを聞いて4人は固まる。
時々この家を見に来ていた彼女には部屋を作っていない事はすでにお見通しであった。
そして、彼女たちの考えも。
「まあ、今回はその誠意に免じて許してあげるよ。秘密にしようとした事も忘れていたことも。」
そこまで聞いて固まっていた4人の顔色がどんどん悪くなる。
しかしその時救いの声が鳴り響く。
「皆さん昼食の準備が整いました。」
精霊王と世界樹の精霊以外がその言葉を聞いて意識を切り替える。
そして全員で強引に話を切り替えて居間へと下りて行った。
そこには数々の料理が並び食欲を刺激する匂いが充満していた。
「予想以上にいい匂いだね。」
世界樹の精霊もそれに驚き料理を観察する。
「それに凄い魔力を秘めてるね。これなら私も性が付きそうだよ。」
「そうね、さすがこの土地でとれた野菜ね。」
2人はそう言いながら料理へと歩み寄った。
そして、精霊王は寅へと声をかける。
「久しぶり。最近、店を開けてないから心配したわよ。」
その言葉を聞いて彼女の存在を知る者は一気に視線を向ける。
「よう、嬢ちゃんも久しぶりだな。この姿でも俺だと分かるのは流石だな。」
寅も親しそうに話をしている。
「寅さんは彼女を知っているのか?」
龍斗は驚きながら寅へと聞いた。
「ああ、彼女は俺が店を開いた直後からの常連だ。そう言えばまったく年を取らないな。はははは。」
どうやら龍斗よりも寅との付き合いは長いらしい。
寅にとっては、常連の客が老いない事は全く気にならない事のようで、笑って流している。
「龍斗、あなたには感謝しているのよ。私がいない間に寅の店を助けてくれたでしょ。」
「そうだが、もし俺がいなかったらどうなっていたのだ?」
「ふふふ」
精霊王は軽く笑うだけで何も答えない。
しかし、その目は笑っていない事からおそらく世界規模での災厄が起きた事が想像できる。
龍斗は知らない所で地球を救っていた。
「それにあなたにはお礼に加護をあげたでしょ。」
そう言って龍斗へと笑いかけた。
「それについては感謝しているが。そうか、それで俺たちには試練が無かったのか。」
そう言って龍斗は昔を思い出し少し笑った。
彼も日ごろの善行がこういう形で役立つとは思っていなかったようだ。
「もともと私は殆どの者に加護も祝福も与えないわ。あなたを除けば世界でも数人よ。」
そう言って今度はサトル達を見る。
「今回の事であなた達全員にも加護か祝福をあげることにするわ。」
そう言って精霊王は真面目な顔になる。
「ただし、加護を与えた人はもし、あなた達が潰した組織のような事をしたら。」
彼女は言葉を止め一瞬だけ途轍もない殺気を放出して止めた。
「私が直接殺しに行くわ。自信のない人は祝福をあげる。私のは選べるから考えておいてね。」
そう言って最後は笑顔に戻った。
だが、先ほどの殺気に恐怖を感じても悩む者はいなかった。
全員その場で加護を受ける事を伝えた。
「そう、あなた達が命尽きるまで、心が闇に染まらない事を信じてるわ。」
そう言って精霊王は皆に加護を与えた。
「これであなた達には属性に対する高い耐性と,状態異常に対しての高い耐性を得たわ。
でも完全じゃないから油断しないようにね。それと魔法も大きく向上したはずよ使う時は手加減を忘れない様に。」
そう言って説明を終えたあたりで寅が声をかける。
「みんな、そろそろ飯にしないか。料理が覚めてしまうぞ。」
そう言って料理に目を向けた後シルフ達を見る。
「それと、そこの連中がもう限界まじかのようだ。」
そしてみんな彼女たち食いしん坊組を見る。
彼女たちは既に料理に釘付けで周りが見えていないようだ。
先程の精霊王の話をちゃんと聞いていたのかも怪しい。
精霊王も仕方ないとため息をついて食事を始めることにした。
全員、箸やフォークを持ち食事を始める。
最初、精霊王は食事をしながら話をすればいいかと思っていた。
しかしその考えは目の前の料理によって破綻した。
料理を食べた者は精霊王を含め誰も喋らない。
固まっているのではなく皆、口に料理を運ぶのに意識を全て持っていかれて喋る余裕を失っているのだ。
今まで四大精霊が祝福した土地で野菜を作った者はいない。
そして、その答えが今ここにある。
しかし彩はそこで召喚獣達の事が頭によぎる。
彼女は精神力を振り絞って彼らを召喚し食事を再開した。
戦うために呼ばれたのかと思えば目の前では全員が一心不乱に料理を食べている。
この状況が理解できずに周りを見回していると正気であった寅が話しかけてきた。
「実はお前たちに美味い飯を食わせてやろうという計画をサトルが考えたのだがな。」
そう言って寅はサトル達を見るがそれに気付いた様子はない。
寅はため息をついて彼らに説明を続ける。
「本人たちは今食べるのに夢中でそれどころではないらしい。なくならないうちにお前らも食べたほうがいいぞ。」
そう言われてケルピー、サンドタイガー、火竜は素直に料理に近づいて行く。
しかしグリフォンだけは躊躇する。
「に、人間の料理など食えん。」
それを聞いて寅は料理を小皿にとって近づく。
「食わず嫌いは許さん」
そう言って目の前に料理を突きつける。
その匂いにグリフォンは無意識に涎があふれる。
「食わないのか?」
寅はそれを見て口を三日月型に歪めて問いかける。
グリフォンはまだ我慢しているようで体が震えだしている。
その姿はまるで禁断症状を我慢しているようだ。
その時不意に彩から声がかかる。
「食べなさい。」
「はい。」
そしてグリフォンは彩の命令を条件反射で聞いて料理を食べた。
そして彼の記憶はそこで途絶える。
彼が正気を取り戻した時は腹が膨れ幸福感に包まれていた。
そして体には先ほどまで感じられなかった、溢れるような力が漲っていた。
それを見て寅は問いかける。
「どうだ、美味かったか?」
「記憶がないが今のこの感じを幸せと言うなら美味かったんだろう。」
「今後は頻繁に食事ができる。また食べないなら彩に言うといい。また食べさせてもらえる。」
それを聞いてグリフォンは悩んだすえに彩の所へ向かい話をし始めた。
どうやら彼は初めて彩へとお願いをしているようだ。
彩は快くそのお願いを叶えてくれるようで笑顔で頷いている。
そして全員落ち着きシルフと風子が残った食事を食い尽くしたところで精霊王が話し始めた。
「それじゃ、これが世界樹の種だけどこれをここの庭に埋めるね。」
そう言って一つの種を取り出して周りに見せる。
「ところでここにはあの大木が育つスペースはないですよ。」
サトルは先ほど見た世界樹を思い出して懸念を口にした。
「大丈夫だよ。あんなに大きくなるのは何億年も先だから。」
精霊王はそう答えて笑う。
「それとある程度大きくなったらあの世界樹のように別の空間を作り出して移動させるから大丈夫だよ。それも何百年か先の話かな。それまでこの世界樹を護るのが僕の役目になるよ。」
そして精霊王は世界樹の精霊へと目を向けた。
「君との付き合いも長かったね。」
そう言う精霊王の目には悲しみの色が見える。
「いいのよ。ただ新しく生まれ変わるだけなのだから。新しい私と楽しくね。」
そう言って彼女はサトルへと向かい何かが大量に入った袋を渡した。
「これは世界樹の葉よ。これを使えばどんな病気も怪我も治るわ。例えそれが生まれついてからの病でもね。よければ使ってちょうだい。」
そう言ってサトルに超貴重素材を渡す。
「ありがとうございます。」
それをサトルは受け取り、いったんアイテムボックスへとしまう。
それじゃ、もう会う事はないでしょうけどあなた達は元気でね。
そう言うと彼女は消えていった。
その後ろ姿はどことなく寂しさを漂わせていた。
そして精霊王は庭に出ると種に優しく息を吹きかける。
すると種は光に包まれてその場で芽を出した。
それを彼女は庭の中央へと植える。すると芽はどんどん成長していきその場で3メートルほどの若木へと成長した。
その時世界に異変が起きた。
風が荒れ狂い大地が唸る。
すると世界樹の若木が光を放ち始めその光はこの星を一瞬包み込んだ。
それで風は落ち着き大地の唸りは収まった。
「どうやらあっちの世界樹が枯れたみたいだね。」
精霊王は瞳に涙をためてそう呟いた。
すると再び木が光り出してそこから小学生低学年ほどの少女が現れて地面へと降り立つ。
精霊王は涙を拭いてその少女へと話しかけた。
「君が新しい世界樹の精霊かな?」
「???」
世界樹の精霊は周りを見ながら何やら困った顔をしている。
「どうしたの?」
精霊王も心配になったのか、少女に問いかけた。
「私は新しい精霊じゃないわ。」
彼女はそう言って首をかしげるが意を決して答えた。
「私はさっき迄ここにいた私よ。消滅するはずなんだけどここに戻ってしまったみたい。」
それを聞いて精霊王は驚いて口が開きっぱなしだ。
しかし少しして涙を流しながら彼女を抱きかかえる。
そして精霊王は少女へと呟いた。
「おかえり、また会えてうれしいよ。」
そして二人は再会の喜びを噛み締めた後にサトル達の元へと手を繋いで向かう。
「聞いてたと思うけど、そう言う事になったから、二人してこれからよろしく。」
こうして二人の居候が増える事となった。
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