第九十四話 家庭菜園 ④
サトル達が寝静まった深夜に動く影が二つあった。
それはシルフとウィンディーネ。
彼女たちは打ち合わせたように同じタイミングで部屋から出て階段を下りて行く。
そして二人は一階に下りると窓の外を見つめた。
空はどんよりとした雲が広がり風が吹き始めている。
そして突然激しい雨が降り始めた。
風は荒れ狂い野菜たちを襲う。
それを見てシルフとウィンディーネは依り代を離れ、精霊の姿となり空へと上がり雲の中へと入る。
そこでは水と風の精霊が暴れまわっていた。
「あなた達、静まりなさい。」
シルフは風の最上位精霊として下位精霊達に命令を下す。
しかし、彼らは命令を聞かず暴れ続けた。
雨は嵐となり地上を襲う。
そして、その風により一つのナスが地面へと落ちてしまった。
それを見たシルフは固まり次の瞬間には膨大な魔力がその体から吹き荒れる。
シルフはそれにより下位精霊達を強制的に支配下に置き風を止めた。
次に同じようにウィンディーネも膨大な魔力で水の下位精霊達を従え雨を止める。
あのまま放置すれば数か月前の豪雨が再現されただろう。
しかし、今回は未然に防がれた。
理由としては明日の食事会で美味しいものが食べたいという願望が多く含まれるが彼女たちも今回のような精霊の暴走は見過ごせなかった。
そして、二人は苦い表情で話し合う。
「精霊の暴走・・・世界の均衡が壊れかけてるわね。」
そう言ってシルフは空を見上げる。
「このままだとどんな災害が起きるか予想できないわ。」
「でも、そうなるとあの方の力を借りないと。」
「そうね。でも丁度私たちの試練を超えた者がいるから、近いうちに現れると思うわ。」
ウィンディーネはサトル達の家を見下ろしながら答えた。
「でもそうなると私たちの行動がバレるんじゃない?」
シルフは小さくない不安を抱く。
「・・・黙っていれば大丈夫よ。」
ウィンディーネは今回の計画の立案者としてバレた時の事を考えて恐怖を感じる。
そして、二人は不安を抱きながらもいったん家へと戻って行く。
しかし、それを見ている者が一人いた。
彼女は空に浮かぶ月を背に上空から二人を見下ろし口元に笑みを浮かべる。
そして彼女たちが家に入るのを確認するとその姿を何処かへと消した。
それに気づいたのは自室の窓から空を見上げるサラマンダーのみである。
彼女もまた感情を読み取れない、いつもの笑顔を浮かべ何処かへと消える。
そして再びの平穏が訪れ夜が更けていく。
朝となりサトルは目を覚ます。
今日は相手よりも早く起きれたため隣ではまだ彩が眠りについていた。
その表情はとても穏やかで、まるで子供のようだ。
サトルの視線を感じたためか彩の目がゆっくり明いて目を覚ます。
「おはよう。」
サトルは微笑みと共に朝の挨拶をする。
目覚めた彼女は柔らかく微笑みサトルに軽くキスをする。
そして幸せそうにサトルに寄り添った。
外は昨日の嵐が嘘のように晴れており穏やかな日差しと風に満ちていた。
雨上がりと言う事で空気も澄んでおり吸い込む空気も心地よい。
2人はしばらくのんびりした微睡を楽しんでいると風子が朝食を知らせてくれる。
彩は名残惜しそうに部屋へと帰っていき、サトルも身支度を済ませると食堂へと向かった。
食堂には昨日と同じく全員が集まりその中には既に龍斗と美雪が混ざっている。
「おはようございます。龍斗さん、美雪さん早いですね。」
サトルはあいさつの後に二人に気づきそちらへと顔を向ける。
「おはよう。食事が楽しみで早く来てしまったよ。」
そして、一瞬だけ精霊たちに視線を向ける。
その視線に気づく者はほとんどいなかった。
「そうね。寅さんの料理は美味しいから朝からお邪魔してしまったわ。ごめんなさいね。」
そう言って口元を手で隠しながら笑顔で答える。
「いえ、構いませんよ。今日はゆっくりしていってください。」
そして、今日も並ぶ寅とアクアの料理は全員の胃と心を満たしていく。
昨日もだが、寅は料理をかなり多めに作っている。
そのため2人増えても料理が足りなくなることはない。
若干2名ほどが少し物足りなさそうな表情をするくらいだ。
その二人も3人前は食べているので物足りない表情を浮かべようとも誰も取り合わない。
そして、食事が終わるとさっそく収穫を始めた。
今回は種を一カ所一つしか蒔いてないにも関わらず全てが芽を出し元気に育っている。
サイズも大きくこのままではどう見ても食べきれない。
サトルは最初そう思っていた。
収穫はみんなで行い収穫した端から寅が持って行って下ごしらえを始める。
アクアもそれをサポートしながら寅に料理を習っているようだ。
次第に漂ってくる食欲を刺激する匂いに皆が唾を飲み込みながら我慢する。
キッチンは摘まみ食い防止のため全員立ち入り禁止だ。
特にシルフと風子には入るとご飯抜きが言い渡されている。
お昼の時間まではまだ2時間ある。
それぞれに時間をつぶす必要があるために家の中へと散って行った。
龍斗と美雪、サトルの両親は3階へ上がり精霊たちと何か話しているようだ。
上がっていく4人は真面目な表情をしていたので何か重要な話し合いに向かったのだろう。
サトルは自分の部屋のベットに寝転がり本を読ん時間を潰す。
横ではホロが犬の姿でサトルの足を枕に眠っている。
体を動かすことは出来ないがホロのその寝顔を見ていれば何時間でも耐えられた。
サトルは初めてダンジョンに入った時を思いその姿に幸せが沸き上がる。
そして、この幸せを護るためにもっと力を付けなければと強く思った。
そして1時間ほど経った頃、サトルは眠気に襲われて眠りにつく。
そこでサトルは夢を見た。
夢の中でサトルは視界を覆うほどの巨大な木の根元に立っていた。
空一面は木の枝が覆いその端は遥か彼方へと続いている。
もしかすると木の頂上は成層圏まで届いているかもしれない。
それほどに巨大な木であった。
サトルは意識がハッキリしている為これが夢である実感が持てない。
夢と言うよりも転移で知らない場所に飛ばされたと錯覚してしまう。
「ここは何処だろう。」
周りを見回しながら慎重に歩き探索を行う。
今は武器も防具も装備していない。
頼れるのは自分の体一つだ。
そして歩いていると木の根に洞を発見した。
近寄ると奥から明かりが漏れており何か歌声が聞こえてくる。
サトルは警戒を強めて中へと入って行く。
「綺麗な歌声だな。」
その歌声に誘われるように奥へと進んで行く。
すると突然視界が開け目の前に小さな泉と一軒家が現れた。
そこは木の中であるにも関わらず、頭上からは柔らかい日差しが降り注ぎ、気持ちのいいそよ風が吹いている。
地面は花が咲き誇り、泉の水は澄み渡っていた。
歌声は家の中から聞こえてくるようだ。
サトルは家の入口の前に立ち扉をノックした。
すると扉はひとりでに開き歌声が止まる。
「入っていいよ。」
そして歌声の代わりに入室を許可する声が聞こえた。
中に入ると部屋はとても整頓されているが生活感があまりない。
あるのは大きな机、いくつもの椅子、本が入れられた棚があるだけだ。
そして、室内には老いた老婆と金髪の少女が椅子に座りこちらを見ていた。
「こんにちは、よく来たね待ってたよ。」
少女はそう言うと微笑んだ。
「まあ、椅子に座るといいよ。」
そして椅子をサトルに勧める。
「ここは何処ですか?」
サトルは椅子に座りながら疑問を口にした。
「ここは世界を支える世界樹の中だよ。」
少女は笑顔のまま答えて老婆へと向く。
「そして彼女はその世界樹の精霊にして意思。」
少女は続いて老婆を紹介した。
しかし、サトルにはアニメの知識によりどことなく言っている事の意味は理解できるが、それが正しいかの確証が持てないためさらに質問を続ける。
「世界樹とはどのような存在ですか?」
「世界樹は四大精霊の力を世界に均等に行き渡らせて自然環境を整える存在だよ。
今君がいるこの木は、地球の環境を整える役目を持っている。」
そう言って少女は老婆を見た。
すると老婆がその視線を受けて話し出す。
「でもね。私の役目も限界なんだよ。」
老婆は疲れ切った顔で告げる。
「お前たち人間が環境を壊し続けたために精霊の力の均衡が崩れてしまってね。
いくら調整しても間に合わないんだよ。」
そう言って老婆はサトルに目を向けた。
「これを見ておくれ。」
そう言うとサトルの目の前には世界樹のいたる所が映し出された。
映し出された場所は枝が枯れたのか葉を付けてはいない。
根の部分は砕け、いたる所に痛々しい傷が見える。
「これはいったい?」
サトルはその惨状を見て驚愕から自然と声が出た。
「これが私の今の姿さ。この木はもうじき枯れる。」
それを聞いてサトルは老婆に目を向けた。
「枯れるとどうなるのですか?」
「お前はこの間の豪雨は知っているね。あれを超える災害が世界に起こる。
山は火を吹き、風は荒れ、大地は割れ、水は腐る。」
老婆は悲しそうにそう告げた。
それを聞きサトルは大事な人達が頭に浮かぶ。
「どうにかならないのですか?」
サトルは焦りの気持ちから、つい声を荒げる。
「落ち着きな。手段がないならお前をここに呼んだりしない。」
そう言って老婆はサトルに顔を向ける。
そして老婆はサトルにその手段を話し始めた。
「まず、四大精霊の加護を受けた土地が必要だよ。しかし、そんな貴重な土地は地球上には存在しない。ここは地球と繋がってるけど空間が少しずれてるから正確には地球じゃないんだよ。それにここは私の消滅と共に消えてしまうからね。」
そう言って苦い顔をした。
(それなら、家なら大丈夫ってことかな?)
「それとそこの精霊王の許可が必要だね。そいつが許可を出さないと種を植えても芽が出ない。」
そう言って老婆は少女を見る。
サトルはその言葉で少女へと視線を向けた。
「それは問題ないよ。許可は出してあげる。この星の危機だからね。それは心配しなくていい。ただし条件がある。」
「条件?一応聞いてもいいですか?」
サトルは表情を引き締めて問いかける。
四大精霊のさらに上の存在。
彼女の希望を叶えられる力は今のサトルにはない。
下手をすれば命を失ってもその希望を叶えることが出来ない可能性を考え、緊張の中精霊王からの言葉を待つ。
「実は四大精霊達の今の状況は私に原因があるんだ。」
そう言って苦笑いを浮かべる。
「ウィンディーネは私が暇つぶしに見ていたアニメを見てはまってしまったんだ。」
そう言って彼女はバツの悪そうな顔をする。
「シルフは私がこっそり持ち込んでいた食べ物が原因でね。彼女には悪いことをした。でも精霊は勝手に顕現して出歩けない様な決まりがあるからそれを私が破ってる事は言えなかったんだよ。」
今度は目をそらして告白する。
「それとノームはこれを見てフィギュアにハマってしまったんだ。」
そう言って机に置いたのは素晴らしい出来のフィギュア。
しかしその出来はノームが部屋の神殿に飾っている物に似ている。
「そしてサラマンダーはその事を全て知っていてね。あの子はああ見えて優しいから彼女たちに協力してあげてるんだ。彼女はあの態度から誤解を受けやすいけどとても優しいいい子なんだよ。」
そう言って微笑んだ。
「それにドワーフの事を最初に気づいたのも、救出の提案をしたのも彼女なんだ。だから誤解しないであげてほしい。」
「そうだったのですね。」
サトルは今までの事を思い出し彼女には悪い事をしたと反省する。
「それで、条件と言うのは?」
「実は私も地球に顕現したいのだけど住む所がないんだ。だから君の家に居候させてくれないか?」
「・・・」
サトルはすでに4人の精霊を抱えている。
しかも家の土地に世界樹を植えるとなると土地面積など考える事が沢山あった。
「すみませんが家でみんなで話し合いませんか?」
サトルは自分一人では判断ができないと考えこの提案を持ち帰ることにした。
「それは良いよ。ちょうど今日は君の家で食事会だろ。私も参加したいから一緒に行くよ。」
精霊王はそう言うと立ち上がる。
そして老婆にも手を差し伸べた。
「あなたも一緒に行こう。」
そして笑顔で老婆を誘う。
「私は年だからいいよ。」
しかし、老婆は断りの声をつぶやいた。
サトルはそれを聞いて老婆に近づき抱え上げた。
「きっとみんなも喜びますから一緒にご飯を食べましょう。」
そう言ってサトルは精霊王へ視線を向ける。
すると精霊王は笑いながら手を上へ掲げ魔力を込めた。
すると三人は光に包まれサトルは意識が遠のくのを感じた。
サトルが気が付くと自分の部屋のベットの上で、ホロは変わらずサトルの足を枕にして眠っている。
サトルはそっと足を抜いて部屋を出て行く。
部屋を出ると直後に来客のベルが鳴った。
そして、外に出るとそこには精霊王と先ほどの老婆が立っていた。
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