第九十一話 家庭菜園 ①
サトルは今、鍬で庭の一角を耕していた。
彼が鍬を握ることになった理由は数日前にさかのぼる。
サトルはある事を確認するためにウィンディーネの元へ向かっていた。
彼女はここ数日、部屋にこもりアニメばかり見ている。
そのためシルフのように食卓ではいまだに顔を合わせていなかい。
ちなみにシルフは食事の時間になると必ず現れる。
彼女の望みは美味しいご飯であるため欠かしたことはない。
そしてサトルはウィンディーネの自室である青い扉の前に立つ。
中からはアニメの音声がしっかり聞こえて来ることから今もアニメを視聴中なのだろう。
サトルは意を決して扉をノックした。
しかし何の反応もない。
もう一度ノックしようとしたところで後ろから声がかかった。
「サトルさん、今は危険です。」
その声を聴いてその人物へと振り向く。
その声はやはりアクアだった。
「危険?」
言葉の意味することが分からず、自然と疑問形の問いかけとなる。
「はい、今いい所なので邪魔するととんでもない事が起きるかもしれません。」
それを聞いてサトルは扉から離れる。
回答は明確なものではないがそれが逆に恐ろしい。
サトルは仕方なくアクアに言伝を頼み二階の自室へと向かった。
そして1時間ほど部屋で本を読みながら寛いでいると扉がノックされる。
「はい、どうぞ」
サトルは一声かけて入室を促した。
そして扉を開けてウィンディーネが部屋へと入室して来る。
「お久しぶりですね。」
ウィンディーネは同じ家に居るにもかかわらず部屋に籠りっぱなしの為、会うのは数日ぶりである。
食事はアクアがタイミングを見計らって部屋に持っていくため、今の彼女は何処から見ても立派な引き籠りであった。
「ごめんなさい。つい時間を忘れて見入ってしまって。」
そう言いながら頬を軽く掻く。
これで服がジャージなら引き籠りにニートが付きそうだ。
「それは構いませんが出来たら食事はみんなで取りたいので時々は下りてきてください。」
そう言って苦笑を浮かべる。
「それで今は何を見ていたのですか?」
「今は幽〇白書を見ているわ。今ちょうどテレビ放送分を見終わったから次は劇場版よ。」
そう言って彼女はとても嬉しそうに色々話してくれた。
面白かった場面や好きなキャラクター。
そして、何話目のどのシーンが良かったかなど次々と喋っていく。
このような事を今迄話せる相手がいなかったため、彼女は話し出すと止まらなかった。
サトルもこの手の会話は大好きなので結局二人で3時間ほど話したところで会話が落ち着いた。
30分を過ぎたあたりからアクアがお茶とお菓子を準備してくれた為に目的を忘れ話し込んでしまった。
そして、忘れかけていた目的を思い出し、サトルはウィンディーネに質問をした。
「ウィンディーネ様。ちょっと聞きたいことがあるのですが。」
「ちょっと待って私たちは今は居候の身でオタ友なのだから呼び捨てでいいわ。」
ウィンディーネは笑顔でサトルへ告げた。
「いや、さすがにそれはよろしくないのでウィンディーネさんで。」
「・・・まあ、今はそれでいいわ。」
彼女は頬を膨らませて上目遣いで睨んでくるが今は全く迫力がない。
サトルは微笑して本題に入る。
「実は聞きたい事と言うのはケルピーの事です。」
「ケルピー?あの子がどうかしたの?」
彼女は首をかしげてサトルへ聞き返す。
「はい。先日のドワーフ救出時に大変よく働いてくれたので、美味しい物でも食べてもらおうと思ったのですが、私は彼の好物を知らないのです。」
そう言って頭をかきながら苦笑する。
「それで、出来れば秘密のサプライズプレゼントにしようと考えているので直接聞けなくて。」
「それならこの前サラマンダーが言ってた魔力の籠った食べ物がいいわ。」
「魔力の籠ったですか?」
サトルは今まで食べたものを思い出しリバイアサンの肉が頭に浮かぶ。
「そうよ、普通は強力な魔物の肉とかだけど、ここでなら簡単に手に入るわよ。」
「それはどういう意味ですか?」
サトルは意外な事実を聞いて困惑する。
するとウィンディーネは窓辺に向かい下を指さして答える。
「ここで家庭菜園を作ればいいのよ。ここの土地は私達4人が加護を与えた土地だから魔力をたくさん含んでいるわ。だからここで育てた野菜は魔力をたくさん含んだものが育つはずよ。」
そして、ウィンディーネは椅子に戻りながらさらに付け加える。
「私も協力するけど後でノームにも話した方がいいわね。彼女なら相談すれば協力してくれるはずよ。」
「分かりました色々ありがとうございます。」
サトルは素直に感謝の言葉を口にする。
「いいのよ、それよりもまた今度アニメ談義しましょ。」
そう言うと立ち上がって笑顔で手を振りながら部屋から出て行った。
サトルは今のアドバイスから今度はノームの所へと向かう。
時刻は夕方に近いが夕飯にはまだ時間がある。
サトルはノームの部屋の前に立ち扉をノックした。
するとこちらはすぐに返事が返ってくる。
「開いてるから入っていいわよ。」
「お邪魔します。」
サトルは慎重に中に入り扉を閉める。
ノームの部屋は壁は全て棚で埋まり、いたる所にフィギュアが飾られている。
そして一カ所だけ小さな神殿のような場所があり、そこには風子が渡したフィギュア祀られていた。
サトルはそれらを見なかった事にしてノームへと話しかける。
「今話しても大丈夫ですか?」
ノームは机の上で何やら作業中のようだ。
そのためサトルはノームへ確認を取る。
「大丈夫だよ。今してるのはイメージトレーニングだからね。」
それを聞いて、サトルは先ほどウィンディーネと話した内容を伝える。
「それなら協力するよ。よければ残った食材は他の子や食卓に並べてもらっていいかな。きっとシルフも喜ぶ。」
作業の手を止めてサトルへと振り向きながら答える。
「でも収穫はかなり先ですよ。」
今はすでに秋が近い。
そのため、サトルは通常の知識から収穫はよくても来年からだと考えていた。
「それなら大丈夫だよ。」
そう言ってノームは手に力を込めた。
すると、その手は光に包まれ始める。
そして、数秒後激しい光を放ち光は消えた。
その手を見るといくつもの麻の袋が握られており、袋にはナス、ニンジン、キャベツ、大根と書かれていた。
「この種を使うといいよ。」
そう言って野菜の種を渡す。
サトルはそれを受け取りノームに説明を求めた。
「それは私が生み出した魔法の袋だよ。その袋からは書いてある野菜の種が無限に出てくるんだ。そして、その野菜は数日で収穫できるよ。」
ノームは笑顔でサトルに説明した。
それを聞いてサトルは袋をみつめ。
「それは危なくないですか。」
サトルはこれが自然繁殖した時の事を危惧して確認をする。
その言葉を予想していたのかノームは笑顔のまま淀み無く説明を追加する。
「その野菜はここでしか育たないから大丈夫だよ。その野菜が育つ条件に私達四大精霊全ての加護を受けた土地を組み込んでるから。他の土地に撒いても芽すらでないよ。」
それを聞いてサトルは安心する。
ちなみにサトルは知らないが、この地球上では四大聖霊の全ての加護を受けた土地はここだけである。
「それとその野菜達は自分達では勝手に増えないから毎回種を撒いてね。」
そこまで言うとノームは再び机に向き直る。
「ありがとうございました。大事に使わせてもらいます。」
サトルはそう言って頭を下げると部屋を出ていった。
そして、この日は丁度よく夕食の時間となる。
この日はウィンディーネも初めて下りて来たため全員揃っての夕食となる。
皆好きな席について楽しく食事をしてそれぞれの部屋へと帰る。
ちなみにこういう余裕のある日は必ず三人の恋人の誰かが部屋へと来る。
どうやら順番は彼女達で話し合っているようだ 。
サトルはエリザがそこに加わっていない事に安堵する。
そして、今日来たのはホロだった。
サトルはいつものように一緒にお風呂に入りドライヤーで髪を乾かして部屋へと戻る。
そして一緒にベットに入り互いに愛し合って眠りについた。
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