第八十三話 精霊からの依頼
サトル達は食事を終え、先ほどの店でのんびり茶を飲んでいた。
しかしその時、いまだに1人で料理を食べ続けていた風子の箸が止まる。
「どうした風子。さすがに食べ過ぎたか?」
サトルは軽い感じで風子へ問いかけた。
「いえ、食事よりも重大な事が起きました。」
「な、何が起きたんだ!?」
皆、風子が食事よりも優先することと聞いて、驚愕のあまり全員が風子へと視線を向ける。
当然その中には龍斗と寅も含まれる。
「皆さん。今、シルフ様より連絡がありました。
一時的に私の体を依り代として顕現されます。
お話は直接、シルフ様より聞いてください。」
そう言うと、風子は表情を消し喋りだす。
「皆さん大変な事態になりました。皆さんはドワーフは知っていますか。」
それを聞いて龍斗が話しかける。
「俺は知っているが、おそらく知らない者も多いだろう説明を頼む。」
「分かりました。ドワーフとは土の精霊ノームと、炎の精霊サラマンダーの眷属です。
彼らは鍛冶を得意とし、日本政府と友好関係を結んでいる種族です。」
そこでシルフの説明が終わる。
そのため龍斗が補足する。
「昔、ダンジョンから得られる鉱石は、我々の技術では思い通り加工できなかった。
しかし、あるダンジョンでドワーフと言うモンスターではないが、ダンジョンで生活する種族と出会った。彼らは人間に友好的で、戦うための優れた武器や防具を提供してくれた。そして彼らは俺たちが提供した鉱石を見事加工して見せ、その技術を俺たち人間にも伝授してくれた。その事から日本政府は彼らを秘密裏に保護し、友好な関係を築いている。」
「その通りです。そして、今起きている問題はそのドワーフの一人が人間に攫われてしまったようなのです。」
「なんだと。そんな馬鹿な。彼らを攫うなど百害あって一利なし。二つの種族の友好を壊すつもりか。」
それを聞いて龍斗は驚きのあまり叫ぶ。
「話はそこで終わりません。彼らはノームとサラマンダーの眷属。
もし攫われたドワーフが死ぬような事があれば、日本に対して制裁を加えなければなりません。その場合、下手をすると日本が無くなります。」
それを聞いていた一行は驚愕し言葉もない。
「それで、俺たちにどうしろと?」
龍斗は鋭い目をシルフへと向ける。
「事は人間が起こしたこと。人間が責任をもって処理するようにとノームとサラマンダーは言っています。
それと、サトル達にはこれを火の試練の変わりとします。もし無事に達成できたのらば試練を免除し、加護と祝福などを報酬として出すとサラマンダーは言っています。」
「それは構いませんが、これは俺達だけで行わなければなりませんか?」
事が大きすぎるためサトルは急いでシルフに問いかける。
「少し待ってください・・・・。
いいえ、今回に関しては人数は問わないようです。ただ報酬は貴方のパーティーにのみ出されます。それほどの緊急事態と言う事です。」
「どうしますか龍斗さん?」
さすがにサトルも不安な顔で龍斗に話を振る。
「今回は情報が不足している。いまだに成長途中の獣人は連れていけない。
そうなると俺や美雪。銀二。お前の両親にお前たちぐらいか。」
「他のメンバーは?」
他にも参加可能なメンバーが抜けている事からサトルは確認を取る。
「何が起きるか分らん以上、本社の守りも必要だ。何名かは置いて行かねばならん。」
「そう言う事ですか。もしもの時は俺の家に避難させましょう。あそこにはウィンディーネの結界があり下手な相手は手が出せません。」
「そうか、それは助かる。」
その時、シルフがサトルに話しかけた。
「その結界の件ですが。私とノームも、そちらの家に結界を張りました。もしもの時には助けになるはずです。」
「ありがとうございます。」
「それでシルフよ、そのドワーフが攫われたのは沖縄でいいのか。」
龍斗は確認のためにシルフへと問いかける。
「そうです。場所まで知っていたのですね。」
それを聞いてシルフの声に驚きが混じった。
「まあな。そこの彩が持っている短剣も、そこのドワーフに依頼して作ってもらった物だ。」
そう言って龍斗は彩へと視線を向けて話した。
「そうでしたか。」
彩は短剣を取り出しそれをシルフに見せる。
「いい武器を良い持ち主に。彼らの信念を感じます。
それでは皆さん。後は頼みましたよ。」
そう言って彼女は帰っていった。
そして風子に表情が戻るが疲れたのか、その場に座り込む。
「風子、ご苦労様。」
「はい、お腹がすきました。」
「・・・・・」
それを聞いて皆呆れる。
ローリーですらここまで食い意地は張っていない。
そして龍斗はすぐに携帯を取り出し、リンダに指示を出した。
まずは飛行機の手配。
各飛行場でのメンバーの搭乗手続き。
そして政府への緊急事態の説明。
それらを伝え、龍斗たちは動き出した。
目的地は沖縄。
急がなければ日本が危ない。
そして俺たちに声をかける者が一人いた。
それは、この料理屋の店長の寅さん。
「龍斗、俺も行くぜ。」
そう言って厨房から出てくる
「しかし寅さんいいのか?」
寅は実戦から離れて長いため龍斗は心配した。
「ああ、この非常時にのんびり料理もねえぜ。」
そう言って寅は龍斗の前に立つ。
「わかった。しかし条件がある。」
「なんだ。」
寅は龍斗の目を真直ぐ見返す。
すると龍斗は懐から瓶を取り出し寅に渡した。
「これを飲んでくれ。今のあんたは年を取りすぎている。
いざと言う時は足手まといだ。だからこれを飲んで若返ってくれ。」
寅はそれを見て止まる。
「分かっている職人は感覚が命だ。若返れば感覚が変わり、しばらくは慣れるまで料理の腕は落ちるだろう。しかし今回は命が掛かっているかもしれない。中途半端な者は連れていけない。」
龍斗はハッキリと寅に事情を説明した。
そして、寅は一瞬悩んだが瓶を手に取り飲み干した。
すると厚いがしなやかだった指は、若い二十代の物へと変わり顔は若返っていく。
あの指では、しばらく店は開けないだろう。
そして若返った虎は髪をオールバックにセットし自らのアイテムボックスを手に一行に加わった。
空港には既に飛行機が準備してあり、龍斗たちは搭乗していく。
非常時と言う事で最優先で離陸できるようだ。
その時、何処かで見た覚えのある人物が一人、飛行機へ共に乗り込んだ。
その人物へ龍斗は気楽に話しかける。
「早かったな。総理大臣がそんなにフットワークが軽くていいのか。」
そう言って龍斗は総理に笑いかけた。
「事は日本存亡に関わることだ。何を置いても優先される。」
総理はそう断言した。
「アメリカには説明したのか?」
龍斗は笑顔を消して深刻な顔で総理に問いかける。
「ああ。彼らには、一時日本からの退避を要請した。あちらの大統領に説明したら納得してくれたよ。」
「そうだな、もし下手に関わって自国に飛び火したら叶わんからな。」
「そう言う事だ。それで、これから直ぐ沖縄か?」
総理は少し表情を緩めて龍斗に行き先を聞いた。
「いや、まずは各地でメンバーを拾っていく。」
「分かった。そちらの指揮は任せるぞ。それとこれは政府からの正式の依頼とした。報酬は後で相談と言う形でいいか?」
「ああ、今は少しでも時間が欲しい。」
「そうだな。今は互いに入ってくる情報の整理をしよう。到着後、情報の確認をして行動開始だ。」
「ああ、それじゃそちらも頑張れよ。」
そして総理大臣と龍斗はそれぞれ飛行機の部屋へと入っていった。
「総理大臣とは知合いですか?」
「ああ、奴が最初に出馬した時に、応援演説をした事もある。」
そう言って龍斗は入ってくる情報をリンダと共に整理し始めた。
そして、空港でメンバーを拾い沖縄へと到着した。
「早速だがホテルに向かう。そこで政府の者と情報交換を行いすぐに捜索を開始する。」
時刻はすでに深夜に差し掛かろうとしている。
しかし、事の重大性を考え龍斗は即座に行動を起こすことに決めた。
しかし、ホテルに向かい、役人を待つがいつまで経っても現れない。
そこで総理は関係部署に連絡を入れた。
すると驚くべき答えが返っていた。
「担当の者は既に帰宅しました。また明日おかけください。」
それはすでに職場放棄に他ならない。
この島の役人と日本政府は昔から仲が悪い。
そのため事の重大性がうまく伝わっておらず、こういう結果を招いてしまった。
龍斗は仕方なく今ある情報から推測し捜索を開始した。
ただ。この時サトルは思った。
(あの人,龍斗さんと昔からの知り合いなら、ただ者じゃないんじゃないか。
担当の人、大丈夫かな・・・。)
その予想は少し先で明らかとなるが、それは今は置いておこう。
まず龍斗は銀二に夜目の利く鳥を使い、島中を探索させることにした。
しかし、島は広く情報が足りない中での探索には時間がかかり成果はなかなかでない。
獣人組も匂いがわからないため、匂いによる探索は不可能だった。
そうこうしている内に朝となりいったんホテルに戻った。
そして、そこには総理と恐怖を顔に張り付けた役人が待っていた。
ちなみに役人は土下座している。
ことは龍斗たちがホテルから出発した時まで遡る。
その時、総理は役所に車を向かわせていた。
そして扉を開け中へ入る。
当然時刻は深夜。
誰もいないし鍵も掛かっていた。
しかし総理は気にせず、鍵など掛かっていないような動きで自然と扉を開けた。
{バキ}{ジリリリリリリ}
当然扉の鍵は盛大に壊れ、警報が鳴り響く。
まずそれを聞いて警備会社と警察が現れた。
しかし、そこにいる人物の顔を見て固まる。
胸には議員バッチをつけ、その顔はテレビで見た総理大臣その人だからだ。
そして次に、侵入者の連絡を受けた役所の責任者が顔を出した。
「何をしているのですか。早く侵入者の逮捕を・・・」
そして役人も総理の顔を見て固まる。
彼は総理と面識があり言葉も交わしたことがあった。
しかし、土地柄で仲良くするわけにもいかず、地元との板挟みになっていた。
そして彼は初めて、今がいかに緊急事態であったかを知ったのだ。
なんと、連絡を受けた受付が、反政府意識から全ての連絡をそこで止めていたようだ。
当然その受付は懲戒免職処分となった。
事の重大性を考えれば軽いかもしれない。
そして、受付が連絡をストップしていたため、役人には何の情報も準備もなく。
現在、龍斗たちの前で土下座するという結果となった。
しかし、彼らは困っていた。
一晩中探したが手掛かりがない。
そのため時間だけが過ぎていく状況に焦りを感じていた。
強い相手なら龍斗や美雪は問題なく倒せる。
しかし、それが自然現象。
それも日本列島規模で起きれば対処は出来ない。
どんなにレベルを上げても人間には限界があった。
しかし、その状況を打開する者が空間を歪め現れた。
それは風子に連れられたユエ。
彼女は今は犬の姿でここに現れている。
恐らく生前の姿に変身しているのだろう。
そのため話せないユエの代わりに風子が説明を始める。
「この子はノームの眷属なので同じ眷属の位置を感じることが出来るそうです。それを手掛かりに捜索すれば発見できるのではないかと。」
それを聞いて全員に希望が芽生える。
そしてさっそくユエに声をかけた。
「ユエ、来て直ぐで悪いが捜索を手伝ってくれ。
現在、何の手掛かりも掴めていないんだ。」
それを聞いたユエはコクリと頷き、一行は捜索を再開させた。
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