第八十二話 龍斗からの労い
サトル達はダンジョンから外に出ると、急いで乗ってきた車に向かう。
イベントでガス抜きできているとはいえ、何が起きるか分からないので油断はできない。
一人来れば三十人は来るかもしれない。
全員素早く車に乗り込むと逃げるように秋葉原を離れた。
「さすがに今日は大丈夫だったな。」
サトルは先日の事を思い出しながらため息をついた。
「そうですね。もう、あんなのは遠慮したいです。」
「俺もさすがにあれは疲れた。」
「私もです。出来れば事前告知は欲しいです。」
ホロとイクスとリーンはさすがにあのゲリライベントは堪えた様だ。
「ローリーはいっぱい食べれたから、またやってもいいよ。
ローリーはイベント中、周りの人からお菓子を貰っていた。
「私もあれは精神的に疲れるので苦手ですね。」
「俺もだ。」
スノーとクロは通り魔を捕まえる一幕があったので特に疲れただろう。
「まあね。あれは多分、秋葉原だからあえてイベントにしたんだろうな。
それに、これからは俺たちのほかにも獣人が多く表に出てくるだろうから大丈夫だよ。」
そう言ってサトルは獣人組を安心させる。
(でも今は一番知名度があるのはこのメンバーだから油断はできないな。)
サトルは一抹の不安を胸にホテルに到着する。
ホテルに帰るとロビーでリンダが待ち構えていた。
「リンダさんどうしました?」
サトルはリンダに話しかけ要件を尋ねる。
「龍斗様がお部屋で報告をお待ちです。」
「ああ、ノームの件ですね。」
サトルは苦笑しながら答えた。
「はい。それと先ほど、日本全域で起きた地震の件を聞きたいと仰せです。」
「あ、はい。やっぱり地震、起きてましたか。」
「起きました。それほど大きなものではありませんでしたが。
ただ震源地は秋葉原だったもので。」
「分かりました。それでは、案内をお願いします。」
「はい、ご案内します。」
そう言ってリンダはサトルたちを誘導していく。
「こちらの部屋にお入りください。」
サトル達は自分たちが宿泊している階で下り、そして龍斗の待つ部屋へと入った。
「龍斗さん。ただいま戻りました。」
「お帰り。さそっくで悪いが説明を頼む。」
「はい、それが・・・」
サトルはノームの状況を説明した。
「そうか・・・。彼女も。それで今回の地震と言うわけか。」
そう言って龍斗は天井を仰ぎ見る。
「はい。さすがに今回はダメかと思いました。毎回、試練よりも精霊を宥める方が大変です。」
サトルも毎回これでは身が持たないと力なく答える。
「ははは、そう言うなお前たち以外がその場にいたら恐らく日本はもうないぞ」
龍斗も笑っているがその笑いにいつもの力がない。
実際、龍斗は冗談のように言っているがそれが事実である。
「それで、龍斗さんは今からどうするのですか?」
サトルは龍斗がすでに帰っているものと思ったため確認をする。
また変な予定を急に入れられるとたまらないからだ。
「俺か?俺は今からお前たちを労おうと思ってな。
前に旨い飯を食わせる約束をしただろ。
ちょうど東京だし、今から飯でもどうだ。」
その意外な提案に周りの者は龍斗に視線を集中させる。
「俺は構いませんがみんなは?」
サトルは周りを見渡し反対意見がないか確認する。
全員頷くなどして肯定を示す。
一部は涎が凄い。
「大丈夫なようです。それではお願いします。」
しかしその時、扉の外から風子が突撃してくる。
「ちょっと待ってください。私も同行します。」
風子は滑り込むように部屋に入り目的を叫ぶ。
「風子。どうしたんだ。サンとユエを家に届けに行ったはずだろ?」
そう、風子はサンとユエを家に送りそのまま家で待機することになっていたのだ。
しかしその風子がここにいるために生じた疑問だった。。
「先ほどシルフ様よりお告げがありました。すぐに皆様の所に帰るようにと。」
それを聞いてサトルは周りを見渡す。
シルフは風の精霊。
盗み聞きもお手の物のようだ。
「龍斗さん、構いませんか?」
「構わんよ。シルフの機嫌がよくなるならいいことだからな。」
そして、風子を加え、一行は出かけていった。
「今日は何処に連れて言ってくれるのですか?」
「俺の行きつけに、ダンジョン産の海鮮を取り扱う店がある。そこでならお前たちも満足するだよう。」
それを聞いて最初に反応したのは風子だった。
「海鮮はまだ、この体になって食べたことがありません。シルフ様も喜ばれると思います。」
続いてエリザ。
「私もこの間までお婆ちゃんだったから、日本の海鮮はあまり食べたことないのよね。」
そして、一行は期待に胸を膨らませていると、店の前に到着したようだ。
車が止まり下りた先には、サトル達全員が入れば満席になりそうな少し小さめなお店があった。
「龍斗さんここですか?」
「そうだ、見た目はこれだが中は新築の様にきれいにしてある。
外の見た目で騙されていたらいい店には入れんぞ。」
そういって龍斗は笑いながら扉を開け入っていく。
「いらっしゃい龍斗さんお待ちしていました。」
そういって店主がカウンター式になっている厨房から声をかける。
「やあ、寅さん。今日はうちの若いのをたくさん連れてきた。大変かもしれないが今日は頼む。」
「あんたとの付き合いも長いからな、気にするな。」
そう言って二人は親しげに話した。
それを見て舞は問いかける。
「2人はお知り合いですか?」
「ああ、この店が質の悪い地上げ屋連中に絡まれている時に助けてもらったんだ。
その時からこの人は当店のお得意様だよ。
いろいろお偉い先生たちも連れてきてくれてな。
今では名店の一つに入れてもらっている。」
「全ては寅さんの腕があったからだよ。」
龍斗は店に入った時から笑顔を絶やさずに答えた。
「そう言ってくれると嬉しいぜ。いっちょ、今日も頑張るか。」
そして、小声でエリザとサトルは龍斗に質問する。
「ところで龍斗。その地上げ屋どうしたの?」
「もしかして皆殺し・・・?」
「そんな事はせんよ。ただ、他所へ移ってもらっただけだ。
そう、遠い遠い地にな。」
そう言って龍斗は口元だけで笑う。
当然、目は笑っていない。
しかし、そんな表情も寅さんが話しかけると一瞬で霧散し笑顔となる。
(ひえ~どこへ島流しにされたんだ。)
そしてサトル達は席につき寅さんは料理を始めた。
その調理は目にもとまらぬ速さ。
俺たちもかなり強くなっているがそれでも手の動きが追いきれない。
あっという間に寅さんは魚を捌き美しい姿盛にして俺達に出してくれた。
「寅さんも探索者だったのですか?」
「ああ、昔の事だがな。でも天職で料理人を得てからはある程度レベルを上げて料理一本よ。」
手を止めることなく寅は答える。
「それである程度ですか?」
サトルは寅の早業から目を離さずに質問を続ける。
「お前ら若いもんは知らんだろうが、昔は俺達みたいなのがゴロゴロいた。
だから俺くらいじゃまだまだだな。龍斗さんの傍にいれば分かるだろ。」
そう言って寅は一瞬だけ龍斗へと視線を向ける。
「そうですね。日々、自分の無力さを痛感します。」
「まあ、お前もなかなかだと思うがな。でも、守る者があるなら頑張れよ。」
「はい、そうします。」
そして寅は次に寿司を握ってくれた。
その肉は何の肉かは分からないが初めて食べる味だ。
それをエリザは美味しそうに食べながら、何の肉かを尋ねる。
「このお魚美味しいわね。何の肉なの?」
「ああ、そいつはサハギンだ。あいつらは脂の乗りがよくてうまいんだ。」
それを聞いて知識ある者は驚愕する。
見た目、二足歩行の深海魚がこんなに素晴らしい味になるとは思いもしなかったのだ。
「言ったろ。寅さんの腕は超一流だ。それに、天職で料理人を持つ人間は世界中でもそんなにいないぞ。」
龍斗は自分の事のように自慢げに説明を加える。
「そ、それもそうね。」
エリザは一応納得してサハギンを口に運ぶ。
そして次に出てきたのは何かの肉巻きのような物。
しかし、それは見ればわかる。
その肉巻きからは今だこの者の魔力を纏い、俺たちにその存在を見せつけている。
「あ、あのこの肉巻きの肉は何ですか?」
「お、それが分かるか。そいつはリバイアサンの肉だ。
数日前に龍斗さんが送ってきてくれてな。食べ頃だったから出してみたんだ。」
この料理を出すときだけは寅は手を止め周りの様子を窺っている。
「おお、さすが寅さん。俺はこれが大好物なんだ。しかしこいつをここまで見事に調理できる人間は少なくてな。どうしてもここにお願いして料理してもらってるんだ。」
龍斗はこの肉巻きが出てきたときだけはマナーなく手で掴み直接嚙り付いている。
「まあこれは昔からの俺の得意料理だからな。味は保証するぜ。いっちょ食ってみな。」
そう言われサトル達も、その肉巻きにかぶりつく。
その瞬間、龍斗以外の全員が〇王のように口から光が飛び出すのを幻視した。
「何この味。美味しすぎる。」
「ええ、口に入れた途端に蕩けていくような味わい。」
「気が付けば飲み込んでしまう。」
「サトルさん魔力が回復してる気がします。」
「龍斗、まさかあなたこれのために・・・」
「それだけではないがそこが一番大きな理由だな。」
そして全員がその肉巻きをお替りした。
その頃の精霊界
「何この料理。
この味。
この力がみなぎる感覚は。
もっと、もっと食べたい。
いえ、直接・・・。
でもダメね。試練の時しか顕現は出来ないわ。」
そこでシルフは諦め項垂れる。
そして、彼女の前にウィンディーネが現れた。
「どうしたのシルフ、そんなに落ち込んで。」
この間と違い元気のないシルフを見て心配する。
「いえ、今すごくおいしい料理を風子が食べているの。その感覚が凄くてね・・・。直接食べたいと思ってしまったのよ。」
シルフはいまだに送られてくる感覚を感じながら物足りなさを感じ表情を曇らせている。
「そう、それはつらいわね。でも、それなら私に協力しない。」
それを見てチャンスと感じたウィンディーネは笑顔でシルフに計画を話し始める。
「協力?」
「ええ、先日試練をクリアして、眷属を与えた人間たちがいるでしょ。」
「ええ。」
それを聞いてシルフは数日前に会ったサトル達の顔を頭に浮かべた。
「その子達の土地に加護を与えて私たちが顕現できる地を地上に作ろうと思うの。」
「そんな事が・・・」
無理だと一瞬考えるが今も送られてくる味覚に一瞬、思考を奪われる。
その間にウィンディーネは話を続けた。
「恐らく可能よ。ただ今まで私たちは、自分が求める物が地上になかったから何もしなかっただけ。でも今は求める物がそこにある。なら・・・」
「そうね。私は協力するわ。」
「助かるわ。次はノームだけど・・・。当然聞いてたわよね。」
そう言ってウィンディーネは足元を見る。
すると、そこから黄色いゴスロリ服の少女が現れた。
「ええ、聞いてたわ。私も協力する。」
ノームの答えは即答だった。その目には迷いを感じられない。
「助かるわ。あとは肝心のサラマンダーがどうするかね。」
そう言ってウィンディーネは顎に手を当てて悩む。
そしてその時、上空より高熱の火の玉が現れ三人の前で少女の形となる。
「僕もその計画に賛成するよ。」
サラマンダーは笑顔で答える。
「ホント?」
ウィンディーネ達と違い、あちらに執着がないサラマンダーをどうやって説得するか悩んでいたため予想外の答えについ聞き返してしまう。
「ああ。僕も彼らにちょうどお願いがあったんだ。それを聞いてくれたらね。」
「何をお願いするつもりなの?」
ウィンディーネが聞くとサラマンダーは話し出した。
「僕とノームの眷属にドワーフがいるだろ。それが一人、今人間に捕まっている。」
「どういう事、人間に彼らは保護されていたはず。」
そう答えてシルフが聞き返す。
「何処にでも馬鹿はいるみたいだ。たしか門は沖縄とかいう島だったね。」
サラマンダーは残念そうに苦笑して質問に答えた。
「そう。人間たちはドワーフ達と友好を約束し、ダンジョン産の鉱石などで武器や防具を作って貰っているはず。もし、その攫われたドワーフに何かあれば。私とあなたは日本に制裁を加えないといけなくなるわ。」
そして、ノームはサラマンダーにやるべき事を顔を歪め悔しそうに告げる。
「そうだね。だから早急に彼らには現地に赴き、人間の手でこの事件を解決してもらわないといけない。」
そして、サラマンダーは今まで浮かべていた笑みを消し真顔で3人へと告げた。
そしてサトル達が食事を食べ終わる頃、風子にシルフから緊急の連絡が入る。
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