第七十一話 精霊
サトル達は16階層に到着した。
そこは横幅が20メートルほどあり中央には通常の通路が、その左右に5メートルほどの水路が流れていた。
先ほどよりはましだが横の水路があからさまに怪しい。
資料ではこのダンジョンにこのような場所は存在しないようだ。
おそらく俺たちが知らない何かが起きているのだろう。
全員にその事を伝え警戒をしながら進んだ。
ある程度進むと獣人組が歌が聞こえると言ってきた。
それはとても美しく、そちらに行ってみようと提案してくる。
サトル達は確認のためにそちらに向かう。
するとそこには下半身は魚で上半身は美しい人の姿をした人魚が歌を歌っていた。
サトル達はその歌を聞いてそちらに引き寄せられていく。
そして人魚はサトル達に語り掛けた。
「あら、ここに人が来るなんて珍しい。どう?一緒に遊ばない。」
人魚達は笑顔で手を差しのべサトル達を誘う。
しかし、人魚がいるのは水の中。
サトル達はその言葉に誘われて水に入ろうとした。
4人を除いては。
それはサトルの両親、エリザ、そしてホロである。
先の3人は経験と耐性で人魚の魅了を回避した。
そしてホロには状態異常無効があるために最初から効いていなかった。
素早くホロは人魚に向かって風の刃を飛ばして切り刻む。
「ぎゃあああーーー。なんでお前たちには私の歌が効かない?」
そして、その叫びと共に水に入ろうとした者たちは正気に戻り、急いで水際から離れる。
「大丈夫ですかサトルさん?」
ホロはサトル達に駆け寄り確認する。
「ああ、ありがとホロ。助かったよ。」
サトルは先程の事を思い返して冷や汗をかく。
そして正気に戻った舞が人魚を弓で貫き始末した。
そしてサトルの両親が皆に話し掛ける。
「お前たち弛んでるぞ。もしここにホロがいなければお前たちは奴らの餌食になっていたぞ。」
「そうよ、初めてのダンジョンでは気を抜いた者から死んでいくのよ。それにここはあなた達が前まで潜っていた浅い階層じゃないのよ。当然、精神攻撃等の状態異常を仕掛けてくる敵もいるわ。油断してると本当に死ぬわよ。」
「「「「すみません」」」」
「今回ホロはよくやったわ。あとでご褒美に美味しいお肉を上げるわ。」
サトルの母はそう言いながらホロの頭を撫でながら誉める。
「やったーー。」(尻尾ブンブン)
それを聞いたイクス、リーン、ローリーがサトルの母にしがみつく。
「俺も欲しい。」
「私も。」
「ローリーも。」
「あなた達はダメよ。今回失敗したでしょ。」
それを聞いて3人は絶望の顔を見せ尻尾は垂れ下がる。
「でもこの階層は始まったばかりよ。しっかし働けたらご褒美を考えてあげるわ。」
彼女は三人の顔を見ながらご褒美をちらつかせてヤル気を煽る。
それを聞いて3人の尻尾が立ち上がる。
「「「がんばる」」」
そして舞が説明を始めた。
「あれはセイレーンですね。魅了の歌により人を惑わせ水に引き込み対象を食い殺す。
強さは大した事ありませんが獣人は耳がいいためあの魅了に掛かりやすいです。それにスキルのない私が恐らく一番足を引っ張りそうです。皆さんは天職があるのでもしかしたらホロのように耐性スキルが得られるかもしれません。」
そう言って彼女は少し悔しそうな顔をする。
このメンバーの中で天職がないのは舞一人だからだ。
そしてこの階層は互いに異常がないか確認しあいながら進み、もしもの時はローリーの魔法で魅了を解除した。
そしてイクスとリーンも頑張って敵を倒していく。
まさにその目は獲物を見るようでセイレーンの歌が全く効いていなかった。
どうやら3人の三大欲求は魅了を凌駕したようだ。
そして16階層17階層と進み現在は18階層の入り口にいた。
「そろそろモンスターが変わるかもしれません。モンスターを見つけるまで特に慎重に行きましょう。」
「「「了解」」」
ちなみにここまでで魅了耐性は舞以外が全員習得した。
習得が早かったのはイクスやローリーだったりするがそこは割愛しよう。
そしてここで新たなモンスターを発見した。
やって来たのは二足歩行の魚人、マーマンである。
手には三つ又の槍、トライデントを持っている。
「舞さんあれは?・・・舞さん?」
サトルは返事が無いためマーマンから少し視線をはずし舞を見る。
それにきづいた舞は急いで説明を始めた。
「あ、は、はい、あれはマーマンです。鱗が固く防御力にひいでています。状態異常はなく、先ほどの人魚よりは強いですが私たちなら十分に勝てます。」
舞は珍しく最初、何かに気を取られえていたようだ。
サトルの両親とエルザはその理由が分かったがあえて何も言わない。
そして、舞は弓を構えマーマンを攻撃した。
しかし矢は少しそれて直撃しなかった。
舞にしては珍しいが今はモンスターを倒すことを優先した。
そしてマーマンを倒したサトルは舞に話しかける。
「舞さん大丈夫ですか?少し休憩にしましょう。」
「すみません。でも大丈夫なので先に進みましょう。少し考え事をしていただけです。」
そう言って舞は前進を促した。
サトルは仕方なく先に進む。
舞は言った通りその後は問題なく戦闘を行っていった。
そして、とうとう最下層までたどり着いた。
サトルはダンジョンボスの部屋を覗き込み様子をうかがう。
しかしそこにモンスターの姿はなく、中央に泉が湧いているのみだった。
サトル達は警戒しながら泉に近づいて行く。
すると泉の水が盛り上がり人の姿へと変わっていく。
しばらくするとそこには水で
形作られた美女が泉の上に浮いていた。
そして、彼女はサトル達に語り掛けた。
「よく試練を抜け、ここまで来ました。あなた達に祝福を与えましょう。」
しかしサトルは突然現れた存在に疑問を持ち尋ねた。
「あなたは誰ですか?それに試練とは?」
だが、それに答えたのはサトルの両親とエリザだった。
「彼女はウィンディーネ、4大精霊とも言われる水の精霊だ。」
「そして、このダンジョンの15階層から19階層までが彼女の準備した試練だったの。」
「彼女はここだけじゃなく世界中の試練資格者のもとに現れ試練を与えるの。それに成功すれば祝福を授かれるってわけね。」
「そうです。私は世界の一部にして精霊。何処にでもいて何処にもいません。」
(3人が言っていることが真実ならば俺たちにはその資格があったと言う事か。)
そしてサトルの母はウィンディーネに話しかける。
「ウィンディーネ、お願いがあるのだけど聞いてもらえないかしら。」
「久しぶりね栞、輝、エリザ、内容によりますよ。」
「覚えていたのね驚いたわ。」
あまり表情を変えない栞もこの時は少し驚いた顔になる。
「それでお願いとは。」
「実はこの子に加護を与えてもらいたいの。」
そう言って栞は舞の肩に後から手を乗せて少し前に押し出す。
「私の加護は強力ですが、まあその子なら相性も良さそうなので大丈夫でしょう。でもそれには対価を払っていただきますよ。」
その時自分を置いて勝手に話が進んでいる事に焦り舞は話に入る。
「あの、加護とはどういう事ですか?」
舞は栞に顔を向け焦りながら質問する。
「いま、あなたには天職がないわ。でも天職を得る方法は色々あってね。その一つが加護なの。それがあればあなたにも天職が付くわ。」
栞は微笑みながら説明した。
「でも、わたしは・・・」
それを聞いて舞は言いよどんだ。
こんな簡単に天職を得ることがズルく感じたからだ。
それを見て栞は舞にだけ聞こえるように彼女の耳もとで小声で話しかけた。
「知ってるのよ。あなた天職がないことで悩んでいたでしょ。この機会に貰っておきなさい。これからの戦いは天職が無いとサトルに置いて行かれるわよ。」
それを聞いて舞は先程のセイレーンの事を思い出し考えを変える。
「分かりました。ありがとうございます。」
そう言って今度はウィンディーネに話しかけた。
「お待たせしました。それで対価とは?」
舞は決意を込めた瞳でウィンディーネを見る。
「今から幾つか質問します。まずはそれに答えてもらいます。」
「はい。」
「あなたは{な〇は}を知っていますか?」
「いいえ」
「{イ〇ヤ}を知っていますか?」
「いいえ」
「{ビ〇ップ}は?」
「いいえ」
そして多くの質問がされ、それにすべてわからないと答えた舞。
そしてウィンディーネほ重い溜息を吐く。
「残念です。あなたは私に対価が払えません。」
ウィンディーネは肩を落とし見るからにガッカリしている
「今の質問に何の意味が?」
それを聞いて焦りながら質問する。
「今のは私が見たい日本のアニメのタイトルです。それを一つも知らないというのは貴方に対価は払えないと言う事です。」
それを聞いて舞は驚愕する。
対価が払えない事はともかく、4大精霊の一人がオタクだったことに。
しかしそこでサトルがウィンディーネに声をかけた。
「そのアニメのディスクなら全部持っていますよ。」
「「・・・」」
2人は一瞬固まった。
そして次の瞬間ウィンディーネは叫んだ。
「何ですってー。ならばあなたに加護を与えれば見放題ですか。」
彼女のキャラはこの時崩壊した。
「そこで交渉です。私は彼女と結婚を前提にして付き合っています。すなわち彼女にもその権利があります。」
「そう言う事ですね。分かりました私に異存はありません。舞さんあなたに私の加護を授けましょう。それとそこの魔法使いの子2人。」
「私ですか?」
「ローリーも?」
「今は気分がいいのであなた達にも加護を与えます。」
(この精霊ぶっちゃけるな~)
「あなたお名前は?」
ウィンディーネはホロに近づき名を聞く。
「私はホロです。」
ホロは突然の質問に首をかしげながら名乗った。
「あなたはおそらく4大精霊全ての属性に適性があります。頑張って他の精霊から加護を貰いなさい。」
「分かりました。」
ホロは意味がよく分からなかったかが、良いことなのは分かったので尻尾を軽く振る。
「それとあなたはローリーね。あなたと舞にはあと風の適性がありそうです。彼女は優しいのできっと加護をくれるでしょう。」
「うん、わかった。」
ローリーもあまり考えるのは得意ではないが笑顔でウィンディーネに返事を返す。
「それでは三人には加護を他の者には祝福を与えます。」
そう言って皆に手をかざし光が降り注いだ。
「それとあなたは?」
「私は彩です」
「あなたはいい天職を持っていますね。あなたには私の眷属を与えます。15階層にいたケルピーの魔石はもっていますね。」
「はい、こちらに。」
そう言って彩はアイテムボックスから魔石を取り出しウィンディーネに渡した。
するとウィンディーネは魔石に力を送り込み始めた。
少しすると魔石は強く輝いて目の前には先ほど倒したケルピーが現れる。
「この子をあなたに与えます。通常時は魔石の中で眠っていますが、魔力を込めると召喚にこたえあなたの助けとなってくれます。大事にしてあげてね。」
「ありがとうございます。」
話のきりがいい所で今度はサトルが話しかけた。
「ところで、どのようにして対価を払えばいいのですか?」
「少し待っていてください。今から準備します。
シリキー、我が声にこたえ現れなさい。」
ウィンディーネがそう言うと目の前に17歳くらいの少女が現れた。
「お呼びでしょうか?ウィンディーネ様。」
「ええ、あなたに私の分体を宿らせ受肉させます。それで任務を果たしなさい。」
そう命令するウィンディーネの姿はとても凛凛しい。
先程の姿は見間違いではないかと思ってしまう。
シルキーはウィンディーネの前に立ち問いかけた。
「いかような任務でしょうか?」
その質問にウィンディーネは片手を前に突き出し真顔で答える。
「私は彼らに加護を与える代わりに対価として多くのアニメを見る権利を得ました。」
そこまで聞いてシルキーは主を冷たい目で見つめ始める。
「通常はその者たちの家の家事手伝いをし、手が空いたらアニメを見なさい。」
シルキーの目は現在マイナス100℃。
「そして、新たに放送されるアニメで私が言ったものを録画視聴するのよ。」
シルキーの瞳は絶対零度に到達した。
しかし彼女はプロであった。
「かしこまりました。精一杯励みます。」
「それでは頼みましたよ。」
そう言ってウィンディーネは自らを形成する水の一部をシルキーに宿らせる。
すると半透明だった体に輪郭が生まれ浮いていた体も地に足が付いた。
「それではみなさん、もし何かがあればシルキーに聞いてください。彼女と私はつながっています。それに私の加護を持つものなら水のある所ならお話位は出来ますから困ったときは語り掛けてください。」
そう言ってウィンディーネの体は崩れ消えていった。
「彼女かなり嬉しかったのね。凄い大盤振る舞いしていったわ。」
そして舞は自らの天職を確認した。
天職・・・ウィンディーネの加護者
スキル
水操作・・・魔力を使用して水を操れる。
水属性耐性・・・対象の属性ダメージを50%カット
武器生成・・・水で武器を作り出すことができる
交信・・・水がある所でウィンディーネと会話できる。
舞はこれを見て内心喜んでいる。
(これでサトルに付いて行ける。)
舞は平凡な自分ではいつか足手まといになると気にかけていた。
それほど天職を持っている者と持っていない者の差は大きい。
そしてこれを与えてくれた者たちに感謝し、サトルには抱き着いた。
あとはダンジョンコアの部屋のみ。
読んでいただきありがとうございます。




