第五十七話 組織壊滅
龍斗と紅蓮は部屋の前に立ち扉をノックした。
しかし返事はない。
仕方なく扉のノブを掴み回す。
しかし扉が開かない事からどうやら鍵がかかっているようだ。
その時スピーカーから声が聞こえてきた。
「ははは、馬鹿め、そこの扉と壁は特別製だ。貴様でもそう簡単には入ってこれんだろう。
俺はその間に撤退させてもらう。貴様ら覚えておけよ。必ず復讐してやる。」
そう言ってスピーカーの音はやんだ。
それを聞き終えた龍斗は、のんびりと携帯を取り出し美雪へ電話をかける。
「どうしたの?何かあった?」
美雪はこのビルを完全に包囲しているため焦ることなく聞き返した。
「それがな会長室からの脱出路があるようなのだが何か知ってるかと思ってな。」
龍斗も美雪の仕事を信頼しているため焦る気持ちはない。
「ええ、知ってるわよ。そこはすでに氷と水に満たされて閉鎖してるわ。」
「そうか。それではこちらはゆっくり追う事にするよ。」
「それならその部屋で待ってるといいわ。追い込むから。」
「そうか、任せたぞ。」
そう言って龍斗は電話を切り、扉はスキル{万物切断}を発動し切り裂く。
「紅蓮、奴はすぐ戻って来るそうなのでここで待っていよう。」
「そうか。」
そう言って二人は備え付けのソファーに座った。
その頃会長は脱出路の階段を必死に下りていた。
しかし途中から妙に寒いのに気づく。
(なんでこんなに寒いんだ?)
しかし脱出路はこの一つのみ。
ここを進むしかなかった。
しかしその進行もあと少しで出口の扉という所で停止した。
「なんだこれは?氷?・・・しまった魔法か!」
それに気づいた時耳元で声が聞こえた。
「逃げられると思った?わたし、あなたのような動物をイジメる人嫌いなの。だから逃がさないわよ。」
「たかが犬猫だろ、それが何だというんだ。そんな物、100や200どうなった所で知ったことか。」
「そう、それなら少しは彼らの苦しみを知ってもらおうかしら。」
その声が止むと足元から水があふれだし脱出路を満たしていく。
ボスは階段まで戻り様子をうかがう。
しかしそこで声が聞こえた。
「死にたくなかったら走ってね。」
そのとたん水の勢いは増し、足元をすごい勢いで満たしていく。
さらにその後、水は凍っていき道を閉ざした。
それを見たボスは死にたくない一心で来た道を戻る。
そして氷に足がとられる寸前に会長室へ転がり込んだ。
息を乱し周りを見る余裕すらない。
そして、ボスは体重を支えていたものが消え倒れこんだ。
「誰だ、何をする。」
「簡単なことだ。お前の足を切り取った。」
それを聞いて何のことか理解できずボスは自分の足を見る。
「な、何だこれは、ぎやあああああ、痛い、あ、足が焼ける。ああああ」
ボスはそれを自覚し、始めてその痛みを感じた。
切断面からは大量の血が流れている。
そして、自らの足は目の前に転がっていた。
「おっと、つい怒りに任せて簡単に殺してしまうところだった。」
そう言って龍斗はポーションをボスの足にかけた。
「どうだ、お前が今まで苦しめてきた者の痛みは。」
「何のことだ。儂はゴミのように生きている猫や犬をリサイクルしただけだ。それの何が悪い。」
そう言ったとたん、紅蓮の剣がボスのもう一方の足を叩き潰した。
「ぎゃああああああーーー。俺の足がーー」
そしてある程度苦しむとまたポーションを使い傷を治す。
「まあ、お前を殺すのは簡単だがな。しかしここは彼女に譲ろうか。」
そう言って龍斗は入り口を見る。
そこには女性が立っていた。
名を竜崎 澪 (リュウザキ ミオ)
組織に捕らわれ獣人を生み出し続けた人物だ。
「お、お前は、なぜここにいる。お前は輸送船で他の商品と一緒にすでに海上のはずだ。」
ボスはその人物を指さし叫ぶ。
「それならば俺たちがすでに捕らえている。中の獣人たちも救出済みだ。」
「くそー、無能共め。」
そこにいたのは、この組織に捕らわれていた少女だった。
いや、捕らわれていた間に少女は女性へと成長してしまっていた。
薬漬けにされ、意思を奪われ、そして多くの悲しみを与えられ、生み出してしまった。
船から救出された彼女はフレイの魔法により正気に戻った。
しかし朧気に覚えている捕らわれていた間の記憶と成長してしまった自分の姿を見て澪は現実を理解してしまったのだ。
そして大事なものを奪われたことへの悲しみを思い出した。
澪が捕まる際に殺された獣人は彼女の家族で愛犬だった。
彼女もまたサトルや彩の様に愛犬を救い、その極限状態の中で天職に目覚めた者の一人だった。
そこまでして救った愛犬が大事でないはずはない。
澪は意識がある間ずっと復讐することを考えていたのだ。
しかし、捕らわれている時に受けた命令を聞いて澪は絶望を覚えた。
「これからこいつらを獣人にしろ。」
男は犬や猫たちの入った檻を指さし澪に命令した。
「どうするのこんなに。」
澪は嫌な予感を感じたため男へと質問する。
「決まってるだろ奴隷として死ぬまで働いてもらうんだよ。しかし、ボスもうまい商売を考えたな。こいつらには人権がないから何をしても罪にならないぜ。ははははは」
それを聞いて彼女は即座に舌をかんだ。
しかし、男の持っていたポーションにより命は助かった。
そう助かってしまった。
そこからも彼女の苦しみは続いた。
毎日限界まで痛めつけられる日々。
それでも彼女は一度として獣人を生み出さなかった。
そしてある日、彼女は徹底的に拘束され身動きの取れない姿でボスの前に連れて行かれた。
「お前には手を焼かされた。しかし、その心配もなくなった。」
ボスは宇佐ら笑いを浮かべながら澪に話しかけた。
(何を言っているの?私は何があろうともお前たちの言いなりにはならない。)
そしてボスは胸のポケットから薬品を取り出し澪に見せた。
「やっと実験がうまくいってな。これを使えば使用者の意志を薄れさせ、ある程度言う事を聞かせられる。こんな風にな。」
そう言ってソファーに座っている虚ろな表情の男にボスは命令を出した。」
「自分の足をこのナイフで突き刺して捻れ」
そう命令を受けた男は立ち上がり受け取ったナイフで命令を実行した。
男はかなりの痛みがあるにもかかわらず表情一つ変えない。
それを見た澪は全力で暴れた。
しかし拘束は解けず、目の前では澪への投薬の準備が見せつけるようにゆっくりと準備がされていた。
その間も澪はもがき続けたが拘束は外れず、とうとう自分の腕に針が刺される感触があった。
その姿を見てボスは高笑いをつづけた。
澪はだんだんと薄れる意識にあらがったが薬の量を増やされるだけで最終的には何も考えられなくなった。
薬により虚ろとなった顔には涙の跡だけが残り、そこに意思は感じ取れなくなっていた。
その澪が意思を取り戻しボスの前に立っている。
そして紅蓮は澪に話しかけた。
「すまない、お前の事を探すのに時間がかかってしまった。」
紅蓮は彼女の誘拐を当時から知っていた。
しかし、今まで見つけ出すに至っていなかったため、救出が今となってしまったのだ。
今は政府どころか龍斗まで本格的に動いてくれている。
あの当時とは条件が大きく違った。
「いえ、仕方ありません。それに、謝ってもらっても彼は帰ってこない。」
そう言って彼女は一筋の涙を流した。
「それで、こいつはどうするんだい?」
「殺します。あと腕が2本も残ってますし、それを切り落とせば出血しながらゆっくり死んでいくでしょう。」
「そうか、それじゃ任せるよ。」
そう言って紅蓮はアイテムボックスから剣を取り出し渡した。
「ありがとうございます。」
彼女は久しぶりに持つ剣の柄を血が出そうなほど強く握った。
彼女は上段に剣を振り上げ鬼のような表情へと変わる。
そして、渾身の力でボスへと剣を叩きつけた。
「ぎゃあああ、やめろ、助けてくれ。」
「・・・・」
彼女は聞く耳をまったく持たず、再度剣を振り上げ・・・。
そして振り下ろす。
「やめ、がぎゃーーー」
その時、龍斗の耳にのみ美雪からの声が届いた。
そして小さな声でつぶやく。
「来たか。今すぐ会長室まで来てもらってくれ。」
「龍斗、誰か来たのかい。」
「ああ、彼が到着した。」
「そうかい、上手くいくといいけどね。」
そして、ボスが出血のために意識を失った。
龍斗はそれを見てポーションをボスにかける。
「何をするんですか?」
澪は鬼の形相のまま龍斗に問いかける。
「少し時間が欲しくてな。」
その質問に龍斗は曖昧に答える。
「この男の処遇は任されたと思っていましたが?」
澪はいまだに納得しておらず、剣を持つ手からは血が流れ始める。
「いや、こいつを処分するのは確定だ。しかしそれを君がするかどうかは今こちらに向かっている人物に会ってから決めてほしい。お、ちょうど来たか。」
そう言って龍斗は扉へと視線を向ける。
そして、何者かが彼女へと声をかけた。
「澪」
「その声は!」
澪は忘れることのない人物の声を聴いて後ろを振り向いた。
「そんな、あなたはあの時切られて・・・」
澪は信じられないという顔でその人物の顔を凝視している。
「澪、俺は君が攫われた直後に発見され病院に運ばれた。そこでその紅蓮さんに救ってもらったんだ。そして君を発見したという知らせを受けてここに駆け付けたんだ。」
その言葉が示す通り彼は肩で息をしており呼吸が乱れている。
額からは汗が玉になっており何を置いてもここへ駆けつけた事がうかがえた。
「・・・」
しかし、彼が話しかけても澪は俯き反応しない。
「どうした澪?」
そしてしばらく無言が続く。
しかし、最初に沈黙を破ったのは澪だった。
「私は罪を犯してしまったわ。多くの獣人を生み出し不幸にした。そんな私は貴方に触れる資格はないわ。」
澪は今にも泣きそうな顔をして力なく訴えた。
「たしかに君は罪を犯したのだど思う。それなら今から一緒に償っていかないか?」
「どうやって、すでに多くの命が失われてしまったのよ。」
「まだ失われていない命もたくさんある。」
男は叫んだ。
「彼らは今開放はされたが不安の中にいる。彼らを救う手助けをしていこう。俺たちになら出来るはずだ。」
「でもそんなことで・・・」
澪はその彼の話を聞くがいまだに迷いが強く納得できない。
そこで龍斗が話に入った。
「澪よ、そんな事というが今回救出した獣人だけでも何十人もおる。そして今海外に売られていった獣人の所在はすでに目途がついた。ここのボスはかなり詳細に取引の資料を作っておったからな。この組織をつぶした後は救出に向かう予定だ。」
龍斗は澪にこれからの行動を知らせる。
しかし。
「そんな事出来るはず・・・」
彼女からは否定の言葉が帰って来る。
しかし龍斗は力ずよく拳を握り話し出した。
「出来る。現在獣人を正式な国民とし、国が保護を表明したのは日本だけだ。
さらに獣人を奴隷として扱うためにこの組織との取引国は獣人を国民には出来ん以上。
気づかれずに隠密行動で連れ出せばそう文句は言えん。
それに澪、お主が獣人にした以上彼らは日本国民。
こちらが誘拐するのではない、これは救出作戦だ。」
龍斗は言い終わると視線を彼へと向ける。
それを見て獣人の男は澪に再度語り掛けた。
「澪、失われた命は戻らない。しかし救える命がまだ多くいる。俺たちで協力して償いをしないか。」
「・・・いいの、それで、私は許されるの?」
澪の目には涙が浮かび瞳には彼が移りこんでいる。
「澪、償いは一生続くかもしれない。その道を俺も一緒に歩かせてくれ。それとそろそろ俺の名前を言ってくれないか」
男はそう優しく促した。
「オグマーー」
そう言って澪はオグマの胸に飛び込んだ。
「私はもうあなたを離さないわよ。」
それを聞いてオグマも澪を抱きしめる。
「俺こそ、君の事は今度こそ一生護ってみせる。だからもうそんな顔はしないでくれ。」
「貴方の隣ならまた昔のように笑えそうよ。」
2人は泣きながらでも笑顔を見せる。
そして龍斗はボスを一刀のもとに切り捨てた。
「お主は被害者だが一般人だからな。今のお前が殺人をするのはお前自身のためにもよくない。これでいいじゃろ。」
「ええ、ありがとうございます。」
「それとどうだ、うちの会社に入らんか?お前さんたちなら大歓迎だ。」
「2人で相談させてください。」
そう言って澪はオグマを見て微笑んだ。
「いい答えを待っているぞ。」
そして4人は外に出て行った。
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