第五十五話 娼館制圧
サトルたちが港の倉庫街で戦っている頃、サトルの両親と美雪は港の船が見える場所にたたずんでいて。
彼らは先ほどの組織が所有する輸送船の到着を待っている。
船名と到着時間は判明しているため彼らはその船を探していた。
すると彼らの方へ、沖より一隻の輸送船が向かってくる。
3人はその船名を確認し、目標の船であることを知ると行動を起こした。
まず美雪は魔法で霧を発生させた。
そしてサトルの両親は海に向け跳躍し、海面を走って船へと向かう。
霧のため視界の効かない船に到着すると、彼らは船上に足を付けた。
そして、船の制圧が開始される。
出会う相手は声も上げられずに気絶させられていく。
しかし船の半分を制圧し終わったあたりで警報が鳴った。
どうやら侵入がバレた様だ。
船は急旋回をはじめ陸から離れようとした。
「逃がしません。」
しかしそれを陸から見た美雪は魔法を行使する。
膨大な魔力を使用し船の周りの海を凍らせ船の行動を停止させる。
そして船では最後の一人がサトルの母に滅多打ちにされて制圧は完了した。
制圧後、船は龍斗の手配した牽引船に引かれて陸へ運ばれていく。
船内の隠し部屋には、すでに複数の獣人が詰め込まれていた。
どうやら朝からのニュースを見た組織は素早く港から獣人を回収し、海外へ逃げる途中だったようだ。
それを見たサトルの両親は憤怒の表情になる。
「やはり皆殺しにするべきだったか?」
連行されていく船員を睨みながらサトルの父は怒りを示す。
「船員には無関係の人もいたかもしれないわ。ここは我慢しましょう」
そう言って同じ様に船員を睨み付けた。
「そうだな、サトルたちは敵の本拠地に向かっているのだったか?」
「いいえ、たしかその前に繁華街で強制的に娼婦をさせられている場所を襲撃すると紅蓮さんは言っていたわ。」
「そうか、そちらはサトルたちに任せ俺たちは本丸を叩くとするか。」
「そうね、トップが逃げないように先に向かいましょう。」
そう言って二人は美雪の元へと向かう。
そのころ、サトルたちは密かにバスで移動していた。
外からはありふれた観光バスだが中に乗っている者の表情は険しい。
窓が外から見えるタイプならばそれを見た子供は泣き出したことだろう。
そしてバスは繁華街から少し離れた人気のない道に止まりメンバー数名下ろし次のポイントへ向かった。
そして紅蓮は歩きながら話だした。
「今から向かうのはこの繁華街の闇の部分だ。中にいる獣人たちは客を取らされるために進化先を強制的に決められている。淫魔係の魔石を使い進化せられた者たちは常に相手を求めるような状態の者が大半だ。気をしっかり持つんだよ。」
俺たちは怒りを胸に目的の建物に入っていく。
拠点は5つあり、分散しているため人員は少ない。
そのため俺たちも分散し5つの拠点を同時に責めることにした。
そして入っていくと数名の人間が事務所で話をしていた。
サトル達はその声に聞き耳を立てる。
「おい、奴らに今日の薬は飲ませたのか?」
「ああ、さっき飲ませたところだ。ガキができると面倒だからな。」
「今日の客の予定はどうなっている?」
「夜からかなり入ってるな。このリスト見てみろよ。こんな有名人まで来てやがる。」
「ははは、よっぽど気にいったのか。」
「それと奴らの様子はどうだった。」
「獣みたいに発情しっぱなしよ。こっちまでその気になりそうで危なかったぜ。」
「手を出すにしてもほどほどにしろよ。ばれたら殺されるぞ。」
「ちげーねー」
そこで紅蓮が部屋に入って行く。
その顔には相手を誘う笑みが張り付けて。
しかし、扉の外で待機しているサトル達は知っていた。
その笑顔の下には怒れる虎が潜んでいることを。
「面白い話をしているな。私も混ぜてくれないか。」
「誰だてめーは。」
「いや、ここの話をちょっと小耳にはさんでな」
そこで紅蓮は腕を組み胸元を強調する。
「それで何の用だ。ここは紹介状を持った人間しか受け付けてねえぞ。それともここで働きたいのか?」
男たちは紅蓮の体を舐め回すように見て言った。
「いやー、ちょうどサービス業の仕事がしたくてここに来たのだ。」
そう言って紅蓮は微笑んだ。
「俺たちの相手をしてくれるってことだな?。」
「そう言うことだ。」
そう言うと紅蓮は優しく男に近づき腰に手を回した。
そして、そのまま腰をへし折った。
「え、・・・ぎゃああああ」
男はもがきながら倒れ叫んだ。
それを聞いた周りの男は紅蓮に襲いかかる。
紅蓮は最初の相手の拳をつかみ握りつぶす。
そのまま腹に一撃。男は大量の血を吐いて倒れた。
次の男は懐からナイフを出して切りかかる。
しかしそれを紅蓮は素手で掴みナイフをとりあげる。
そして、そのままナイフを男の胸に突き刺した。
そのさなか、紅蓮の顔は冷たく笑っていた。
そして部屋の外では男たちの仲間がサトル達に始末され、この拠点の制圧は終了した。
そして彼らは捕らわれている獣人たちの救助へ向かう。
扉には鍵がかかっていたが、紅蓮は気にせず扉をこじ開ける。
中を確認すると先ほどの獣人たちとは違い清潔な部屋があった。
そこには一人の美しい女性がベットに横になり、上気した顔でこちらを見ている。
そして、彼女はこちらに挨拶を始める。
「よくお越しくださいました。私の体を存分に楽しんでください。
貴方様の快楽が私の喜び。いかような行為も喜んで受けさせていただきます。」
それを聞いて紅蓮は顔を歪め全員に話しかける。
「これがここの現実だよ。それにこいつは本気でそう思っている。何人かは魅了のスキルを持ってるかもしれないから気を付けるんだよ。」
その時、彩が前に出てその女性に近づく。
その表情はとても悲しそうだ。
彩はこの間、サトルと恋人になったばかりだ。
それに自分の意志でサトルに身を任せ幸せを実感した。
しかし、ここにいる獣人たちはその権利も意志さえも奪われ、利用されている。
そしてこれからの人生すら奪われてしまっていた。
その怒りと悲しみの中、彩の中でも先ほどのサトルと同じように何かが組み変わっていくのを感じた。
彩は自分の天職を確認する。
天職・・・・ビーストマスター
スキル・・・契約、召喚、進化、強化、意思疎通、リスタート
・契約
レベル5毎に一匹の動物と契約できる。契約した動物の寿命は契約者の死亡まで。
・召喚
世界のどこにいても魔力を10消費し契約した動物を呼び寄せる事が出来る。
・進化
ステータスを得た動物が一定のレベル以上になった時、魔力と魔石を使い種族を変更できる。(使用魔石により能力変化)
・強化
契約した動物を強化できる。(最大基本ステータス50%)
・意思疎通
動物のみ心を通わせられる。
・リスタート
今まで使用した魔石の効力を消し新たな進化先から始める。
舞はそれを確認しアイテムボックスから魔石を取り出す。
それを見た紅蓮は彩に話しかけた。
「嬢ちゃん無理だよ新しい魔石を使っても前のスキルや天職の特性は引き継がれる。
それどころか強化されて酷くなるかもしれないよ。
第一こいつらはどう見ても再進化するにはレベルが足りていない。」
「大丈夫です。今彼女たちを助けられるスキルを手に入れました。」
彩は強い意志を目に宿し紅蓮に視線を向ける。
「そうかい、それじゃ任せたよ。」
そう言って紅蓮は彩にまかせることにした。
そして彩はスキルを発動する
「{リスタート}発動」
彩がスキルを発動すると{進化}の時のように魔石が魔力を吸い獣人女性を繭が包んだ。
しかし{進化}の時と違い魔力の消費が継続される。
この魔石を使用したとき、今までの経験から40ほどの魔力を消費した。
しかしこのスキルの場合はそこからさらに40の魔力を消費し、繭はその魔力で内側へと圧力をかけた。
すると繭から別の魔力が押し出され空気に溶けていく。
実際このリスタートで使用した魔力は
必要魔力 40 安定に40 以前の魔力の除去 40の 120である
その後、無事に繭は消え先ほどの女性が姿を現した。
それほど時間を置かず、彼女は目を覚ます。
そして彼女は自身の体の変化を確認した。
「体の火照りが消えてる。疼きも、性欲も収まってる。」
彼女は体の変化を一つ一つ確認していく。
しかし最後に自分が今まで行ってきたことを思い出す。
「あ、ああ、い、いやあああああああ」
彼女は頭を抱え泣きわめく。
正気でなくても記憶は残っている。
そのため、いかに自分が今まで浅ましく男を求めていたかを思い出し正気が保てなくなったのだ。
「サトル!彼女の記憶を消すんだよ。」
「はい。」
とっさにサトルはスキルを発動し彼女の記憶を消した。
しかし、サトルはとっさにスキルを発動したため、他のスキルの補助がない状態でのスキル発動となった。
そのため大きな精神負担を受け膝をつく。
そして彼女は気を失った。
紅蓮は確認のために彼女を起こすことにした。
進化直後のため身体的なダメージはない。
しかし、精神面での負担がどうなっているのか。
確認は必須であったからだ。
「おい、起きとくれ」
「う、うんん」
ほどなく彼女は意識を取り戻した。
「あ、あのあなた達は誰ですか?ここはいったい?確か私は・・・あ、痛。・・・ダメだわ、何も思い出せない。あの、あなた達は私の事を知ってる方ですか?」
彼女は記憶のほとんどを失っていた。
しかしそれは幸か不幸かで言えば幸福かもしれない。
進化する前はダンジョンで無理やりレベル上げをさせられ。
進化後は正気でなかったとしても娼婦をさせられていた。
そんなつらい記憶をもって生きるくらいなら最初からやり直した方が幸せだろう。
「私たちは貴方を助けに来たの。」
「助けにですか?」
「そうよ、今は私たちを信じてこの建物から出ましょ。」
「分かりました。ちょっと怖いですが貴方からは安心する匂いがします。」
そう言って彼女はサポート要員と外に出て行った。
「すみません、配慮が足りませんでした。」
そう言って彩は落ち込む。
「いや、初めてのスキルは未知の部分が多い。仕方ないさ。」
紅蓮は彩を励まし肩を叩く。
そしてサトルへと目を向ける。
「サトルは大丈夫か?」
「はい、もう大丈夫です。」
サトルはその言葉のとおり立ち上がる。
「そうかい、彩の嬢ちゃんはまだスキルは使えそうかい?」
「後一度が限界だと思います。それをすると魔力が枯渇しそうです。」
「そうかい、それじゃすまないけど他の子はいったん眠らせてから後日ってことでいいかい。」
「はい、その時は頑張ります。」
紅蓮はいったんの方針を決め次の行動に移る。
「誰か龍斗か銀二に連絡が取れるやつはいないかい。」
紅蓮は周りに問いかっける。
「はい、私が連絡係になります。」
すると一人の女性スタッフが声をあげて近付いてきた。
「それならこの情報を龍斗や銀二に伝えてもらっていいかい?」
「かしこまりました。」
彼女は携帯を取り出し他のスタッフに今の事を伝えた。
さらに、彼女は龍斗と銀二に彩のスキルの事を伝え指示を仰ぐ。
それにより被害者の女性たちは今は眠らせ。
後日、彩がスキルを使い開放することを決定した。
そして5か所の娼館は無事に制圧された。
女性たちは眠らされ龍斗が手配した病院に運ばれていった。
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