第百十一話 動物ふれあいパーク ①
次の日の早朝、ユナは世界樹を見ながら庭に立っていた。
ちなみに、彼女は黄昏ているのではない。
ここに来た目的の一つ武器のメンテナンスの為、世界樹の葉に朝露が出来るのを待っているのだ。
ここは、サラマンダーのおかげでいつも適温に調整されている。
そのため、昨日の夕食の時に相談するとウィンディーネが力を貸してくれる事になった。
彼女が庭の湿度を上げ、サラマンダーが朝の気温変化を大きくしてくれる事となったのだ。
そして、早朝になり太陽が顔を出そうとした時、庭の気温が低下し始めた。
すると世界樹に朝露が溜まり始める。彼女はそれを手に持った容器へと素早く集め始めた。
すると途中から龍斗、輝、栞が顔を出した。
「大変そうだな。少し手伝おうか。」
龍斗はその様子を見てユナへと話しかけた。
「助かるよ。入れ物は何でもいいか集めたら後でこちらで回収する。」
それを聞いてユナは笑顔で答える
すると3人は足元にバケツをセットし手には口が大きめのコップを両手に持つ。
そして、三方向から世界樹を取り囲む。
ユナは何をするのか疑問になり一度木から離れた。
「弥生さん、少し体を揺すってくれないか。」
するとその声に応えるように、風もないのに枝葉が揺れ雫が雨の様に落ちてくる。
3人はそれを空中でコップに受けて行きコップに溜まるとバケツに水を投げ入れていく。
バケツは瞬く間に朝露で満たされ今日だけで50リットルは回収できた。
それを見ていたユナは目を天にして口は開いたままだ。
「どうしたユナ。ここの木には意思があるのだから手伝ってもらえばいいではないか。」
そして龍斗達はバケツを家の中に持って入り再び寝室に戻って行った。
実は先日家が広がったことで部屋が余っているため草薙家の部屋もこの家に作っている。
基本的に寝るだけと言う事で簡素な部屋だが朝食をよくここで食べているので使用頻度は高い。
彼らなら、いつか精霊たちに庭を広げてもらい、自分の家を建ててしまいそうだ。
そして、しばらくするとユナも再起動し、ため息と共に家へと入って行った。
彼女はその水、聖水で昨日預かった美雪の杖と弓を拭いて浄化していく。
この二つは直接相手の命を奪わないため穢れは堪りにくい。
美雪の杖は問題なく浄化が終わる。
そして舞の弓矢に手を伸ばして拭き始めようとした時、彼女は手ぬぐいを置いてアイテムボックスから大きな浅い水槽を取り出した。
そこに聖水をなみなみと注ぎそこに弓矢を浸ける。
すると聖水は次第に黒くなり始め、数分後には真っ黒に変色した。
「かなり穢れが溜まってたみたいね。ここの聖水は村の物より高品質なのにここまで汚れるなんて。」
そして、ユナは穢れた水をいったん端に寄せてもう一つ水槽を取り出す。
そこに、残りの聖水の殆どを入れ弓を浸けた。
さすがに2回目はそれほど穢れは出なかった。
最後にユナは残しておいた聖水で弓を拭き乾かすために壁に立て掛けた。
「明日も集めないといけないかな。悪いけどまた手伝ってもらおう。」
そして、しばらくすると寅とアクアが起きてきて朝食の準備を始め風子が野菜の世話のために庭に出る。
そして、いつもの朝の風景になりユナは美雪に杖を。
舞には弓を渡した。
「舞、あなたの弓は穢れを溜めすぎよ。いい弓なのだから大事にしないと。」
それを聞いて舞は申し訳なさそうに頬をかいた。
「すみません。少し前まであまり使う機会が無かったので忘れていました。早めに一度送っておけばよかったですね。」
それを聞いてユナは苦笑と共に溜息を吐く。
「まあ、その場合だと追加料金を確実い取られてたでしょうけどね。まあ、ここにいる間はタダだから何かあったら遠慮なくいって。」
そしてユナは朝食の席へと向かい舞もサトルの傍の席へと座る。
すると朝には珍しく、家への来客を知らせるベルが鳴った。
「誰でしょうか?」
アクア達は朝食の準備で手が離せないためサトルが玄関を覗く。
すると、そこには最近見ていなかったリンダの姿があった。
サトルは門を急いで空けてリンダを家に迎え入れる。
「おはようございます。朝からどうかされましたか?」
彼女がここへ来るのは珍しい。
用事があるなら会社で事足りるからだ。
「緊急の案件です。」
そん言葉を聞いてサトルは瞬時に切り替える。
「分かりました。こちらです。」
そして、サトルはリンダと共に食堂に向かう。
リンダは食堂に入ると挨拶もそこそこに龍斗と美雪の元へと向かい手に持つ封筒を渡した。
龍斗はその封筒を開けると中の書類を確認しすぐに美雪へと渡した。
その書類を見た龍斗の顔は組織と戦った時のように静かな怒りを滲ませている。
美雪は次に輝と栞にその書類を渡した。
すると二人からは途轍もない怒りのオーラが一瞬放出される。
「すまない。しかしこれは酷いな。これは本当なのか?」
「ああ、獣人による匂いの確認。銀二による意思疎通の確認。そして・・・」
そこで龍斗は一旦言葉を止めて目をつむり苦い顔を浮かべる。
「南さんの霊的な確認。」
その言葉を聞いてサトル達は疑問に感じて龍斗に問いかける。
「そう言えば、前に彼女が変わった天職を手に入れたと言っていましたね。」
「そう言えばお前たちには何も話していなかったな。彼女の天職は聖女だ。」
「聖女ですか?」
龍斗は頷いて説明を続ける。
「この天職は白魔法使い型、最上位の一つと言われている。」
そこまで聞いて周りの者も話の大きさに驚いた。
「そんなに凄い天職をいきなり手に入る物なのですか?」
サトル達は龍斗ですら最初に手に入れた天職が剣士であると聞いている。
すなわち最上位とはやすやすと手に入らないのだ。
その疑問に答えたのは意外にもサラマンダーだった。
「彼女は愛犬たちを失って30年近く苦しんだ。
毎日仏壇に花を添え、線香を焚き、朝と夜に必死に彼らの冥福を祈った。
そして、彼女は最後にこの家の前で彼らを救う手段を純粋に祈った。
君たちならこの事の意味が分かるだろう。
そう言われて皆心で思う
ホロが死んでいたら。
スノーが死んでいたら。
リンネが死んでいたら。
そして、大事な者の死を。
そしてそれが希望に満ちていた直後に起き、更にそれが理不尽な物であったならば。
それを聞いた者は声に出さないが納得して頷いた。
「でも、なぜサラマンダーはそれを知っているの?」
至極当然な疑問が飛鳥の口から出た。
「彼女の純粋な気持ちに引かれてね。線香から彼女を見ていたんだ。知ってるだろ。私達は何処にでもいるんだよ。」
サラマンダーは苦笑して答える。
彼女が南に特別に加護を与え、サンとユエを付けた理由はここにあるのかもしれない。
エルフ「彼女は回復、解呪、支援、防御に優れ、更に除霊もでき霊と意思疎通も行える。そして、今回の問題となっている場所で彼女に確認してもらった」
そして龍斗は手元に戻ってきた資料に視線を落とす。
「そこには数百数千の動物霊が成仏できずに今も増え続けているようだ。早く対処しなければ危険だ。」
それを聞いてサトル達は顔を歪める。
既に多くの犠牲が出てしまっている事を後悔し、それを気付かなかった自分を恥じる。
そんな中、舞は龍斗へ確認のために話しかけた。
「でも、それなら地域の警察や市役所に話を持って行ったほうがよくないですか?」
舞は普通の事を言ったつもりだが龍斗の反応は良くなかった。
彼は書類を握る手に力を込めて今の意見に答える。
「俺達は1年以上前からここの調査をしている。」
「そんな前からですか?」
それを聞いて舞を含む多くのメンバーは驚きを隠しきれない。
いつもの龍斗ならもっと早くに調査を終えてもおかしくないからだ。
「ここは毎日巧みに動物たちを入れ替えていてな。全容の把握に手間取ってしまった。それに、この間の災害で調査も一時中断していたのでな。そのため、余計に時間が掛かってしまったのだ。」
龍斗は更に書類をめくり次のページを見る。
「それと地域の警察には既に地域から多くの苦情が出ているようだ。
資料によればこの施設が開園して今年で10年になる。
最初の5年は苦情もなく客足も順調で利益も大きかったようだ。
だが6年目から問題が発生し始めた様だ。
施設内から異臭がすると保健所に通報が相次いでいる。」
全員今の状況から何が起き始めたのかを察知して不快感に目を細める。
「保健所はその通報を受け施設を視察に向かっている。
だがその時は衛生面が良くないという通達をされただけで何も発見できなかったようだ。
だが、その後からさらに変化があったようだな。
これによれば異臭の匂いに変化が起きたと書いてある。
今までの腐敗臭から火葬場のような臭いに代わりそれは年々酷くなっているようだな。
それにより事件性を考えた地元の自治会が警察へ通報。
警察が確認に行き確認を行ったとある。
だが、彼らは専門家ではないので、おそらく施設の者に上手い具合に誘導されて現場を発見できなかった可能性が高い。」
そして龍斗は資料を閉じて皆に視線を向ける。
「実はこの依頼はこの県の知事からの依頼だ。
彼は俺の遠い親戚だがその伝で俺に依頼に来た。
彼はそこの地域住民の不安を晴らすために俺たちに協力してくれる。
既にこの件についての抜き打ち調査の準備を終え、俺たちを待っている状態だ。
彼も今回は俺たちに付いて来てくれる。」
そう言って龍斗は立ち上がる。
「今から彼と共にこの施設へ向かう。リンダ車の準備は?」
「そう言われると思い県庁にバスを準備してあります。」
その答えに龍斗は頷き外へと歩き出す。
サトル達も準備は出来ているため1分後には外に集まった。
「それでは行くぞ。」
龍斗は先頭を歩いて行く。
そしてその速度は次第に早くなり車のような速度で走り出した。
一行は街を迂回し山を一直線に突っ切って県庁に向かう。
彼らは20キロの距離を30分で走破し目的地である県庁に到着する。
するとその前にはバスが準備されておりリンダの誘導で乗車していく。
中には南に元支部長の秋山が既に席について龍斗達を待っていた。
そして近づくとその傍に二人の少女が同じように座っていた。
サトルは南達に近づいて行く。
「おはようございます。」
サトルは二人に挨拶を行い横の少女2人に目を向ける。
「この子達はもしかしてユエとサンですか?」
その声に二人の少女は頷いて答える。
「私がユエです。」
「私がサン。サトルさんお久しぶりです。」
ユエは髪を白くしており服は黒のゴスロリにしている。
サンは髪を金髪にしており服は白のゴスロリをしている。
2人とも顔を同じにしてまるで双子のようだ。
「上手に変身で来たね。どうだい南さん達とは仲良くできてる。」
2人とも笑顔で頷いて肯定を示す。
しかし、二人はサトルの耳元に顔を近づけ小声で付け加えた。
「秋山さんはいい人ね。彼ならご主人を任せられるわ。」
ユエはそう言ってクスクス笑う。
「でも秋山さんはヘタレだからちょっと心配。」
サンはそう言ってクスクス笑う。
どうやら関係も良好なようだ。
サトルはそれを聞いて安心して二人を見る。
そして、真剣な顔に戻って気を引き締めなおす。
そして、今にも泣き出しそうな顔で席に座る南へと話しかけた。
「お久しぶりです。」
その声に勢いよく顔を動かしてサトルへと視線を向ける。
「あ、おはようございます。ごめんなさい。いま余裕がなくて。」
それを聞いてサトルは目を細める。
「そんなに酷かったですか?」
そのサトルの言葉に南はその時の事を思い出し俯いてしまう。
「ええ、早く彼らを助けてあげたいわ。それに早く行かないと新たに犠牲になる命が・・・」
そこ迄話すと南の肩が震え始める。
サトルはこれ以上は今は話せないと判断して秋山に視線を向ける。
秋山は頷いて彼女の手を握り寄り添った。
その後、サトル達が席に座ると龍斗達が乗車してきた。
彼の後ろには美雪と、テレビでよく見るこの県の知事が付いて来ている。
知事はバスに乗ると社内を見回して話し始めた。
「おはようございます。今日は私のお願いを聞いていただきありがとうございます。私も出来る限りの協力をしたいと思いますので。一緒に頑張りましょう。」
そう言うと一礼して席についた。
すると龍斗は勢いで付いて来てしまった2人のエルフを呼んで知事に紹介した。
知事は初めて見るエルフに驚いたが龍斗の話を聞くと握手をして席で話し始めた。
おそらく薬関係の話を始めたのだろう。
そして、一行を乗せたバスは出発し目的地に走り始める。
目的地は動物ふれあいパーク。
そこでは今、新たな事件が起きようとしていた。
読んでいただきありがとうございます。




