第百四話 サクラの新生活 2日目 ①
朝になりサクラは目を覚ました。
そして、見知らぬ天井を見上げて昨日の事が夢ではなかった事を思い知る。
しかし、昨日に比べれば気分もよく体も軽く感じられた。
彼女は知らされていないが、昨日食べた寅の料理のおかげだろう。
そして、サクラは今初めて自分の周りに意識を向ける事が出来るようになった。
「なんだかすごく静か。」
彼女は人が滅多に来ない、町はずれの寺に住んでいた。
そこですら葉擦れの音に風の音など、色々な音を聞くことが出来た。
しかし、ここはまさに無音。
先日の修行がなければその異常な状態に逆に気分が落ち着かなくなっていただろう。
サクラは着替えると廊下に出た。
すると廊下を茶色いコーギーがブラシをくあえて歩いている。
そして、誰かの部屋の扉の下についている、犬用入り口から入って行く。
サクラはその部屋のネームプレートを見て誰の部屋なのか確認する。
そこには【サトル】と書かれたネームプレートがあり、先ほどのコーギーがホロであることにも気付く。
「なんだか色々な人たちが住んでるけど普通の家みたい。」
サクラは住んでいる者たちは異常なのに今の光景を見て緊張がほぐれるのを感じた。
サクラは再び廊下を歩き出す。
すると今度は前方から巨大な犬に乗った彩が現れた。
「おはようサクラさん。よく眠れた?」
彩は昨日のサクラの状態から少し心配そうに苦笑しながら問いかける。
「はい、昨日はご心配をおかけしましたが今日は大丈夫です。ところでそちらの犬はスノーさんですか?」
サクラは初めて見る犬状態のスノーを見て確認する。
「ええ、今からお散歩に行くの。この子も甘えん坊だから時々こうやって一緒に遊んだりするのよ。それじゃ、またあとでね。」
そう言って彩はスノーと一緒に外へと向かっていった。
サクラもそれにつられて庭へと出て青空の下、背伸びをした。
「なんだか山よりも空気が心地よく感じるわね。」
そして、周りを見回すと、昨日風子から聞いていた家庭菜園が目に入る。
そこでは朝ごはんのために風子が野菜の収穫を行っていた。
「おはようございます。収穫手伝いましょうか?」
サクラは風子に手伝いを申し出た。
「いいえ、もう済みますから大丈夫ですよ。」
しかし風子はサクラの申し出を断り畑の横へと視線を向けた。
それにつられてサクラも畑の横を見る。
確かにかなりの量の野菜がすでに収穫されており手伝いは不要なようだ。
「早くからお仕事頑張っているのね。」
「まあ、私は精霊なのでこれ位は大丈夫です。それにここの畑は2日で収穫できるのでしっかりお世話しないと。」
風子はすでに当たり前となっている異常を笑顔でサクラへと告げた。
「2日ですか?それだと土が痩せてしまいませんか?」
サクラは驚きに目を見開き周りの畑を見回した。
たしかにその短期間で収穫できればこの面先でも、あの人数を満足させる事は出来るだろう。
しかし、そんな急激な成長をすれば瞬く間に不毛の大地となってしまう。
サクラは自分の家でも木や植物を植える時に肥料を撒いたりしている事を思い出して風子に問いかけた。
「この野菜の種はノーム様が作られた特別製なのです。土地も四大精霊の加護のかかった特殊な土地なので大丈夫だそうです。」
そう言って風子は種の入った袋を腰のアイテムボックスから取り出した。
「もし良ければ、種を蒔くのを手伝てもらえませんか?」
風子は笑顔で種の袋をいくつも手に持ってサクラへと見せる。
「いいけど、まず畑を耕さないと・・・」
そう言いかけた時サクラは風子が収穫を終えた畑を見て驚きに言葉が止まる。
いつの間にか根野菜を抜いた穴は塞がり、キュウリやトマトなどの実を食べる野菜などで収穫が終わった物は地面へと沈んでいく。
「これはいったい何?」
サクラはその光景に目にして風子へと問いかけた。
「フフ、初めて見ると驚きますよね。」
風子も初めて見た時は自分も驚いたのでサクラの反応を見て軽く笑う。
「ノーム様が畑を毎回耕すのは大変だろうと言って細工をしてくれました。
これでも最初は皆で耕して畑を作ってんですよ。」
そう言ってあの時を思い出しながら畑を見回した。
「そうなのね。まあ、大精霊があれだけいたら何でもありかもしれないわね。」
サクラも畑に視線を向けてため息を吐く。
そして、サクラは自分の中の常識が通用しないこの家で、自分の常識がどんどん壊れていくのを感じた。
「それでは種を蒔くのをお願いします。」
風子はサクラの戸惑いを気にする事なく種の袋を手渡した。
「蒔き方は分かりますか?」
「一応知ってるけどここだと常識が通用しないから教えてもらえる?」
サクラは先ほど風子が言っていたこの種が特別製であることを思い出し確認を取る。
「今渡したのは人参の種なので、それを30センチ間隔で一粒ずつ畑に埋めてください。」
「一粒でいいの?普通は3粒くらい蒔くわよね。」
「はい、でもこの種は必ず芽が出て成長するので大丈夫です。」
「そうなの、便利なものね。」
そしてサクラは種を蒔いて行く。
風子も収穫を素早く終わらせてサクラと一緒に種を蒔いた。
「終わったみたいですね。」
風子は畑を確認して如雨露で水をまき始めた。
「風子さんそんな小さい如雨露だと水汲みが大変じゃない?」
サクラは風子の如雨露のサイズを見て畑の面積に見合っていないため心配する。
彼女が今使っているのは1リットル程しか入りそうにない象さん型如雨露だ。
それだとこの畑に水をまき終えるのには何十回も水を補給しなければならない。
「大丈夫ですよ。」
それだけ言って風子は水をまき続ける。
サクラはそれを見てすぐにその言葉の意味を理解した。
「その如雨露、なんで水が無くならないの?」
そう、いつまで経っても水が切れなのだ。
すでに見ている範囲でも10リットル異常は畑に撒いている。
「これはウィンディーネ様が水撒きが大変だろうと言って作ってくれた特別製の如雨露なのです。ここの敷地内限定ですが水が切れなくて便利ですよ。」
それは既に便利の域を超えているとサクラは思った。
「ここは本当にすごい所ね。」
そう言ってサクラはため息をついた。
それを聞いて風子は軽く笑って水を撒きながらサクラへと話しかける。
「そうですね。あの6人の方達は凄い力を持っていますね。でも、その心は今はとても人に近い存在です。だから怖がらずに普通に接してあげてください。」
そして、ちょうど水を撒き終わったのか、水撒きをやめて風子はサクラへ視線を向けた。
「そろそろ朝食の時間なので戻りましょう。ここのご飯は日本一ですよ。」
そう言ってサクラに笑顔を向ける。
サクラはその言葉を聞いて昨日の夕飯を思い出した。
「いつもあんなに美味しいご飯を食べてるの?」
サクラは不意に心配のなり風子へ問いかけた。
「昨日は特別メニューですよ。」
それを聞いてサクラは残念なようなホッとするような、そんな微妙な気持ちになる。
(そうよねあんなに美味しいのは特別よね。あんな美味しいご飯を食べ続けてたら家に帰れなくなるわ。)
「今日は通常メニューですけど美味しさは変わりませんよ。」
風子は今日のメニューの事を思い出しながらウキウキとした感じで答える。
(私、このから離れられるかしら。)
しかし、サクラは風子と違い胸に不安を抱えて朝食に向かう。
だが彼女は知る事なる。
如何なる不安も美味なる食事の前には無意味であることを。
サクラは今日も食卓という戦場に向かい箸を振り下ろす。
「はあー、また一心不乱に食べてしまった。」
(どうしよう、このままだとホントに帰れなくなる。)
サクラは満腹になったお腹を摩りながらため息をついた。
すると何処からやってい来た子犬がサクラにじゃれ付いてくる。
周りを見ると皆、自分の部屋に戻ったのか誰もいなくなっていた。
サクラはもう一度周りを見回して誰もいない事を確認すると、子犬を膝の上に抱き上げて撫で始めた。
「ああー。このフワフワ感、この家に来て初めて癒される。」
サクラは時間を忘れて子犬を撫でつづけた。
そして、サクラは軽い気持ちで子犬に悩みを打ち明けた。
「私、いつかは家に帰らないといけないのに、家に帰れる自信がないの。」
子犬はそれを聞いて首を傾げる。
(可愛いー。)
「ここのご飯が美味しすぎるのよ。それに、ここの人たちはみんなすごい人たちばかりで私がここにいていいのかな?って思ってしまうの。」
すると子犬はサクラに顔を向けて視線を合わせる。
少しの間、見つめ合っていると突然子犬が話し出した。
「大丈夫。サトルさん達も最初は強くなかったもの。あなたも頑張れば強くなれるわ。」
サクラは突然喋り出した子犬に驚いて混乱して動けなくなる。
「あれ、あなた喋れるの?獣人?精霊?でもこんなフワフワで・・・」
サクラが混乱していると扉を開けてサトルが入ってきた。
「サクラさん若葉を、子犬を見ませんでしたか。」
サトルは部屋を見回しながら問いかけた。
するとサクラは首だけでサトルへと視線を向ける。
「そ、その子ならここにいますよ。」
サクラはぎこちなく自分の膝の上を指さしてサトルに答えた。
「ああ、よかった。探していたんです。相手してくれてたのですね。ありがとうございます。」
サトルはそう言うとサクラに近寄る。
サクラは若葉を手に抱えて持ち上げた。
その時、若葉から思念がサクラへと送られる。
(今の話は二人の秘密にしておくね。)
それを聞いてサクラはホッとして若葉へと視線を向ける。
「サトルさん、この子は精霊ですか?」
サクラは先程からの事で疑問に思った事を若葉を渡しながら問いかけた。
「この子は俺の剣ですよ。」
「剣?この子犬がですか?」
サクラはこのフワフワした子犬が剣であると言われても信じられず聞き返した。
「ええ。若葉見せてあげて。」
サトルがそう言うと若葉は光りながら剣の姿へと変わる。
それを見てサクラは今日、何度目か分からなくなるほどの驚きの表情を浮かべた。
「これが若葉の本当の姿です。若葉、もういいよ。」
すると再び剣は子犬の姿に戻りサトルの腕に抱かれた。
「まあ、家に居る時は基本この姿なので話し相手になってあげてください。」
サトルは笑顔でサクラへとお願いした。
「え、ええ。分かりました。若葉、またお話しましょ。」
そう言ってサクラはぎこちない笑みを浮かべて部屋を出て行った。
「若葉サクラさんと何話していたんだ?」
「それは秘密です。」
若葉はそう言ってサクラとの約束を守って秘密にした。
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