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第百一話 ノームの休日 ①

私はサトルの家に住むようになって、ある方向がずっと気になっていた。

そちらからは私以外の土の精霊の力を感じる。

しかし、この感じだと、あと数年もしたら消えてしまうかもしれない。

でも、サトルの家から出る事の出来ない私は何もする事が出来なかった。


そんなある日、ここの家主であるサトルから畑について相談された。

私は種を作って渡し、彼はそれで畑を作った。

そして収穫の日、精霊王が現れた。

そこから私の行動は始まる。

精霊王が世界樹を植えてくれたおかげで顕現したまま外を出歩けるようになった。


私はその日の夜からその精霊の場所へと向かった。

そこは山の中腹にあるお寺。

そこの未完成の仏像に精霊は宿っていた。


「あなたはどうしてそこから離れないの。このままだと消滅するわよ。」

ノームは仏像に向かって語り掛ける。

すると仏像が鈍く光りそこから光の弾が現れた。

「もう姿も保てなくなっているのね。」

「はい、しかし私はここを離れるわけにはいきません。」

光の弾は光を明滅させながら力なく答えた。

「ここの初代住職との約束なのです。この町をここから守り続けると。」

「そう、でもなぜそんなに弱っているの?そんな消えそうになるまで力を使って。」

ノームは消えそうな精霊に悲しそうな視線を向けた。

精霊は一途なため、一度決めたら消滅しようともやり遂げる。

それは意識が強い者ほど強く、この精霊ほど自我がハッキリしていれば確実に消滅するまでここを動かないだろう。


「この前の豪雨で山が崩れかけ土砂により大災害が起きようとしていました。

私は初代との約束を守ってそれを止めました。しかし、その際に敷地内の多くの仏像が流されてしまい私も限界まで力を使ってしまったのでこの有様です。

約束通りこの町が守れたので、これで消えてしまおうと私は満足です。」


それだけ言うと精霊は仏像へと戻って行く。


「待ちなさい。」

しかし、ノームは精霊を呼び止めた。

「あなたが弱っている理由は分かったわ。じゃあなぜ回復しないの?」

「この仏像が未完成な事と、敷地内の仏像が流されてしまい私に流れ込む力が弱まったからです。さらに、今も山が落ち着くまで私が力を消費し押さえています。しかし、私が消滅するころには山も落ち着くでしょう。」


「それなら、仏像が完成すればあなたはたは助かるの?」

ノームは未完成の仏像を見つめながら問いかける。

「今このお寺の娘さんが頑張ってくれていますが無理でしょう。この巨大な体を完成させるためにはもっと長い年月が必要です。」

それを聞いてノームは顎に手を当てて悩む。

自分の力を使えば完成させるのは簡単だろう。

しかしそれではこの精霊は納得しそうになかった。

「分かったわ。あなたが助かるように私も少し動いてみる。」

ノームはそう言って来た道を戻る。

精霊は無言で仏像へと戻って行った。


ノームは次の日の朝、再び寺へと向かう。

今、仏像を彫っている寺の娘というのに会うためだ。

寺の境内に入ると遠くから

「カン、カン」

という音が聞こえてくる。

どうやら今も仏像を彫っているようだ。

ノームは本堂を回り、仏像の前まで移動する。

そこには黒髪に赤い袴を着た女性がノミと金槌を手に一心不乱に仏像を彫っていた。

しかしその作業は遅く、精霊が言うようにこのままでは間に合わないだろう。

ノームは作業を確認すると女性に話しかけた。


「こんにちは。」

「・・・・・」

どうやら集中しすぎて声が届いていないようだ。

「こんにちは。」

ノームは今度は大声で話しかけた。

「!」

その声に驚きその女性はノームへと振り向く。

「ごめんなさい、集中していて。」

女性はノームへと向き直り頭を下げて謝罪した。

「いいのよ、その気持ちは私もわかるから。あなた、お名前はなんていうの?」

ノームは自分にもよくある事なので笑顔で答え、彼女の名前を尋ねた。

「私はサクラと言います。あなたも何か彫ったりするの?」

サクラは自分と同じような相手は初めてのようで、目を輝かせながら問いかけた。

「ええ、こんなのを彫ったりするわ。」

ノームは腰のバックから3メートルを超えるフィギュアを取り出した。

それをサクラは見上げて口を開けたまま驚いたがすぐにノームへと視線を戻した。

「凄いですね。これをあなた一人で彫ったの?」

「ええ、これ位は造作もないわ。あなたはあまり捗っていないようだけど。」

ノームは苦笑しながら桜へと告げた。

「ええ、初代は生涯をかけて48体の仏像を彫り、この最後の仏像を彫ってる最中に亡くなったらしいの。だから私がこれを完成させようと頑張っているのだけどなかなか進まなくて。」

サクラは仏像を見て悔しそうに顔を歪める。

「でも、一生かかっても達成して見せる。」

そして強い瞳を仏像へと向けた。


「それじゃあ、遅いわ。」

しかし、その決意をノームは否定する。

「遅い?どうして?」

ノームは精霊の事を話し、あと数年で消滅することを伝えた。

それを聞いたサクラは目を大きく見開き仏像を見る。

しかし、彼女がなぜそんな事を知っているのかサクラは疑問がわいた。

「どうしてあなたがその事を知っているの。」

サクラは警戒しながら問いかける。

ノームはサクラに真直ぐ向いて自分の正体を告げる。

「私は土の最上位精霊ノーム。ここの精霊の消えそうな気配を感じて来たの。最初は私がどうにかしてあげるつもりだったけど。それだとこの精霊は納得しないわ。それで、やり方を変えることにしたの。」

「やり方を変える?」

サクラは初めて目にする精霊という存在に驚いた。

そして、ノームの真剣な顔を見てノームを信じる事に決めた。


「そうよ、あなたには試練を与えるわ。」

そしてノームはサクラを仏像がある場所のさらに奥。

岩が重なり浅い空洞になっている所へ連れて行った。


「ここは初代が修行した洞穴。ここで何をするの?」

そう言ってノームへ視線を向けるとそこに彼女の姿は無かった。

そして、入り口が突然岩で埋まり閉じ込められ、周りは光のない闇に閉ざされた。


そして、何処からかノームの声が聞こえた。


「ここで生き延びなさい。」

「いつまで生き延びればいいの?」

しかし、その声に答える者はなく暗闇と無音だけが広がる。


サクラは一条の光もない世界に見る事を諦める。

そして、闇に耳を澄ませるが何も聞き取ることはできなかった。

サクラはこの闇の中での移動は危険と判断して体力を温存するためにその場に座った。

「痛。」

サクラは足元に転がる石がお尻に当たる。

「痛ー、何だろなんだか石がいっぱいある。ここってこんなに足場悪かったかな。」

そしてその日は何も口にせず眠って時間を費やした。

次の日の昼頃、サクラは激しいのどの渇きを感じた。

しかし、食料も水も持ち込んでいないサクラにそれを解消する術はなかった。

人間は1日に2リットルは水を必要とする。

サクラは脱水症状を起こす寸前だった。

するとわずかに水が流れる音が聞こえる。

サクラは最初その音を幻聴だと思い無視することにした。

しかし、喉の渇きがピークになった事からサクラは立ち上がり移動を決意する。

サクラはその音を頼りに壁に手を付け、少しずつ音の方へ近づいて行く。

すると、そこには壁から染み出すように僅かな水が流れていた。

サクラは服を破り水を吸わせるとそれを口に運び喉の渇きをいやした。


サクラは初代の修行内容をこの時思い出した。

彼はこの洞穴に1年籠り飢えは木の根や虫でしのいだという。

そして喉の渇きはここで癒したのだろう。


サクラは喉の渇きをいやすと天井から垂れ下がる木の根を千切って口へと運ぶ。

その味は酷い物で根の味に土の味が混じり嘔吐感が沸き起こる。

しかしそれを堪えて少量を食べきった。

この暗闇では虫は捕まえられそうにないので最初から選択肢から外した。


サクラは何故ノームがこんな事をしたのかを考える。

「彼女は試練と言って私をここに閉じ込めた。

期限は決まっていないから、きっと私が何かしないといけないんだろうけど何をすれば?」


そう考えている時、再び足元の石に手が当たる。

そして、ノームが自分の前に来た目的を思い出した。


「そうよ、ここは大事な場所だからこんなに散らかしてない。いつも私たちが掃除して綺麗にしているのだからこんなに散らかっているはずないのよ。」


サクラは足元の石を拾う。


「でもどうやって彫ろう?」

今のサクラは何も道具がなかったノミも金槌も閉じ込められた時に足元へ落してしまい場所が分からなくなっている。


「仕方ない。探しに戻ろう。」

サクラは再び壁に手を当てて出口へと戻り始めた。

そして、落としたであろう出口付近に到着すると必死にノミを探す。

「これは違う、これも、見つからない。」

そして、暗闇と無音、そして焦りからサクラの目に涙が浮かび始める。

そして探し始めて数時間がたち外では日が沈もうとしている時サクラは何者かの僅かな気配を感じた。

その気配は通常なら気づくことが出来なかったであろう僅かなものだった。

その気配はサクラの手に軽く触れると、ある所へと誘導した。

サクラはその誘導に逆らわず手を進める。

するとそこには探していたノミが落ちていた。

サクラがノミを慎重に掴んで持ち上げると気配は消え何も感じられなくなった。


「今のはいったい?」

サクラは闇に目を向ける。

しかし、答える者のいない今、彼女は感じた気配の事を後回しにし足元の石を拾った。

そして、仏像を彫る時のように一心不乱に彫り始めた。


サクラは喉が渇けば水を飲み、腹がすけば木の根を口にした。

そして時間の感覚もあいまいになり彼女は手をボロボロにしながら石を彫り続けた。

外では5日の時が過ぎていたが、サクラにはその何十倍の時間にも感じられた。

しかし、いまだに石を彫る速度に大きな違いは現れなかった。

サクラの体は限界に近づきとうとう意識を失い地面へと倒れた。


そして彼女は夢を見た。

そこでは何処かの僧侶が仏像を彫っていた。


サクラはその僧侶に近づいて話しかけた。

「あなたはどうして仏像を彫っているのですか?」

サクラが問いかえると僧侶はサクラを見る事も手を止める事もなく答えた。

「俺はこの国を守るために軍人になりたかった。しかし、審査に弾かれてその望みは叶わない物になった。」

そう言った僧侶の気配には悲しみが感じられた。

「それならと俺は故郷に戻ってこの町を守ろうと思った。でも俺に出来る事は霊を払う事と仏像を作る事だけだ。だから俺はこの町を見守れるこの場所に寺を立て仏像を彫っている。俺が死んだ後でも町を守ってくれるようにな。」

そう話している僧侶はあっという間に仏像を一体彫り終えた。


「どうしてそんなに簡単に岩を彫れるのですか?」

サクラは必死の思いで問いかけた。

どんなに頑張ってもできない事をこの僧侶は簡単にしているからだ。

「あえて言えば心だな。無心ではだめだ。この世の物には全て精霊が宿り心を持っている。それを感じないと魂が入った物は出来ない。もし、お前が彫っている物が上手くいかないのなら。それはそこに宿る精霊がその形を嫌がっているからだ。もっと耳を澄ませ。心を籠めろ。そうすれば自然とその者の望む形に彫ることが出来る。」

そう言って初めて僧侶はサクラへと顔を向けた。


その姿は寺の肖像画にある初代その人だった。

読んでいただきありがとうございます。

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