第百話 不器用な愛 ④
アクアがキッチンを飛び出した後。
寅の元へ飛鳥がやって来た。
「寅、大事な話があるのちょっとこっちに来てくれる。」
飛鳥は真面目は表情で寅へと話しかけた。
寅はアクアの事が心配だったがどう行動すればいいのか分からずキッチンで棒立ちになっていた。
そのため、今は飛鳥の話を先に聞こうと、とりあえずは彼女へ着いて行き食堂の椅子へと座る。
飛鳥は寅の向かい側に座りすぐに本題の話へと入る。
「寅、あなたはシルフの契約者だし、これからの事も考えて精霊の事を少し教えておくわ。」
それを聞いて寅は意識を切り替え飛鳥へと意識を向ける。
「精霊はね。とても一途で真直ぐなの。一度愛した相手は余程道を踏み外さない限り裏切らないし。愛が冷める事もないわ。」
「それなら俺だって一緒だ。」
寅は無意識に声を荒げる。
「私は貴方の愛を疑っていないわ。ただ、精霊は一度相手を愛してしまうとそう簡単には忘れられない。もしかするとその存在が消滅するまで永遠にね。」
その言葉を聞いた時、寅は初めてこの話の重大性に気づいた。
「だからその事だけは忘れないで。」
飛鳥はそこ迄話した時、入り口の扉へ視線を向ける。
「来たみたいね。全てを受け入れろとは言わないわ。でも嘘で誤魔化さないで。本気の心を伝えてあげて。」
そこまで言って飛鳥は空へと消えていく。
その直後扉がノックされアクアが部屋へと入ってきた。
だが、いつもは完璧な身嗜みの彼女だが少し髪が乱れ、目元は赤くなっている。
しかし、彼女はいつもと違い力強い目をしており強い感情を感じる。
寅は立ち上がり、アクアの元へと歩いて行った。
寅はどう声をかけていいのか分からず立ち尽くしてしまう。
だが、アクアはその事が分かっていたのか自分から話し始めた。
「寅さん、私はシルフ様のように立派な精霊ではありません。
ついこの間まではただのシルキーで体もなく、心さえあやふやでした。」
彼女は自分を卑下しながらも視線を寅から外さず、真直ぐ寅の目を見つめる。
寅もアクアの言葉を聞き逃さない様に全神経をアクアへと向けた。
「肉体を得てもそれはあまり変わらず、ただ制約が増えて面倒臭くなった位にしか思ていませんでした。でもあなたと同じキッチンに立った時、この体を得て初めて嬉しいと思ったのです。」
彼女はそう言うと寅の前で初めて、見て分かるほどの笑顔を作った。
寅はその笑顔に見惚れ一瞬息が止まる。
「私は貴方といる時だけ嬉しさや楽しさ。そして悲しさを感じられる。それを私はシルフ様に教えていただきました。」
そこまで話を聞いて寅はアクアの言葉にシルフの名前が出てきたため彼女へ問いかけた。
「シルフはこの事を知っているのか?」
寅の声と表情には驚きの感情が混ざる。
「はい、シルフ様はあなたが受け入れてくれるなら一緒にあなたを支えて行こうと言ってくださいました。」
その言葉を聞いて寅は悩みながらも嬉しさを感じた。
シルフの信頼を感じられて嬉しさを感じる。
しかし、寅は彼女を料理の時以外に意識した事は無かった。
だが、寅にとっては料理とは自分を表現する全て。
寅はこの数日の事を、アクアと過ごした時間を思い出した。
彼女に技術を教え、共に料理をした日々。
傍にいながら交わした言葉は少なかったが、それでも相手の事が理解できる瞬間。
まるで何年も共に過ごして来たような一体感。
それらを総合して考えた寅はある一つの結論に達した。
「俺もアクアと料理ができて楽しかった。恐らく一生お前以上の相棒は見つからないだろう。」
アクアはその言葉を聞いて嬉しく思ったが相棒と言う言葉に少し表情を曇らせる。
「相棒ですか・・・。」
アクアはその言葉を言うだけで精一杯だった。
だが寅の言葉は続く。
「そうだな、今は相棒だ。でも、お前が俺の事を思ってくれるなら。相棒兼、妻として俺の横で一緒に包丁を握ってくれないか。」
その言葉は紛れもなく告白の言葉だった。
そして、アクアは嬉しさのあまり涙を流しながら寅へと抱き着いた。
寅も彼女を抱きしめ返しながら最後の言葉を伝える。
「今まで自分の気持ちにもお前の気持ちにも気付けなくて済まない。俺はお前の事を愛している。」
「私もあなたが必要です。この気持ちに気付けたのはつい先ほどですが、もうあなた無しでは私は生きていく自信がありません。」
そう言ってアクアは寅の首に手を回して背伸びをして寅へと口づけをした。
そして、二人が落ち着いたのを見計らってシルフが部屋へと入ってくる。
「寅が受け入れてくれて良かったわね。」
シルフは笑顔でアクアに話しかけた。
「はい、これからも彼の隣は私が守ります。」
アクアは今までの無表情が嘘のように満面の笑顔で答え、寅の左腕をその胸に抱き寄せる。
「それなら、反対は私ね。」
シルフもそれに乗って反対の腕を胸に抱き寄せた。
しかし、このような事に免疫のない寅はその直後、固まって動けなくなってしまった。
それを見た二人は互いい笑いあってしょうがなく離れる。
この三人の関係はこれからも良好に進んで行きそうだ。
そして、再起動した寅は遅れを取り戻すように料理へと没頭する。
その日の夕飯は今までで最高の出来となり全員の意識を刈り取る寸前までいった。
そして、今日の料理を食べた召喚獣と世界樹は再び成長を遂げ体が少し大きくなった。
料理を食べ終え、サトルは全員揃って居間で寛いでいた。
最近はウィンディーネも落ち着いてきたようで食事に顔を出すようになっている。
他の二人の精霊も寅の料理に引かれて必ずではないが料理を食べに姿を現すようになっていた。
そのため、今のように全員揃う事が、寅がここで包丁を握るようになってからは増えてきていた。
多くのメンバーがその光景を見て顔をほころばせる。
そんな時、飛鳥はサトルへと気になっていた事を指摘した。
「サトル、あなたのアイテムボックスから声が聞こえるけど思い当たることはない?」
飛鳥は首をかしげながらサトルのアイテムボックスを指さした。
サトルはその言葉を聞いてドワーフの里長が言っていた事を思い出だし、急いで自分の剣を取り出した。
すると剣を取り出した直後、サトルへと剣の思念が伝わってきた。
(寂しい。)
(暗い。)
(主とお話したい・・・)
その思念が届いた時、サトルは言葉を失った。
最近、家の事で忙しかったために完全に存在を忘れていた。
サトルは剣を掴んで素直に謝る。
「ごめん、構ってあげられなくて。ワザとじゃないんだ。」
何処か仕事が忙しくて週末、子供に構ってやれなかったお父さんのようだ。
それを見てサトルの両親が息子へとアドバイスを送る。
「サトル、意思を持ったばかりの武器は子供同然だ。しっかり相手してやらないとダメだぞ。」
「そうよ、ヘソを曲げられると大変なのよ。」
そう言って二人はアイテムボックスからそれぞれ武器を取り出した。
「2人とも武器をちゃんと持ってたんだね。」
サトルは初めて見る二人の武器に目を向けながら微笑した。
「まあ、持ってみろ。」
輝はサトルへと無造作に自分の剣を渡しす。
その途端、剣から思念がサトルへと届いた。
(我に触るな未熟者。)
「うお、」
そして、その思念が届くと同時に剣が急激に重くなっていき剣を手放してしまった。
剣は地面に落ちると跳ねる事無く鞘の部分が床を突き破り半分ほど埋まった所で止まった。
サトルはそれを見て何が起きたのか分からず輝の顔を見る。
「すまんなサトル。体験してもらった方が早いと思ってな。」
輝は苦笑しながら剣を手に取り床から引き抜いた。
「こいつも自我を持っているが気難しい奴でな。認められないとこうなるのだ。」
そう言うと剣から周りに思念が発せられる。
(輝よ悪ふざけはやめろ。この中で俺を手にする資格があるとすればお前とそこの男のみ。)
そう言ってそれ以降は沈黙した。
「まあ、俺の武器はこんな感じだ。もう一人はおそらく龍斗さんだろうな。」
そう言って輝は剣をアイテムボックスにしまった。
次に栞が武器を手にして話しかける。
「黒百合、挨拶なさい。」
栞が話しかけると黒百合と言われたガントレットは周りへと思念を飛ばす。
(お初にお目にかかります。私は黒百合と言います。)
そう言って思念は止まる。
「この子は大人しそうに見えるけど認めていない人が装備するとその手を食い尽くしてしまうの。」
栞はそう言いながら優しく黒百合を撫でる。
「それは呪われた武器なんじゃあ・・・」
サトルは恐る恐る栞へ尋ねる。
それを聞いて栞は少し笑った後に答えた。
「対応が厳しいだけよ。呪われてたら使うたびに手を食べられちゃうわ。」
そう言って栞も武器をしまった。
「まあ、私達の武器は個性が強いし強力だから今まで使う必要がなかったの。サトルも見るのは初めてよね。」
「そうだね。もし知らずに装備しようとしたら大変な事になってるだろうから納得したよ。」
サトルは少し額に汗をかきながら昔の自分なら確実に装備したくなると直感した。
その時は剣が新築の床に穴お開けるか。
手を食い千切られる未来が待っていただろう。
そして、床に開いている穴を眺めて精霊たちに申し訳なく視線を向けた。
飛鳥は苦笑しながらため息をつきパチンと指を鳴らす。
すると床は元に戻り穴が消えた。
「でも、剣を出しっぱなしにするのは気が引けるんだけど。」
サトルは素直に皆へ相談した。
「なら私が何とかしてあげる。」
そして、サトルの悩みに飛鳥が手を上げた。
「私はまだみんなと違って加護しかあげてないから少しサービスしてあげるわ。」
飛鳥はそう答えると剣に近づいていく。
剣の前に立ち、指を噛んで血を出すと剣へと一滴垂らした。
そして、素早くサトルの手を取り噛みついた。
「痛ーー。」
サトルは突然の飛鳥の行動に対応できずに顔をしかめ痛みを叫ぶ。
そして、飛鳥が口を離すと手にはくっきり歯形が付いており、そこから出た血が飛鳥の口を汚す。
飛鳥はその血を指に取ると同じく剣に垂らした。
そして、血は剣に吸い込まれるように消えていき剣は光を放ち始めた。
その光は次第に激しさを増していき、ある時、突然と消えた。
剣には変化がなくその姿に変わりは見られない。
「あの、何をしたのですか?」
サトルは変化が見られないので飛鳥に問いかけた。
「この子に変身のスキルをあげたの。天職はきっとインテリジェンスウエポンか精霊王の加護が付いてると思うわ。」
そう言って剣を手にしてサトルへと渡した。
「それと、知識を少しだけ分けてあげたから共同生活には困らないと思うけどまだ変身後のイメージが上手くできないみたい。あなたがイメージを送ってあげて。」
サトルは剣を受けとりイメージを始める。
その時、彩、舞、ホロ、エリザが集まってヒソヒソし始めた。
「もしかしてここで女性が出てきたらサトルさんの理想の女性像なんじゃあ。」
「そ、それならきっと私達の誰かに似てるはずよ。」
「でも、サトルさんの性格なら意外な結果になるかも。」
「ここは覚悟を決めて待ちましょう。」
四人は小声でその時を待った。
「よし決めた。今はこの姿で生活してくれ。」
その言葉と共に剣は光だして形を変えていく。
そして、光りながらゆっくりとその姿を縮めていった。
150センチ、130センチ、110センチ
その時女性陣はサトルはもしらロリコンなのではないかと心配になる。
しかしサイズはさらに小さくなる
90センチ、70センチ、50センチ
全員の頭の中は疑問でいっぱいだ。このサイズでは赤ん坊になってしまう。
そして、とうとう30センチほどになった時、縮小は止まり形が変わり始める。
足が生えて地面につき、続いて手が地面につく。
そしてなぜか尻尾?が生えてきた。
そして光が収まるとそこにはコーギーの子犬が尻尾を振っていた。
それを見て二人を除いて全員固まる。
サトルは分かっていたので子犬に近づいて抱き上げる。
固まっていないもう一人は当然エリザである。
エリザは残像が残りそうな速度でサトルの抱きかかえる子犬に近づいて頭を撫で始めた。
「か、可愛いーーー。」
エリザはこの子犬に夢中でである。
「この姿ならみんな気楽に話しかけれると思ってね。」
サトルが周りに理由を話すと腕の中から声が聞こえた。
「ありがとうございます。少しサイズ的に不便ですが頑張ります。
少ししたら人の姿にも成れると思うのでそれまではこの姿で行動しますね。」
どうやらこの子は犬の姿でも喋れるようだ。床に降ろすと部屋を歩き回りだして体の確認をしている。
そして次に起動したのは犬好きなメンバーだ。
「うん、いいんじゃないか。」
「そうね、しばらく子犬はいなかったからなんだか新鮮ね。」
「永遠の子犬、これは反則かもしれません。」
皆、それぞれ子犬を見ながら意見を呟き賛成してくれた。
その間に獣人組も再起動して子犬を見ている。
その顔には何処か慈しみが感じられた。
そして最後に精霊組が起動する。
「どうして子犬なの?」
飛鳥はなぜか呆れたような顔でサトルに問いかけた。
「え、可愛いからだけど。」
サトルは当たり前のように答えた。
何がいけないのか全く分からない。
「移動に困るじゃない。」
そこは周りの人が協力してくれるよ。」
そう言うと子犬を構いだしているメンバーが一斉に顔を向けて頷いた。
「そ、そう。それならいいわ。」
飛鳥がそう言うと彼らは子犬をまた構い始めた。
その表情はすでに蕩けきっている。
子犬もここしばらくの寂しさからまんざらでもなさそうにじゃれついていた。
「サトル、この子の名前を決めないとな。」
輝は子犬と遊びながらサトルに言った。
「そうだね、父さんは剣になんて付けたの?」
「ああ、俺の剣の名前は神切丸だ。かっこいいだろう。」
輝は答えは返すが子犬に夢中だ。
サトルは子犬に近づいて問いかけた。
「男の子と女の子、どっちがいい?」
「今の姿は女の子のようですね。」
そう言って自分でお腹のあたりを見て確認した。
「それはホロが小さいころを思い出してイメージしたからだね。」
サトルはホロに視線を向けなながら答えた。
「それでなんだか見覚えがある姿だったのね。」
栞もホロを見て昔を思い出したのか微笑む。
「ならこのままの性別でお願いします。」
そう言って体をコロコロしながらみんなと戯れる。
そして、周りからは歓声が上がった。
「それなら名前は若葉 (ワカバ)にしよう。」
それを聞いてみんな若葉と名前を言いながら子犬と戯れた。
この日、この家に家族が増えた。
読んでいただきありがとうございます。




