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78話 人生でたった一つの恋を見つけた日の話だけは内緒していい?【2】



【八年前・王都】


 

 ワンスは走りながら、賢い頭で考えた。


 今日は子供まつりの日だ。普段は街歩きをしない貴族の子供たちも、年に一回、この日だけはフラフラと街に出る。やつらはそれを狙ったはず。

 大方、子供がわんさかいる南側の大通りに向かう道すがら、相当めぼしい子供を見つけたのだろう。予定変更で中央通りで一人、南側の大通りでもう一人。二人の子供を誘拐することになった。


 全速力で細い路地裏を通り抜け、他人の家の庭を通り、屋根の上も塀の上も走って跳びまくり、南側の大通りに先回りする。塀の上から立って街を眺めると、どうやらまだ騒ぎは起きていないようだ。


 急いで鞄から金髪のカツラを取り出して身に付け、靴の裏やズボンの裾など数カ所に小さなナイフや針金類を仕込んだ。鞄は物陰に隠しておいた。


 塀を飛び降りて、ダッシュで南側の大通りの入口付近に向かい、そこまで辿り着くと今度はゆっくりフラフラと歩いてみせる。当然、親も護衛もいない。格好の餌食だ。


 一分ほど経った後、遠くから馬がゆっくりと向かってくるのを目の端で確認する。馬は一頭。どうやら先に誘拐をした男の方はいないようだ。もう一人子供を誘拐した後に、どこかで合流するつもりなのだろう。


 ワンスは、ヘラヘラと笑いながら祭りを楽しむ金髪貴族の息子を演じた。ヘラヘラわくわくドキドキ。


 ―― 鬼さんこっちら~♪ 手の鳴る方へ~♪ ヘラヘラ顔の金髪貴族、大好物だろ~?


 思惑通り、馬はゆっくりと近付いてくる。半分顔を隠した男がワンスの近くで馬から降りたかと思ったら、麻袋をバッと広げて頭から被される! チクチクして痛いなと少し不快に思いつつも「うわっ」と小さい声をあげたりしてみた。


 大して抵抗もせずにすんなりと肩に担がれ、馬に乗せられる。周りの人々が「きゃー!」と騒ぎ出すと共に、馬は結構なスピードで走り始める。ワンスはまんまと誘拐をされ、チクチクする麻袋の中で『やっぱり金髪は人気だなぁ』なんて思ったりした。

 


 馬の蹄と地面がぶつかる音を聞いて、走る速度や道の状態など得られる情報をすべて頭に叩き込む。同時に、馬が走り始めてからの秒数もカウントし続ける。ワンスの計算上で十分程度走った後、馬を下ろされる。今度は麻袋のまま馬車の床に転がされた。ちょっと痛かった。


 ―― もっと丁重に扱えよなぁ、ったく


 靴の音を聞くに、馬車の中には男が一人。もう一人は御者席にいるのだろう。


 しかし、先に誘拐された女の子がいるか分からなかった。気を失っているのだろうか、泣いてる様子も暴れる様子も聞こえない。


 床は思っていたよりも痛くて、車輪が大きな石を弾いて揺れるたびに衝撃がダイレクトアタック。乗り心地は最悪だ。途中、かなり大きな石に乗り上げたのだろう。馬車が大きくガタンと揺れて、ワンスは一瞬だけ宙に浮いて馬車の床に叩きつけられた。そのときだった。


「「痛い!」」


 馬車の音と自分の声でよく聞こえなかったが、ワンスともう一人、誰かの声が重なった。たぶん女の子の声だ。


 ―― え! いる! 起きてるじゃん!


 ワンスは驚いた。今まで泣きも暴れもせず、黙って馬車に乗っていたのか。驚きだ。


 そういえば、誘拐されたときも母親である御婦人の声は聞こえたが、女の子の声は全く聞こえなかった。叫びも暴れもせずにここまで来たなんて、とても普通の子供だとは思えない。事実、ワンスだって叫びも暴れもせずにここまで来ているが、普通の子供ではないわけで。


 チクチクして居心地の悪い麻袋の中で『どんな子だろう』と、少しだけ胸がざわついた。


 



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