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34話 あの時、実はそこにいた




 時は少し前に遡る。


 その日、レッド・ハンドレッドは、たまたま珈琲が飲みたくなった。どうせなら王都で一番美味しいと評判のカフェに行きたい。ハンドレッドは一番だとか最上級だとか、そう言う名声が大好きな男だった。


 そうしてカフェ店内で珈琲を飲んでいると、どえらい美女が入ってくる。


 ―― お、美人だ


 詐欺師だって男だ。むしろ、割と女好きな方だと自負している。女はすぐに名声をくれるから、一緒にいると心地が良かった。


 店内にいる男性客の全員が美女に視線を向けていた。ハンドレッドも例外ではない。しかし、その横にいた男を見て、思わずメニューで顔を隠してしまった。以前、詐欺で引っ掛けたダグラス侯爵家次男のダッグ・ダグラスだったからだ。


 ―― ダグラスの次男坊! あいつもこの店の常連なんだっけか


 しかし、さすがは度胸の詐欺師。慌てることもなく、メニューの陰でこのままやり過ごせばいいだろうと涼しい顔をする。


 それでも美女をチラリと見てしまう。やはりどえらい美女だ。金髪にエメラルドグリーンの瞳。スタイルも良さそうだ。あぁ、ダグラスが羨ましいと、小さく舌打ちをしてしまう。あんなアホみたいな男なのに、何故あんな美女が引っ掛かってしまったのか。思わず、足を掛けて転ばせたくなった。


 ―― うーん、解せぬ……


 珈琲が少しだけ苦くなったような気がしつつ、そのままダグラスと美女の背中を見送ったのだった。




 ―― それにしても、次はどうするか


 ダッグ・ダグラスから得た情報だけでは、国庫輸送詐取(さしゅ)は成し遂げられそうにない。もっと情報が欲しかったが、国もなかなかガードが堅い。


 騎士団本部に侵入することも考えたが、入ることは容易に出来ても、資料を持ち出すとなる難しい。仮に持ち出せたとしても、すぐに騎士団長に気付かれるだろう。そうなると、国庫輸送詐取計画は全てご破算になってしまう。


 そう。レッド・ハンドレッドの目的は、国庫輸送の金を華麗に奪うことにあった。これは詐欺師だけでなく、全犯罪者の夢だ。『国庫輸送を奪った男』その名声が欲しい。歴史に残る富と名声、彼を動かす強い動機だ。



 国庫輸送とは、地方の領地で貯められた税金や収益を、王城に運び入れることを言う。東西南北の四拠点からの輸送があり、各々半年に一度行われる。よって、年間計八回行われることになる。

 

 しかし、東西南北の領地で、その規模は大きく異なる。南側の金額は他と比べて十倍は多かった。そのため一般的には南のそれを『国庫輸送』と呼ぶことになっている。もちろんハンドレッドが狙っているのも、それである。


 ―― どこかで騎士を引っ掛けて弱みを作り、そいつを駒にして情報を取りたいとこだな



 ハンドレッドが欲しい情報は三つあった。


(一)国庫輸送のルート


 金を乗せた騎士団の馬車が、どこを通って王城まで来るのか。この情報が一番の要であった。これはランダムに決められており、事前に知るのは騎士団長クラスとオーランド侯爵という人物であった。騎士団長がルートの素案を提出し、オーランド侯爵が承認をするという管理方法だ。


 オーランド侯爵家は、ダグラス侯爵家と双頭と呼ばれる、もう一つの大きな侯爵家だ。オーランド侯爵家には娘と息子が一人ずついる。しかし、どちらも悪評などはなく、実直な貴族令息令嬢であった。ハンドレッドとしては、ダッグ・ダグラスのように簡単に近付くことは出来なかったのだ。



(二)国庫輸送の詳しい日時

(三)国庫輸送の金額


 これを管轄しているのが騎士団長とダグラス侯爵家だったのだ。そして上手いことダッグ・ダグラスを騙すことで、上記二つは情報を取得済み。


 欲しかった三つの情報のうち、既に二つは手に入れている。チェックメイトは目前といったところであった。


 ―― レッド・ハンドレッドにかかれば、奪えない金なんてないさ


 珈琲をごくりと飲み干す男の瞳は、わずかに赤く黒かった。







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