発売前日SS 各自の性格
「え、俺?長男だけど」
実地訓練の休憩時間、水分補給にと厨房から貰ってきた果物を齧りながらそう口にしたダンに、同じ輪に居る者達が皆一斉に言葉を失った。
ダンといえば、よく言えば純真で無邪気、だが実際はただの性格破綻者。しかも何を考えているのか読めないところが恐ろしい。
そんな男が自分は長男だと口にしたのだから驚きである。
「ダンが兄さんなんて、下の子が不憫すぎるよ……」
「私、てっきりダンは末っ子なのかと思っていたわ」
悲痛な面持ちで呟いたトムとサーシャに同意するように皆が頷けば、それを見たダンが首を傾げた。
「そんなに驚くことか?」
それがダンでなければ特別驚くことではないだろう。
「だって長男よ?長男って、もっと、こう、しっかりした人が多いじゃない?」
「俺だってしっかりしていると思うけど?軍人になったのだって、家計を助けるためだったしな」
「え、そうだったの!?」
「……嘘だろう?」
驚くサーシャと絶句するトムを指差してケラケラと笑うダン。
まるで子供のような彼の普段の姿や行いを見ていて、そんな真面目な理由で軍に入ったとは誰も想像すらしない。
「ダンのくせに、何か凄く負けた気分だわ……」
「本当だよね……ダンのくせに」
「お前等、あとで覚えておけよ?」
ダミー武器をぶんぶん振り回すダンは、まるで子供のようではなく、子供そのものだ。
「サーシャは次女だったよね?俺は一人っ子だし、あ、セレスもか!」
山積みになっている果物に手を伸ばし、真っ赤なリンゴをシャツで拭いたあと皮を剥かずに齧りついていたら、急に私に皆の視線が集まり、口をもぐもぐと動かしながら首を傾げた。
「そうなると、長男よりも一人っ子のほうが大人なのかもしれないわよね」
「はぁ?俺だって立派な大人だろ」
「ダンは歳だけとった子供だよね」
「セレスもトムも、冷静で真面目でしょう?周囲のことをよく見ているし、気遣いもできるじゃない?でも、ダンは……ねぇ?」
「元帥も確か長男だったよね?」
「あ、ほら、やっぱり長男はちょっとアレなのよ。アレ」
サーシャの言葉に一人だけ肩を震わせて反応した者がいるが、彼女は気付いていない。
「長男っていうと、俺と元帥と……あとはルジェ大佐のとこの双子もか?」
「待って、並べると性格に難がある人達ばかりじゃない」
「個性が強すぎるというか……クセ?があるというか」
「総じて優秀だということだな!」
「そう、優秀なのよね……性格以外は」
「性格がね」
「……おい!」
長男の話題に盛り上がっている三人はいつ気付くのだろうか、この場にも一人長男が居ることに。
「じゃあ、次男はどうなんだよ」
「次男って……ルジェ大佐でしょ?それなら人格者じゃないの?」
「いや、剣を持つと豹変するから、二重人格とか?裏の顔があるのかもしれないよ」
「待って、それって私もそうってことじゃない!」
「ふはっ、サーシャは悪い奴ってことだな」
「わ、悪いとは言ってないから!ちょっ、痛いって、サーシャ!」
「誰が二重人格よ!このっ!」
わっと怒声や笑い声が三人から起きるなか、またしても一人肩を震わせている者が。ふるふるしている姿が小動物のようで大変可愛らしいとは口にしないでおこう。
「アルトリードさんも次男でしたよね?」
「そうですよ」
振り返ってそう訊けば、ニッコリと笑顔で返事をしてくれた。
「長男や次男よりも、もっとヤバイのがいるだろ?」
「ヤバイの?」
「そそ、三男だよ」
「三男っていうと……俺、あの人しか知らないんだけど」
「俺もあの人しか知らない」
「……あ、ニック大佐?」
「三男だけは絶対に怒らせないようにするよ」
「そうね……」
「……俺も気を付ける」
互いに頷き合う三人を眺めながら、私も深く頷く。
今度から初対面の人には挨拶がてら家族構成も訊いておく必要があるかもしれない。
「では、結論から言うと、長男は個性強めのクセがある扱いにくい性格破綻者」
サーシャの言葉に愕然とするルドの肩をそっと叩き励ます。
「次男は、二重人格で裏の顔を持つ……それって、要は性格が悪いってことかな?」
トムの言葉に口をパカッと開けて涙目のレナートの頭をそっと撫でる。背後から微かに冷気を感じるのは気のせいだと思いたい。私は絶対に振り返らないと心に決め、果物を齧る。
「なら、一人っ子は真面目な苦労人だな」
「本当だよ。ダンとサーシャの後始末はいつも俺なんだから。ね、セレス……ほら、二人共あれを見なよ」
「あ、すっかり忘れてたわ」
「苦労人だな、セレス」
此方を向いた三人から何とも言えない視線を向けられ頷く。
私の右手はルドの肩、左手はレナートの頭なので、顔を縦に振って同意を示しておく。
「そうか、私はクセが強くて扱いづらいのか……」
「裏の顔……」
「じ、人格……破綻者……っく、そんな」
「僕は、性格が悪いって……ううっ」
両手で顔を覆い項垂れる兄弟を慰めながら、「私は苦労人らしいぞ」と呟いた。




