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【1/13よりコミカライズ連載開始】婚約破棄され捨てられるらしいので、軍人令嬢はじめます  作者:


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説得



「セレスティーアは七歳でフロイド・アームルと婚約する」


いきなり何を言い出した?という顔をしているが、当時の私も多分そんな顔をしていたと思う。


「フロイド・アームルは婚約者であるセレスティーアではなく、その義妹に恋をしてしまう。そして、叶わない想いに悩み、苦しむことになると」

「……誰がそんな馬鹿げたことを」

「フロイド様と顔合わせをする随分前に、ミラベルに言われた言葉です」

「ミラベルが?フロイドと面識があったのか?」

「恐らくそれはないかと……。次男の婚約の話をするくらい親しい間柄であれば、お父様ではなくアームル侯爵様に助けを求めていたでしょうから」

「そうだな……彼は葬儀に来ていなかった」


ミラベルの父親は商家の息子で、学園で得た人脈を駆使し投資で財を成し、没落した貴族から爵位を買い貴族の仲間入りを果たした。その過程でアームル侯爵とリットン男爵に繋がりができたのではないかと私も一度は考えたが、それはないという結論に至った。

リットン男爵は爵位を得たとしても、元は平民。

生まれながらの貴族と、生まれが平民は相容れない。それくらい貴族と新興貴族の間には高い壁がある。お父様が少し変わっているだけで、大多数の貴族は相手にすらしないだろう。


「ミラベルはこの世界のヒロインで、皆に愛され、最後は王子様と結婚すると言っていました。コレは予言だと」

「……」


何も言えない気持ちは分かる。正常な者なら馬鹿らしいと一蹴するような話だから。


「私は学園の卒業パーティーでフロイド様に婚約破棄されるそうです。それだけではなく、王族に不敬を働き、ミラベルを溺愛するお父様から捨てられ、修道院に送られることになる、そう言っていました」

「そんなことをするわけがない!」

「私も、当初はミラベルの妄想だろうと軽く考えていましたが……彼女の予言通り、私の婚約者はフロイド様でした。お父様が義母かミラベルに話をしていなければ知り得ることではありません」

「セレスの婚約については執事以外に話したことはない。偶然……とは言い難いな」

「フロイド様とミラベルの仲睦まじい姿を見て、漠然とした不安や恐怖を感じました。もし他の予言も全て現実となってしまったら、そう思い、学園に入らずに済む方法を探したのです」

「……それが軍学校だったのか」


前以て予言という形で恐ろしい未来を知り、何も手を打たないでただ時間が過ぎるのを待つわけがない。

ミラベルが語った内容は主に学園の中での事。

それなら、学園に通わなければ予言は全てなかったことに出来るかもしれない。

その未来が確実に訪れる確信はなかったが、屋敷の中で唯一ミラベルと距離を置いていたお父様の執事であるブラムに協力を仰いだ。


『フィルデ様を頼るのがよろしいかと。多少の覚悟は必要になりますが』


御爺様は、国軍を引退し、爵位も譲り隠居生活を送ってはいるが、お父様やアームル侯爵が手を出せない権力者を手紙一つで動かせる。

学園に代わる軍学校は御爺様の権威の直接的な影響下にあり、本気で軍学校に入学するつもりなら屋敷を出てランシーン砦に逃げた方が良い。


ブラムの助言を受け、私の乳母の娘と信頼できる侍女、数人の護衛を選別し、念入りに準備を進めていた。その結果が今に至る。


「何が起こるか分からない学園にだけは、絶対に入りたくありません」

「……だが、軍学校は」


これで説得できなければ、選択肢は最終手段の『暴れる』一択になる……。


「ミラベルの予言は、学園を卒業するまでのことだけでした。ですから、その期間だけ不安要素から離れていたいのです」

「……」

「お父様、お願いします」

「……っ」


何度も開きかけた口を閉じ、辛そうに眉を顰めるお父様を祈るように見つめていたら、隣で傍観していた御爺様が抑揚のない声でお父様の名を呼んだ。


「一度なくした信頼を取り戻すのは難しい。娘の助けを求める声を、二度も無視するのか?」


これが決め手となったのか、ゆっくりとテーブルへ手を伸ばしたお父様は承諾書を引き寄せ、一瞬躊躇ったあと胸元からペンを取り出す。


「……条件がある。一月に一度は必ず手紙を寄越しなさい。それに、来年の音楽祭だけは参加してもらう。軍学校で何かあれば必ずルジェの息子達を頼ること。怪我をせず……卒業したら、真っ直ぐ家に帰ってきなさい……。それと、父上にも来年の音楽祭に出席してもらいます!セレスと一緒に会場に入り、口さがない者達を徹底的に叩き潰して……いえ、圧力をかけ一掃していただきます!」


荒んだ目をしながら承諾書に名前を書き捨てたお父様に頷き、いつの間にか巻き込まれていた御爺様も大袈裟に肩を竦め了承した。


「ありがとうございます……」


唇を引き結びぷるぷる震える手で差し出された承諾書を受け取り、御爺様に掲げて見せる。


「良かったな。俺は息子の育て方を間違えたと、孫に許しを請うことになったが」

「……父上に育てられた覚えはありません」

「でしたら、私もお父様に育てられたのではなく、御爺様に育てられたことになるのでしょうか?」

「セレス……」

「御爺様が戦場へ出ていたのは国や民、家族を護る為です。お父様は戦場に立ったことはありますか?どれほど惨い場所なのかご存知ですか?命懸けで戦った父親に向かって育てられた覚えがないなんて、そんな酷い言葉、二度と口にしないでください」


警報音が鳴り響き、建物の中を走り回る音が聞こえ、真夜中なのに砦周辺に明かりが灯る。数時間も経てば怪我人が運び込まれ衛生班が動き出す。呻き声と罵声が飛び交う中、必死に手を動かすが、それでも助けられない仲間を前に声を押し殺して静かに泣いた。

ニック大佐が新人だった頃に体験したことだと話してくれたことがある。


「……父上」

「何だ?謝罪なら不要だぞ?」

「どうして、セレスはこんなに軍人気質になっているのですか……!?」

「……知らん」


ニヤニヤしていた御爺様が、お父様に責められそっぽを向いて拗ねている姿が可愛らしい。


「ところでお父様、此処にはいつまで滞在する予定ですか?」

「トーラスの視察も兼ねて来ているんだが、このあとツェリ家にも向かう予定だ。雪が降る前には戻らなくてはならないから……此処に居られるのは二日程度だろう」

「視察する物なんてないだろう?」

「いえ、ここ何年かで武器の質が変わったと報告を受けていまして、お心当たりは?」

「……俺は隠居しているんだぞ?」

「また宰相が乗り込んで来る前に正直に話してください。そろそろ我慢の限界だと足踏みしていたらしいですよ」

「少しくらい大目に見ろ……。セレスティーア、こんな口煩い領主になるなよ」


武器の質……確か、街に出たときにルドとアルトリード様が独自の技術がどうと話していた気がする。また経費として膨大な金額を申請したのだろうか……。


「トーラスの管理を任されているのがロティシュ家とツェリ家でしたよね?」


とっとと書類を出せと御爺様の執務机を漁るお父様を横目に、御爺様に問いかけた。


「あぁ、ランシーン砦に一番近い領地がその二家だからだ。貴族の中で恐ろしく武に偏っていた為、砦に近い領地を与えられたのが発端だ」


貴族に序列があるように、軍事貴族の中にも序列が存在している。

ロティシュ家とツェリ家は二大軍事貴族と称され序列のトップに位置し、伯爵家でありながら貴族の中でも別枠として侯爵家と遜色ない地位にある。

これはランシーン砦に近い領地だからというわけではなく、現国王陛下を前線と銃後で支えた、国軍元帥フィルデ・ロティシュとラッセル王国騎士団長アイヴァン・ツェリの功績があってのこと。


「戦争になれば此処は真っ先に戦禍を被る。その分、税の免除や多少の悪さは見逃してくれるが、何かあったときに責任を取る者が必要だ。それがうちと、ツェリだな。それに、此処が落とされでもしたら、領地も危うい。そうならないよう、領主は命懸けで護るだろう?」

「領地を人質に取られているような感じですね」

「……あいつがズル賢いのは血筋か。息子のルドとレナートは素直に育っているんだがな」

「父上も同族ではありませんか。……ツェリ伯爵はもう此方へ?」

「いや、冬を越してからになるだろう」


書類の束を抱えて戻って来たお父様が口にした「ツェリ伯爵」とは、前当主であるアイヴァン・ツェリ伯爵のことだろう。

今年騎士団長を辞し、爵位も息子へと譲り、御爺様と同じくトーラスで隠居生活を始めるらしい。領地が隣ということもあり、二人は幼い頃からの知己だと聞いている。


「あの方も此処で隠居するとは思ってもみませんでした。まさか、ランシーン砦に住むつもりですか?」

「アイヴァンは軍人じゃないからそれは不可能だ。トーラスに家を買ってはいたが、寮暮らしになるだろうな」

「寮……?待ってください、ツェリ伯爵は何をする気なのですか……」

「残りの余生は、軍学校で生徒を教育することに費やすらしい」


そう、嬉しいことに元騎士団長様は軍学校で剣術の講師になる。

この話を聞いたとき、ロナさんやリックさんは天を仰ぎ、ダン達は食堂のテーブルを何度も叩きながら悔し涙を流していた。


王都の騎士、それも騎士団長。社交界では美丈夫と知られ、若い頃は求婚者が列を成し会場の外にまで溢れていたという逸話を持つ、貴族の子女が生涯に一度は憧れる御仁。

御婆様とお母様は勿論、私の憧れの人でもある。


緩みそうになる口元をそっと押さえていれば、二方向からの視線を感じ承諾書で顔を隠した。


「まさか、セレスもツェリ伯爵の愛好者だったとは……」

「我が家の女性は皆あいつの何かが琴線に触れるのだろう」

「何かが……」


承諾書を抱き締め、明日にでも郵送しようとソファーから立ちあがる。

その際、悲し気に肩を落としたお父様に声をかけるのも忘れない。


「お父様。明日は何かご予定はありますか?」

「いや、まだ決めてはいないが……何かあるのか?」


笑みを浮かべるお父様に私も微笑む。

恐らく、ダンやサーシャ辺りならこの時点で顔を引き攣らし、足早に逃げて行くだろう。


「では、残り二日しかないので、明日は視察を兼ねて一日軍人体験をいたしましょう」

「……ん?軍人体験……?」

「はい。私がどういった生活を送っているのか、一度体験してもらおうかと」

「ぶっ……くっ、ふはっ……」

「……」


お父様は私の生活を知ることができ、私は軍事貴族としてお父様がどの程度動けるのか知ることができる。我ながら名案だとほくそ笑みながら、大笑いする御爺様と唖然とするお父様を残し、弾む足取りで部屋を出た。






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