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【1/13よりコミカライズ連載開始】婚約破棄され捨てられるらしいので、軍人令嬢はじめます  作者:


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早朝訓練を終え、首元を濡らす汗をタオルで拭いながら御爺様の居る執務室の扉を叩いた。

いつもなら「入れ」と低い声が聞こえてくるのに、今日は返事がない。

不在なのか?と首を傾げるが、この時間に来るように言ったのは御爺様だ。取り敢えず入って確認してみようと、中に聞こえるように大声で「失礼します」と告げ扉を開けた。


軍の上層部に位置している者達の部屋がある区画もそうだが、執務室は更に厳しく出入りが制限されている場所だ。

入って直ぐ目にするのは左右に置かれている個人用の机。中央には長机が置かれ、その奥にはローテーブルとソファー。

そして、一番奥には大きな窓を背に御爺様が座っている執務机がある。


個人用の机の上には乱雑に書類が積み上げられ、右側の壁一面に貼られている地図には所々手書きで文字が書き込まれているし、左側にある本棚の中にはみっしりと専門書や区分けされたファイルが詰まっている。長机の上にあるチェス盤に似た物は戦場に見立てて使っているのか、模様も形も独特な物で殊更目を引く。

この部屋の中にある物の価値は私にはわからないが、恐らく外に出してはならない情報が山ほどあるのだろう。


置かれている物に手が触れないよう慎重に歩きながら、ティーセットがある棚へと向かう。

御爺様は私が部屋に入って来たことに気づき一度書類から顔を上げたが、片手を軽く振ったあと再び書類に目を戻した。


一瞬、勝手に入ったことを咎められるかと思ったが、どうやらコレが正解らしい。


時折、コツ……コツ……とペン先で執務机を叩きながら、紙に何かを書き込んでいる御爺様の邪魔をしないようお茶の準備をする。

元々年齢を感じさせない人だけれど、それでも顔に刻まれた皺や、疲れたのか目元を押さえている姿は歳を取ったのだと思わせた。


「悪いな、溜まっていた書類が予想以上に多かった」

「日を改めますか?」

「いや、もう終わった」


ペンを放り投げ、立ち上がって首を回しながらソファーに座り、用意しておいたお茶に口をつけ「歳だな……」と呟く御爺様に思わず笑ってしまった。


「お父様がそう言ったときに否定していませんでしたか?」

「……その頃は、今よりは若かっただろう?」


目を細めニッと笑う御爺様に肩を竦めて見せ、本題を促した。


「二週間後にバルドが来る」

「……思っていたより早いですね。まだ本邸で狩猟会が行われている時期では?」


社交シーズンは毎年三月に開かれる王妃様主催の春の宴から本格的に始まる。

一月ほどは貴族のご婦人方が開くお茶会が行われ、五月には王家主催の観劇や舞踏会、六月には王国音楽劇場での音楽祭がある。

社交シーズンが終わる八月には大規模な舞踏会が王城で開かれるが、その年に社交デビューをした令嬢達のお披露目と称した、中流、下級貴族達の婚約者探しの場になっている。

二日かけて行われる舞踏会を最後に社交シーズンは終わるので、貴族達は王都の別宅から領地にある本邸へと帰っていくのだが、そこで次は、親しい者や仕事上の付き合いがある者を本邸に招いて狩猟会や食事会でもてなすというささやかな社交が始まる。


「まぁ、この時期も忙しいといえばそうだろうが、愛娘がいないのに狩猟会や食事会なんて意味がない。恐らく、セレスティーアが家を出てからは開いていないと思うぞ」

「……そうでしょうか」


だが、家には義母とミラベルがいる。

私が不在の間、お父様は義母と、フロイド様はミラベルと楽しく過ごしていたのではないだろうか。

想像すると胸が苦しくなり、本当にコレで良かったのだろうかと不安にもなる。


「バルドから軍学校への入学許可を得るんだろう?」

「はい」


お父様が来ると聞いて揺らいでいた心を見透かされた。

表情には出していないつもりだったが、御爺様にはわかってしまうのだろう。


「御爺様も、私が軍学校に入ることに反対しますか?」


軍学校へ提出する親の承諾書の署名欄には、お父様ではなく御爺様の名前を書いてもらうつもりだった。

それなのに、御爺様に「親に書いてもらえ」と書類を突き返されてしまい、仕方がなく家に手紙と一緒に送った。

書類は返送されることなく、お父様は勿論、ルジェ叔父様も未だに軍学校へ入学することに賛成してくれていない。

わかってはいたことだが、入学が近づいてきているからか気持ちが不安定になっている。


「別に反対はしていないだろう?」


正面から伸ばされた手が私の頭にポンと置かれ、頭をくしゃっと撫でられた。


「お父様には入学してから話す予定でした」

「手紙でか?どちらにしろ、一度は話し合わなければならないことだろう」

「許可をもらえると?反対されるに決まっています」

「反対されたら諦めて、元の生活へ戻るのか?まぁ、それも一つの選択肢ではあるが」

「御爺様……」

「助言はしてやれる。伸ばした手も取ってやる。だが、進む道は自身で決めろ。たった一度の人生だ、人にそれを委ね責任を押し付けるな。厳しく聞こえるかもしれないが、俺は孫の人生の責任を取ってやれるほど長くは生きられないからなっ!」

「いたっ!?」


ペシッと叩かれた額を摩りながら、笑っている御爺様に抗議の目を向ける。


「家を出て軍学校へ入る理由を、包み隠さず全てバルドに話せ」

「全てですか……?」

「何を言っても無駄だと諦めるのであれば、話をしてからでも遅くはないだろう?」

「その為に署名することを拒否したのですね……」

「バルドもセレスティーアも、互いに後悔しないようにな」


母が亡くなった悲しみが癒される間もなく義母と義妹ができ、婚約者は私よりも義妹を優先し、挙句の果てには何もかも失い破滅するという未来。

忙しくされているお父様の負担にならないよう、不満を飲み込み我慢してきた。

たった一度だけ口にした言葉は流され何も解決されることはなかった。お父様に落胆し、婚約者に失望しながら諦め続けた日々。


今更、何が変わるというのか。


「後悔など、しません」




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