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婚約者の貴方が「結婚して下さい!」とプロポーズしているのは私の妹ですが、大丈夫ですか?  作者: 初瀬 叶


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第50話


「いや~相変わらず美味いなぁ、ここの食事は」


式典が終わり、晴れてレナード様はクレイグ辺境伯となった。


お義父様とハリソン様と……皆で揃って食べる最後の晩餐……と思っていたのだが、何故か喜んで一番たくさん召し上がっているのは王太子殿下だった。


「何で此処に泊まるんだ?」


「宿をとるとなったら、貸し切りにしなきゃならないとか、警備のし易い宿を選ばなきゃならないとか、その他諸々準備が大変だろう?それじゃあお忍びにならないじゃないか。今回は王太子としてではなく、お前の従兄弟として祝いに来たかったんだ。……うん、美味い」


「喋るか食べるかどちらかにしろ」


王太子殿下って……本当にレナード様の事が好きなのね。レナード様の顔は渋いけど。


ハリソン様は二人の会話を微笑みながら見ている。殿下にとってはハリソン様も従兄弟だ。しかしあまり二人は話をしている様子がない。


「アレクサンダー、お前は相変わらずだな。王位を継ぐのはまだ先だろうが、もう少し落ち着いたらどうだ?」

笑いながらお義父様が言う。


「大丈夫ですよ。時と場所は考えて振る舞っていますから。私がはしゃぐのはレナードの前だけです」

殿下は少しドヤ顔でそう言った。その様子がおかしくて私はクスリと笑ってしまった。

すると、私の向かいに座っているハリソン様もクスリと笑っているのが視界に入った。


「お!ハリソンが笑ってる!!珍しいな」

私と同じ様にハリソン様の笑顔に気付いた殿下が声を上げた。


「そうか?僕だってたまには笑う」

ハリソン様は笑顔のままそう答えた。

最近のハリソン様の笑顔は『たまに』ではなく『常に』なのだが。……特にミューレ様の隣では。


「ハリソン、お前なんだか雰囲気が柔らかくなったよな。そういえばお前はいつから子爵を名乗るんだ?」


「明日から子爵領に移るつもりだが、子爵を賜るのは半年後の予定だ。結婚式も含めな」


「そうか。たしかエドモンド伯爵のご令嬢だったな。エドモンド伯爵は堅実な人柄だ。良い関係を築けるだろう」


「あぁ。とても人格者だ。会って何度か話をしたが、凄く真摯に領地を治める事に向き合っていると感じた。勉強になるよ」


ハリソン様と殿下の仲が悪いというような事はないようだ。

ただレナード様と喋る時より、殿下が王太子殿下然として感じる。確かに殿下がはしゃぐのはレナード様と絡む時だけの様だった。



「おっと、そう言えば……」

そう言った殿下は私に微笑んで言った。


「色々とあったみたいだな。メイリンが言っていたよ」


「……妹の件でしょうか?」


「結婚式で王都に来ていたなら、城へ寄ってくれたらいいのに」

私の言葉には小さく頷くだけで、そう言って殿下は口を尖らせた。

王宮ってそんな気まぐれに寄る様な場所だったかしら?

だけど、ナタリーの件は既に王太子妃の耳に入る事となっている様で、私の表情は暗くなった。


「エリンには関係ない事だ」

レナード様の答えに、


「その通り!奥方には何も関係ないよ。噂になっているが程なくそれも終わる」

殿下はニッと口角を上げた。


「……何をした?」

レナード様の問いに殿下は答える。


「男女の事に首を突っ込む様な噂話が好きな者はどんなに偉そうにしていても程度が知れる……そう私は口を滑らせただけだ。そう言えばメイリンも公務復帰のお茶会でそう洩らした様だが」


「……すまないな。気を使わせた」

レナード様の言葉に


「ありがとうございます。お心遣いに感謝申し上げます」

と私も頭を下げた。


「いいって!そんな事気にするな。……そうだなぁ~今度王都に来る際には必ず城へ顔を出すこと。お!なんなら必ず城へ泊まる……それも付け加えておこう。それで私は十分だ」

にっこり笑う殿下に引き換え、レナード様は眉間に皺を寄せたが、


「……わかった。エリンも一緒ならば」

そう諦めた様に頷いた。


「そうか!なら約束だ!」

と殿下は嬉しそうに手を叩いて喜びを素直に表した。




「お疲れ様でした」

寝室に顔を出したレナード様に私は声を掛けた。


「剣の相手をしろと煩くてな。祝いに来たのなら大人しく『おめでとう』というだけで良いだろうに」


「お義父様もハリソン様もご一緒だったとか」


「あぁ。久しぶりに二人とも手合わせしたよ。父はまだまだ現役でやれると思うがな。兄も……意外にも良い太刀筋だった」


そう言ったレナード様の顔は嬉しそうだった。


「寂しくなります」

明日になればハリソン様はクラーク子爵領へ、お義父様はここから馬で三十分程離れた別宅へと移り住む。

正直言うと、とても寂しい。二人は私を家族として迎えてくれた。ハリソン様は少し時間がかかったが。


そして私はふと思う。

今はレナード様がいつも側に居てくれているが、辺境の地で戦が起きたら?辺境伯騎士団が戦いに向かわなければならない状況になったら?

私がこの屋敷を守っていかなければならない。そう思うと寂しくもあり、不安でもある。


表情にそれが表れていたのか、


「今は他の国とも小競り合いもないし、俺が出ていかなきゃならない事柄もない。……ずっと側に居る」

そう言ってレナード様は私を抱きしめた。

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