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婚約者の貴方が「結婚して下さい!」とプロポーズしているのは私の妹ですが、大丈夫ですか?  作者: 初瀬 叶


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第35話

しかし、私が声を掛けてもレナード様からの答えはない。


「レナード様?どうされました?どこか具合でも?」

私その様子に心配になり、急いで寝台に近付くと、水差しをサイドテープへと置いた。


俯いているレナード様の顔を見るため、床に膝を突き顔を見上げる。


「どうされました?」


「……何を話してた?」

何を……?もしかして、先程までハリソン様と話をしていた、アレかしら?


「ハリソン様と、という事でしょうか?」

私がそう言うと、コクンと一つ頷くレナード様。その表情は暗い。


「ハリソン様がお腹を空かせていたようなので、有り合わせの物でスープを。ちょうど、私も喉が渇いて水を汲みに行ったタイミングでしたので」


その言葉を聞いたレナード様は顔をガバリと上げた。


「エリンの手作り??俺は食べた事がないのに……」

と言葉と共にまた俯くレナード様。


「大したものではありませんよ。ハリソン様は夕食をあまり召し上がっていなかったようなので、お腹を空かせたのでしょう。レナード様はしっかり召し上がっていらっしゃったでしょう?」


「兄が夕食を食べなかったのは、兄の自業自得なのに……何故エリンがそんな事を」


「……食べたくても食べられない物というのがありますもの」


誤解をされたままのハリソン様を可哀想に思い、ほんの少しだけ事実を話す。別に罰で聞いた恥ずかしい話じゃないから、良いわよね?


「……偏食というだけではない?」

私はレナード様のその問いに曖昧に微笑んだ。


「……それでもエリンは優しすぎる」


「そうでしょうか?私としては特別な事をしたつもりはありませんが……ハリソン様と少しお話してみたいと思ったのも事実です」


私がそう言うと、レナード様は青ざめて


「ま、まさか……兄上の方が……す、好き……とか?」

と声を震わせた。



「そんなわけないじゃないですか」

ここはピシャリと否定する。私まで誤解されては困る。


「前にも言った様に、ハリソン様の気持ちが少しだけ分かるのです。私もコンプレックスの塊でしたから」


「だが……」


「ええ。もちろん今はレナード様のお陰で、そのコンプレックスから解き放たれました。私は私で良いのだと、貴方が教えてくれたのです」


私は膝の上で固く握られたレナード様の手をそっと包み込む様に握った。


「ハリソン様にもそのようなお相手が見つかると良いなと、心から祈っているのです」

微笑んだ私に、


「……兄の方が俺より顔が良い」

とレナード様はポツリと言った。


はい?急に?確かにハリソン様もレナード様と同様美丈夫だ。線が細くて、少し顔色は悪いが。兄弟なのでそんなものだと思っていた。


「そんな事はありません」


「でも……」


どうも、ここにもコンプレックスを抱えた人が居たようだ。


「レナード様、貴方は辺境伯騎士団団長になる程の実力をお持ちなのですよ?誰とも比べる必要などない……」

と言う私の言葉に被せる様に、


「剣の腕には自信がある。だが……君の事に関しては……」


「私?どうして?」


「き、君の事が……す、好き過ぎて……自信が持てない。君にとっては、俺との結婚は……選択肢がなかったから……」


最後の方はどんどんと小さくなる声に従って顔もどんどんと下がっていく。


「好き……」


初めてきちんと言葉に出して言われた気がする。……嬉しくてニヤニヤしちゃうのを、なんとか我慢する。


「き、君が……俺をどう思っていても、離れる事は考えられない……」


「私もレナード様と離れるなんて考えた事もありません」


「じゃ、じゃあ……最近あまり夜……一緒に寝てくれないのは……」


「そ……それは……」


月のものが始まってしまった事もあるのだが、実はレナード様に内緒でハンカチに刺繍を施していたのだ。

私は決して器用なわけではない。今までも人一倍時間をかけて物事に取り組んでいただけだ。それがバレるのも嫌で、ついついレナード様には理由を言わず先に休んで欲しいとお願いしていたのだが、まさかそれを気にしていたとは。


「つ、月のものが始まったのはわかっている。だが、それでも別に一緒に休んでくれたって……」

拗ねた様に言うレナード様に、ここで隠し事は良くないだろう。


「レナード様、少しお待ちいただけますか?」

私は刺しかけのハンカチを取りに行く為に、立ち上がって、自分の部屋へと向かった。



「こちら……まだまだ途中なのですが……」

私は刺しかけのハンカチをレナード様へと差し出した。


「ハンカチ……刺繍していたのか?」


「はい。レナード様に贈りたくて。実は私……とても不器用で人一倍時間がかかるのです。なのでこっそりと夜に……」

そう言った私を見上げるレナード様の顔は先程と打って変わって明るくなっていた。


「俺に?」


「もちろん。他に誰に贈ると言うのですか。でも……レナード様はとても綺麗に刺繍されたハンカチをお持ちだったので、見劣りしてしまう事、間違いなしなのですが」

と私は苦笑した。


前にベンチの上にヒラリと広げてくれたハンカチを私は思い浮かべた。……お店で買ったものなのか、それとも誰かの贈り物なのか……とても見事な刺繍だったのを覚えている。


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