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異聞録:東京異譚  作者: 小礒岳人
人の章

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後編 其の十九

崩壊した協会本部より脱出したトシ達―

その時には、既に決意された意志を持っていた―

―8月9日(火)深夜2時前―


―千代田区霞が関 虎ノ門立抗出口―

挿絵(By みてみん)


立抗出口を出ると、工事中の文化庁が目前に現れる。


クリフ「ようやく…出口ですか…!」


副長「ああ…緊急出口は日比谷共同溝に則って…というか、今工事中の共同溝は、この地下施設に則っているからな…出口へ繋がる道は複数在る …とはいえ、あの施設はもうダメだがな」


語りながらトシに肩を借りつつ蹌踉(よろ)めきながら外へ出る。


傷は治っても、痛みが在る。


そして、施設の崩壊から二時間は経っていた。


それだけ長い間地下にいた全員にとって、地上の熱い空気と蝉の鳴き声は、地上に戻ったことを実感させる。


それも束の間、クリフが口を開いた。


クリフ「あなたには…今回の件を政府に…ドミニク局長の越権行為と汚職行為の証人として発言してほしいんです」


副長「ああ…勿論だ…自分の行った罪は償わなければならない…それに、君は命の恩人でもあるしな」


そう言って、近くのガードレールに腰を下ろす。


副長「しかし…あの塗ってくれた薬はなんだ? 瞬く間に傷が癒えたが…」


クリフ「あれは、"アンブロジアー"です ギリシャ神話でアキレスが軟膏としても用いたと言われる食べ物です 塗ればたちまち傷が治るという物なんですよ」


副長「…! よくそんなものをその若さで…!」


素直に感心していた。


クリフ「いえ…店の倉庫にあったものを持ってきてただけですので…」


副長「そうなのか…それでもそれを持参出来るとは…」


クリフ「これは…あの人(黒い男さん)が任されているお店の物ですから…」


副長「そうか… あ、それで、私の事ばかりだが、君達は大丈夫なのか? 何か…ありそうだが…?」


クリフ「僕は…」


そう言って他の三人に眼を向ける。


トシ「…俺は…変わらなきゃ…強くならなきゃいけない…それが、アイツ(黒い男)を止める事になる…いや、止めなきゃならないんだ…!」


その言葉に、迷いは無かった。


トシ「それが…俺の"罪"であり、アイツへの贖罪だ…!」


竜尾鬼「…僕は、仲間である彼(黒い男)の間違いを止めたい…!」


真っ直ぐな眼で述べる竜尾鬼の意志に迷いは無い。


スズ「…私は…彼(黒い男)に謝りたい…そのためにも、強くならなくちゃならない…! 彼に向き合わなきゃ…!」


その眼差しに、もう今までの様な迷いは無かった。


クリフ「僕はあの人(黒い男さん)の"従者"です…! あの人の隣にいなければいけない…! だから…力が足りなくていられないなら、強くなる必要があります…! もちろん…間違っているなら…それを正すのも僕の使命です!」


真っ直ぐな瞳と純粋さに、トシとスズは心の中で思う。


この純粋さで、もっと早く、素直に受け入れ、伝えられていたら―


後悔が胸を(よぎ)る。


しかし、前を向くという意志を胸に、二人は立つ。


副長「…解った…君達は…自分達で解決する気なんだな…?」


その顔は、悔やみ―眼を合わせるのが申し訳なさそうな、そんなカンジだった。


副長「なら、間違わないことだ…私の様に…流されてしまってはダメだ…どこか…ここまでは駄目だと思ったラインは…越えちゃならない…! 決めたことは…必ず守るんだ…! それを…自分を偽り…裏切っちゃいけない…! 絶対だ…! それが年長者としての…違うな 失敗した者の意見だ …いいな?」


その副長の言葉は、熱く、重く、物悲しげに感じる。


それに答えるが如く、全員が、各々に、頷いていた。



―8月9日(火)深夜0時半過ぎ―


―日比谷 高層ビル屋上―

挿絵(By みてみん)


黒い男「…」


強い風が吹く中、屋上の縁部分に腰掛けている。


(おもむろ)に携帯をポケットから取り出し、リダイヤルで電話を掛ける。


数回のコール音の後に、相手が出る。


黒い男「…協会は壊滅しました」


エージェントA『そうか ドミニクは拿捕出来たか?』


黒い男「いえ…捕まえようとしましたが、自壊装置の様なものを使用し、瓦礫の中に消えました… 言った通りに成りましたね…高貴な死を選んだようです…」


エージェントA『そうか…』


黒い男「ですが、全てを見ていた副長の生存は確認しています あの人に証言してもらえば、証言としては十分かと」


エージェントA『彼は生存しているのか?』


黒い男「ええ…多分、他のヤツ等と一緒にいますよ」


エージェントA『わかった それを参考に"プルス・アウルトラ"の解体を行う。』


黒い男「…良かったです 役に立てて…」


エージェントA『ああ…協会はドミニクの私物と化していた…お前のお陰だ そして、辛い役目をさせたな? 済まん』


黒い男「いえ…構いません」


エージェントA『今後この様なことが無いように、新たな"協会"を立ち上げる それは、本当に困った人達を助ける組織だ』


黒い男「いいですね…そうすれば、我々の負担も減る」


エージェントA『そうだ 今日はご苦労だった また、頼む』


そう言って、電話は切れた。


携帯の電源を切り、折り畳むと、サイドバッグにしまう。


下界の喧騒に眼を降としている。


その眼は、紅く変化した。

3ヶ月後―

黒い男は対峙していた―

同じ道を歩んでいたはずの仲間と…

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