後編 其の十八
副長の胸部を貫いた弾丸―
その射線の元には、ドミニクの姿が―…
十八
―8月8日(月) 夜11時35分過ぎ―
―千代田区 プルス・アウルトラ本部 作戦室―
胸部を貫かれ、大量の血を流しながら前のめりに副長は倒れ込み、微動だにしなくなった。
ゆっくりと衝撃音の方向に振り返ると、座り込んで右手にフィラデルフィア・デリンジャーを持ったドミニクが、息を荒くしていた。
ドミニク「赦すっ…赦すものかッ…! 貴様等裏切り者をッ…! この神の代行者を裏切るなどッ…」
荒い息と共に息巻くドミニクにゆっくりと身体を向け、歩き出すと、無言で背中の"閻魔"を右手で引き抜き、上から下へ"閻魔"を一振りした。
ドミニク「貴様等のっ… ? !ぎゃああぁァァァ!! 指がッ…! 私のッ…!」
ドミニクのデリンジャーを持つ右手の人差し指、親指がごっそり無くなっており、床にボトリと落下する。
ドミニク「ぐっ…ぐぐぐぐッ…!!」
左腕が折れている為か苦痛にも傷口を抑えることも出来ずに俯く。
しかし、そんな事を全く意に介さず、黒い男は更にゆっくりと歩みを進めた。
眼の部分は反射光で異様なまでに紅く輝き、右手に持つ刀からは指が一本張り付いたまま、ポタリと血の雫を垂らしている。
ゆっくり歩みを進める、目前の殺意を纏った男。
ドミニクにとっては恥辱の極み。
しかしそれに臆することも無く、腫れた顔のドミニクはギリギリと奥歯を噛み締める。
ドミニク「おのれ…ッ! おのれぇぇぇぇっっ!! 私の…! 私の組織を!神の意志を司る私の組織の意志を! その神の意志を冒涜する貴様は! 悪魔以外の何者でも…!」
喚くその言葉を無視して、更にドミニクへと歩みを進める。
ドミニク「聴いているのか!? 私の絶対な言葉を!!?」
全く意に介さず、右手の"閻魔"を振り上げる。
??「待って下さいッ!」
その若い声が発せられた方向に視線を向ける。
クリフ「ダメですッ! それは間違っています!」
幼い魔術師は、ハッキリとした言葉で、その場に割って入る。
副長の側に寄ると、腰のバッグから何かを取り出し、傷口に塗り始める。
クリフ「この人は助かります! それ以上は! その先に行っては! ダメなんです!」
傷口に何かを塗りつつ叫ぶ。
その言葉に耳を傾けているのか、歩みは止まっている。
しかし、視線は外していない。
ドミニク「くっ…くくっ…!」
ドミニクは座り込んだ状態で這いずりながら後退る。
クリフ「その人は裁かれなければならないんです! あなたが手を下してはダメなんです! 怒りに任せて罪を犯してはダメです!」
黒い男「…クソ生意気だな…だが、それも一理在る」
ゆっくりと"閻魔"を背中の鞘にしまう。
その様に、緊張が解けたことが解ったか、クリフが一息吐く。
しかしその直後、突如として激しい揺れが起きる。
クリフ「な…?!」
突然の出来事に周囲を見回し、焦る。
黒い男が視線をドミニクに落とす。
ドミニク「クッ…フッフフ…フフフフ…!」
屈み込みながら笑いを漏らす。
地揺れは激しくなり、周囲の壁にヒビが入りだす。
クリフ「これは…?!」
ドミニク「ハッハハハハハ…! キサマ等異教徒共になど殺られるものか…!」
高々と笑いながら上部を仰ぐ。
見ると、自身のデスク付近に在るプラスチックで覆われていた場所を、右手の握り込んだ底部=鉄槌で思い切り押していた。
プラスチックの割れた下のそれは緊急用スイッチらしく、施設内に警告音が鳴り響く。
ドミニク「私諸共異端者は駆逐されるのだ…! ははははは…! 私の…神の勝ちだ! はははははは!!」
黒い男「チッ…狂信者が…!」
舌打ちと共にドミニクに向かおうとした所、崩れてきた天井の一部が、目前に落ちた。
その高笑いの中、ドミニクは破片に埋もれていく。
その笑いは、途切れることが無かった。
クリフ「僕等も、早く逃げないと…! 起きて下さいッ!」
黒い男に叫んだ後、倒れている副長を起こすため、揺さ振りだす。
副長「う… !こ…れは…?!」
クリフ「早く逃げましょう! 傷は殆ど治っているはずです!」
眼を覚ますと同時に副長を急いで担ぎ起こし、出口へ向かい出す。
黒い男「…」
クリフはトシ達含め、備え付けられた緊急非常エレベーターへ向かう。
だが、一人、黒い男が、その崩壊する作戦室と埋もれていった笑い声の先を一瞥する。
そして背を向けると、走ってその崩壊する作戦室を後にした。
虎ノ門―
深夜の地上に脱出した面々―
そこには…




