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異聞録:東京異譚  作者: 小礒岳人
人の章

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後編 其の十四

心砕かれたトシ―

進む黒い男―

そこへ…突如として襲い掛かるスズ…それには…

十四



―8月8日(月) 夜11時20分過ぎ―


―千代田区 プルス・アウルトラ本部 メインホール―

挿絵(By みてみん)



飛び掛かったスズは、独鈷鈴の刃部分を逆手に持ち、黒い男に跳躍する。


狙うは首元のみ―


黒い男「―ムダだ」


冷ややかに言いながら視線だけを動かし、自分の方に右手を向けると、彼の能力、"龍の(あぎと)"により、吹き飛ばされる。


トシ「! 止めろッ」


反射的に出たその言葉は、届いていない。


そのままスズはコンクリートの壁に思い切り背中をぶつけた。


スズ「!―っはッ!」


肺から空気が漏れる様な音が口から漏れると共に、瞬時に激痛が背中に現れ、地面へと落下し、へたり込む。


黒い男「酷いな―最初はソッチから誘ってくれたのに―」


冷ややかに告げつつ、ユックリとスズへと向かってくる。


黒い男「なのに…オレを殺そうとするなんて…」


冷たい言葉を口にしながら、右手でスズの首元をガッチリ掴んで持ち上げる。


咒符の効力で筋力が上がっているため、軽々と持ち上げる。


黒い男「それは身勝手だろ…スズ―いや、本名は―」


その言葉でスズの眼の色が変わる。


スズ「ッ…ダメ…ッ!」


それだけは駄目だ。


絶対に駄目なのだ。


()()()()()()()()()()()は―


眼の前の彼はいなくなった彼とは別人なのだから―


その思いを出してはならない―


その思いを見せてはならない―


そうしたら―


してしまったら―


自分の心は、彼とは二度と会えないという現実を―


過去のことなのだと―


受け入れねばならないと―


なってしまうから―


彼は敵なのだから―


斃さねば―


そう思い込まねば―


畏怖する様な、怨む様な顔で、黒い男を睨む。


その表情に、向けられたその感情に、一瞬、ただ一瞬だけ。


黒い男は、どうしようもない寂しい眼を"スズ"()()()()()()()に見せる。


―え?


その表情を視たスズは、眼を見開いてたじろぐ。


だが、直ぐ様幻の様に、視ていた黒い男の眼は冷たい眼差しへと戻っていた。


黒い男「…オレは、()()()じゃない―」


(まなこ)は紅くなっていた―


スズ「わかっ…てる…!」


黒い男「解ってない…! オレは、オレだ…!」


ハッキリ言い放つそれは怒りを孕み、その眼差しをスズに向ける。


黒い男「オマエ達の…オマエ達を慰める為にいるんじゃない…!」


スズ「! …え?」


その言葉にスズは絶句した。


黒い男「オマエ等は…!六年前にいなくなったヤツの事を考えてるんだろ!? ソイツとオレが似てるからって比べて…!」


その言葉に、頭を金槌で思い切り叩かれた様だった。


黒い男「誰も…! オレの事なんか視てもいない…! 家族も…! 誰も…! オマエ等も同じだ…! 都合の良い時だけ…オマエ等の理想を押し付けやがって…! オレは…! オレはオレだ!! 」


…知っていた―


彼は知()()()()


()()()()を…


そして…()()()()()()()()()()()()を―


()()()()


そんなつもりは無かった―


だが、無意識に求めていた―


もう、二度と会えない彼の事を―


一年前―目前に現れた彼を―


…いつも彼を()に重ね合わせていた―


()()()()()()()()()


()()()()()()()()


()()で視ていた―


目前の彼は、()ではないというのに―


自分は、彼を、()の代わりとして視ていた―


二度と会う事は叶わないのに―


無理なのに―


其処に苛立ちを覚え―


独りで勝手に―


彼を避けて―


そうだ―


自分は―


彼に拘っていたのは―


スズ「…私だ…」


ぽつりと呟くと共に、全身から力が抜ける。


何時の間にか、スズの髪の色は全て真っ黒に染まっていた。


黒い男「…」


その力が抜け、項垂れた彼女の姿に、掴んでいた手を離す。


力無く膝から崩れ落ち、俯く。


それを見下ろす眼は、どんな気持ちなのか、暗闇で解らない。


??「何をやってるんですかッ?!」


その若い声の主は視ずとも直ぐ判った。


黒い男「…来たのか クリフ…」


言いながらゆっくりと声の方を向く。


クリフ「! 大丈夫ですかッ!?」


そう言ってスズの側に寄るが反応はない。


そのやりとりの間に黒い男は、()()()()()()()()()()


スズ「彼を視てなかったのは…私だ…()に拘って…」


涙を流しながら、誰に言うともなく呟いた。


クリフ「…? なんの…事ですか…??」


スズ「なんて…! 酷い事を…っ」


その言葉を放つ彼女の瞳には涙が滲む。


トシ「…それは…俺もだ…」


撃たれた場所を抑えながら座り込んだトシも、スズの言葉に俯きつつ漏らす。


しかし、まだ眼は死んでいない。


トシ「俺達二人は…彼に向き合っていなかった…彼を止めないと」


竜尾鬼「僕も…手伝います…あの人は、仲間です…!」


そう言って、蹌踉(よろ)めきながらも側に来る。


トシ「…結局、本当に心配してたのは竜尾鬼だけだったんだな…」


その言葉には、寂しさも籠もっていた。


トシ「キミは…行かないのか?」


スズの側にいるクリフに眼を遣り、問う。


クリフ「僕は…」


トシ「… 君も…迷ってるのか…?」


クリフ「…」


帰ってこない言葉に、その静寂に、その場は支配される。


クリフ「とても難しい人ですけど…あの人は悪い人間じゃないです…けど」


トシ「…けど?」


長い沈黙の後、クリフが口を開く。


クリフ「…今のあの人のやり方は…間違っていると思います」


そのハッキリとした言葉は、その場にいる全員を動かすのに十分な答えだった。

打ちのめされた二人を置いて先へ進む黒い男―

その先には、暴走したドミニクが…

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