後編 其の十二
目前に現れた三つの影―
段々と近付いてくるそれは―…
十二
―8月8日(月) 夜11時20分過ぎ―
―千代田区 プルス・アウルトラ本部 メインホール―
赤い警告灯が明滅する中、薄暗く無機質な通路を歩くと、開けたメインホールへと辿り着く。
明滅する警告灯に照らされ、目前から三人のヒトが歩いてくるのが判る。
躊躇せず左手の"陰"を左側のヒト目掛けて撃つ。
右の男「ふっ!」
右のヒトがヒトでは有り得ない反射神経で銃弾を斬り落とす。
声で判った。
竜尾鬼だ。
あんな常人離れした芸当はフツーの人間には出来ない。
真ん中の男「な…!? アイツ…! 撃った…?!」
驚きの声…直ぐ判る。
苛立ちの元凶達…トシだ。
いや…
まあいい。
ということは撃った女は…
左の女「!…大丈夫…私は…大丈夫…!」
スズ…いや、コイツも、いや…!
黒い男「…よくオレの前に現れられたなァ…オマエ等…」
歩みを止めず近付いてくる。
その、余りの敵意に三人は足を止め、構える。
黒い男「オレを止めるか…? 出来るか? オマエ等に…?」
一番厄介なのは…!
右の人影―竜尾鬼に狙いを定め、急速に走り出す。
竜尾鬼「下がって!」
二人に言うと、竜尾鬼も前に出る。
左手の銃を腰裏にしまい、右手の"閻魔"で右薙ぎに斬り掛かる。
それを竜尾鬼は"明智拵"で弾く。
金属質な重い音と共に刃が弾いた方向に持ち上がった。
しかし、弾かれながらも手首を切り返し、再び左横から薙いでくる。
粗く雑な振りだが強力で迷いが無い。
それを目前で受けると、眼下で鍔迫りの形をとる。
竜尾鬼「っ!…くっ…」
力を出せばなんとか為るだろうが、気が引ける…出来ない。
力を出す事で、人を…周りの人間を…目前の仲間を傷付けてしまうかもと思うと…
黒い男「どうした…? "力"を出さないで… 勝つ為にも…! あの、ペルガモの時みたいに"力"を出してみろ!」
―?
言われた竜尾鬼の頭の中に疑問が生まれ、一瞬動きが止まる。
その隙を見逃さなかった。
更に刀を押しながら顔を近付ける。
黒い男「"仲間"のお前とは戦いたくないからな―」
竜尾鬼「!―」
そう囁く様に言うと、竜尾鬼の力が抜ける。
黒い男「寝てろ!」
言うと同時に強力な左膝蹴りを腹部に食らわせる。
竜尾鬼「!ッ…ぐぇッ…!」
その衝撃で口から胃液か何かが出ていた。
衝撃で浮いたところに、思い切り右前蹴りをもう一度腹部に入れる。
竜尾鬼「ッ!がッ…!!」
その強烈な二撃目は、竜尾鬼を吹き飛ばし、奥にあるコンクリートの壁へと全身をめり込ませた。
竜尾鬼はそのまま気を失った様で、微動だにしなくなった。
普通の人間なら全身の骨がバラバラで生きていられない。
…が、普通ではない竜尾鬼なら大丈夫だ。
怪我と傷ぐらいで済む。
これなら抵抗も出来まい。
一番面倒だった竜尾鬼を排除出来た。
コイツ等は自分に仇なす存在だ。
自分の邪魔をする存在だ。
自分に相対する―…"悪"だ―
横に突っ立っているメガネに視線を向ける。
暗がりで視たその顔は、驚愕の表情だった。
トシ「…お前…! 何も感じないのか…?! 仲間に!?」
だが、その言葉に何も感じない。
寧ろ感じるのは別の感情だ。
…煩わしい。
またソレか…
その言葉で、また侮蔑した目線を向けた。
仲間を救うべきという意志―
だが、その意志は目前の仲間である男によって、否定される―




