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異聞録:東京異譚  作者: 小礒岳人
人の章

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後編 其の三

あれから数日後―

黒い男は深夜御苑通りを歩く―



―8月1日(日)夜11時過ぎ―


―新宿区 新宿御苑通り新宿門付近―

挿絵(By みてみん)



黒い男「…」


人通りも少なく、薄暗い道を一人早足で歩く。


この夏は暑く、最高気温が四十度を超えている。


異常気象とも言える暑さとはいえ、後見の長い長袖の上着を羽織り、背中に太刀袋を背負っているのは珍しく映るが、この暗さでは目立たない。


けたたましいくらいの蝉の鳴き声が、陽が落ちて大分経つというのに耳に煩い。


恐らく暑さで昼夜の感覚が麻痺した蝉が鳴いているのであろう。


屋外飲みも出ているであろうが、蚊の多さや余りの()だる様な暑さ、蝉の煩さで全て室内になっている。


ビアガーデンの様な高台、草木に覆われたこの辺りで風も吹かなければ、当然と言えば当然である。


―その蝉の鳴き声が―進行方向から聴こえない。


それどころか、その静寂がドンドン近付いてくる。


言いようのない"敵意"と共に。


黒い男「…ようやく来たか」


小声で呟いたその言葉に、喜びで口元が歪んでいた。


()()()()が来て以来、敢えて目立つ行動を取り、プルス・アウルトラ(協会)の刺客を往なしていた。


自分を襲ってくる協会の刺客を相手するなんぞ、夜中に襲ってくる藪蚊ばりにウザったい存在だ。


待つよりも攻めて、出てきた強力な相手から聞き出して、その頭を潰した方が手っ取り早い。


その思考で動いていた。


今回の依頼は、日本政府直轄組織からの正式なものだ。


しかも、バチカン本国へと向かったSの報告も加味された結果、正式に日本支部プルス・アウルトラ(協会)解体の任を受けた正当なもの。


超自然的存在に対抗しうる為に組織された超法規的組織…その存在理念を覆すが如き常軌を逸脱する程の私的利用は、最早元来の組織体系を成しておらず、早急に解体せよとの事だった。


―協会内での不正の証拠を集め、支部長であるドミニク・サンティスを拿捕(だほ)し、送還させよ―と。


その任を受け、この一週間夜な夜な協会からの刺客を相手していた。


結果は上々。


クリフと分かれて行動し、クリフは依頼、自分は協会の相手をするという役割分担を行っていたお陰か。


十分過ぎる証拠を得た。


こんなにも非合法な存在を協会の末端として登録していたとは。


自分で協会を調べていて出てきた人間以上の悪辣な存在が露わになった。


中には平然と殺しを担う輩も居た。


所轄、汚れ役。


職業も…違法風俗嬢や退魔師崩れの用心棒…脅し紛いの霊感商法まで、様々な持ち崩した連中を、ドミニクは巧みに汚れ役に導いた様だ。


カネで。


どれも法外な額で、しかも依頼先は協会とは別の闇サイトへ導いている。


このテのサイトは自殺願望者が集まるコミュニティ掲示板に集まる。


そこに紛らわせているのも小賢しい。


それを自分一人で調べていたところ、日本政府からの正式な依頼…タイムリーなその報に、喜びが勝った。


これであの鬱陶しい"協会"のドミニクを消せる―


それが目前から現れる敵意を向ける者が導いてくれる―


笑わずにいられるか。


ヤツを殺せるのだから。


黒い男「…来いよ!」


そう言って走り出し、"敵意"へと向かう。

現れた殺意へと殺意を向ける―

そこで行われる命をかけた行為とは―

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