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異聞録:東京異譚  作者: 小礒岳人
人の章

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中編 其の二十九

宿星である"五龍"の"力"を解放し、変生する黒い男―

魔人化をし、反撃が始まる―

二十九



―4月27日(火)夜1時―


―あきる野市 秋川渓谷 嘉手名別邸地下一階 食肉加工室異界―

挿絵(By みてみん)



"力"を解放すると、全身に黒い鱗のようなモノが現れ、肘や肩、膝、背中、頬や髪も硬質的で鋭角に変化した。


右手は特に鋭く刺々しく、掌と甲が黄金色に輝きを放ち、その光の筋が全身に沿って走っており、その黄金色の溢れ出した力が、放電するかの様にバチバチと全身から放たれている。


そして、刀…"閻魔"の形状も変化し、長大で反りが在り、刀身が黒と紅、裏側が鋭角的でギザギザしており、こちらも全体が黒い鱗で覆われて、生物的なデザインに変貌している。


"魔人化"したその姿は、まるで悪魔の様だった。


黒い男「サァあ~あ…! お前の罪を…贖え…!」


口元を歪ませながら発したその言葉は、力の解放により高揚している様だった。


抑えていた力を放った開放感…その感覚に近い。


言い終わると脚部に力を込めて少し屈み、思い切り地面を蹴って跳躍する。


その強力な踏み込みは、衝撃によって地面が円形に沈むほどだった。


向かってくる蠅の軍団に飛び込むと、縦一回転してから体勢を変えて、大型化した刀を力を込めて右横薙ぎに思い切り振るう。


壁の様に襲い来る大群が衝撃で十戒の様に割れて、血を噴き出しながらバラバラになって地面に墜ちていく。


斬られた中に生まれたばかりの蠅が混じっており、苦痛と怨嗟の入り交じった耳障りな断末魔が聞こえる。


黒い男「!…ッ チッ…!」


舌打ちした後、両手で刀を上に振りかぶり、思い切り()()()()()()()()()()全力で振り下ろした兜割りを喰らわす。


右の真っ赤な複眼から胸部まで刃をめり込ませ、刀を押し込む。


蠅の王『ギャァァァァァァ!! いたいいたいぃぃぃぃ!!』


絶叫と共に苦しみ痛がる()()()()


柄を持つ手に力を込めて、刃をヌラつく胸部に押し込む。


蠅の王『ぎゃああああ!! ッ…! 離れなさいよッ!!』


苦しみながらも一番長い触脚で思い切り(はた)き飛ばす。


黒い男「!? ッ…ぅおっ?!」


横からの意図しない衝撃で吹き飛ばされ、床を一度跳ねると回転しながら体勢を立て直して、再びの着地の際に脚部を屈して膝立ちの形を取る事で、後方への勢いを殺した。


蠅の王『行きなさいよ! 我が騎士団よ…!』


そう言うと、何処からか再び現れた蠅の軍団が様々な言語でブツブツ呟きながら、蠅の王の前に現れ、襲い掛かってくる。


黒い男「…またその手かよ…! 芸がねーな!」


いつの間にか背中に"閻魔"を背負い、腰裏から両手に銃を構えた。


そして両手からの力を込めて、凡そ人では考えられない速さでトリガーを引きだす。


その速さは最早人のそれではない。


まるでマシンガンの様な速さで銃を撃つ。


反動を無理矢理力で押し込め、狙いを定め、撃ち続ける。


感覚が数倍以上になる"魔人"状態でなければ維持出来ない。


目前に襲い掛かる蠅の騎士団に山程弾を撃ち込み、被弾箇所から拡がる聖餅の破片が、蠅達を灰へと変えていく。


片方ずつ弾が切れたら、腰裏の予備マガジンを高速リロードして再び有り得ない速度で連射する。


その有り得ない速さで連射する銃も、普通では考えられない銃撃による熱量で破損するところだが、咒符を練り込んだ希少金属は壊れる事もなく動作し続ける。


…だが、"閻魔"と違い、()()()()()()()()()()()()()では限界が訪れるのも時間の問題だ。


まだ改良の余地がある、と頭の片隅で考えながらも、銃を連射し続ける。


だが、その余りの蠅達の多さに、押され始める。


このままでは弾も尽きてしまう。


黒い男「ッ…チッ…!」


押されている現状の歯痒さに舌打ちをする。


蠅の王『アラぁ~? もうダメかしらァ~? 結局はそこまでの様だなニンゲンよ…』


黒い男のその様に余裕を感じたか、二つの頭は喋り出す。


黒い男「…」


蠅の軍団『貴様のその程度の力では、我を斃すのは難しいんじゃなァい? そんな程度の力でアタシを斃そうなどと…至高の王を斃すなど…己惚れが過ぎるぞ…!』


その、男女入り交じった不遜な態度は、黒い男を苛つかせた。


黒い男「ッ…! 黙れ…! キモイ化物(バケモ)ンのクセに…講釈垂れんじゃねぇ…ッ!!」


激しくトリガーを引きながら言い放つ。


蝿の王『貴様…()()()()()()()…我にどうしようというのォ? ()()()()()()()()()()…我を斃そうなどと…考えてはいるまいな?』


黒い男「!ッ…うるっ…せ…!」


吐き捨てながらも攻撃の手は緩めない。


そんな中、ちらと横目でクリフに視線を遣る。


現状の状況に打ちのめされ、戦意を喪失している。


クリフ側には向かわない位置で"蠅の王"と対峙しているとはいえ、苛立ちを覚える。


何をしにここへ来たのかと。


その思いが、言葉となって口に出る。


黒い男「何やってやがる! クリフッ!」

十五歳のクリストファーが経験した現実―

その現実は、彼を悩ませる―

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