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異聞録:東京異譚  作者: 小礒岳人
人の章

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中編 其の二十六

人の道を外れた松田リカに対し、絶対的な敵意と怒りを向ける黒い男―

本人から述べられる言葉は…

二十六



―4月27日(火)夜0時51分―


―あきる野市 秋川渓谷 嘉手名別邸地下一階 食肉加工室―

挿絵(By みてみん)



黒い男「…救っただと…?」


その言葉と共に向けられる敵意は凄まじいモノだった。


松田リカ「そう…彼女から得られた恩恵はとても多いの…私に潤いを与えてくれたわ…! そう!特に脳の料理は素晴らしかった…!」


恍惚とした表情で述べるそれは、喜び以外のなにものでもなかった。


黒い男「…もういい…解った… お前は此処で死ね!」


吐き捨てると、何処からか取り出した刀を右手に、斬り掛かる。


松田リカ「くっ!」


舌打ちと共に蠅の大群を目前に集めるが、其の殺意の前には全く効果無く、蠅達は屠られていく。


黒い男「そらそらそらそらそらそら!」


左右に高速で斬り込みながら前進していく。


松田リカ「なによ! なんなのよ!」


思い通りにならず攻め込まれ、歯痒さを口にする。


黒い男「嘉手名貴代子! お前もこれまでだなァ!」


更に踏み込みを強くする。


松田リカ「何よ! だったら…!」


そう言って、(あらた)に蠅を背部から呼び出し、冷蔵庫へと向かわせた。


蠅達は美穂の吊された遺体に取り憑き、体内へと入っていく。


硬直しているであろう全身がビクビクと蠢き、ピタリと止まる。


そして再び大きな痙攣をすると、その動きで美穂の遺体は床へと落ちた。


クリフ「え…?」


どたりと床に落ちた美穂の遺体に、視線を遣る。


倒れ込みそうになるその遺体を、思わず支えようと反射的に手を差し出し、肩を掴む。


すると突然、顔が上がり、クリフはその顔を直視してしまう。


左右の視線が宙を彷徨い、何かを呟いている様を。


クリフ「!」


美穂「タス…けテ…タスケテ…」


その、普段の美穂では有り得ない姿に、倒れ込んだクリフは尻餅を着いてしまう。


クリフ「! どう…して…!?」


その驚きを無視する様に、美穂の遺体は勢いを付けて、戦っている黒い男に跳躍する。


すると黒い男に向かって勢いを付けて出鱈目に腕を振り下ろす。


黒い男「何?!」


松田リカをもう一歩までと追い詰めていた処に、急な横からの気配に驚き、その攻撃を刀の腹で受け止める。


黒い男「クッ…!」


恐ろしい程の怪力で振り下ろされた美穂の攻撃は、受けた衝撃で床に足がめり込む程で、その攻撃してきた腕の骨がその衝撃で逆に折れた事が、鈍い感触として刀伝いに解る。


その奇襲は、一瞬松田リカへの攻撃を止めさせた。


松田リカ「! 離れてよッ」


そう言いながら、蠅の塊を拳の様にしてガラ空きの右脇腹に思い切り打ち込む。


黒い男「! ぅおッ?!」


腹部への激しい衝撃で吹き飛び、中央に在る作業台に突っ込んだ。


ステンレスの作業台が(ひしや)げながら吹き飛ぶ。


松田リカ「もう…このままじゃ埒が明かないわね…」


そう言いつつ、自身の背後から蠅達を喚びだしたかと思えば、身体に纏い始める。


松田リカ「余り…この姿は好きじゃないの…綺麗じゃないし、私らしくないから…!」


言いながら、みるみる蠅達が松田リカに付着しだし、黒く一体化し始める。

遂に大罪と一体化する松田リカ―

その姿はまるで―

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