前編 其の八
連れ去られた沙耶―
中庭では…
八
―夜11時8分―
―港区芝、私立御厨中高等学校 中庭―
この学校には中庭というものが存在している。
横長の中高一貫校舎の前には広大な、土を使用していない人工のグラウンドが。
そして、そのグラウンドとの間に、校舎を繋ぐ、同じく横長な中庭が在った。
70年代後期に当時の校長によって、近代化が進み、自然の少ない都会でも自然に触れて欲しいと、くつろぎの空間として整備されたのである。
ベンチと綺麗に整えられた植木、そして等間隔で配備されたスグリ、花壇にはミヤコワスレという、とても珍しく、学校では見たことの無い木花を植えていた。
しかし物珍しくもスグリは実が食せる故、家庭科の授業で使われたり、ミヤコワスレの景観も相俟って、休み時間には学生達の人気が高く、憩いの場となっていた。
そこに沙耶が連れてこられ、月明かりの下、余り多くない芝生の上に、組み伏せられていた。
無論、組み伏せているのは、茜だった。
その周りには、先程沙耶を連れ攫った警備員二体。
沙耶「やぁだぁ…っ! あかねちゃぁ…ん…!」
組み伏せられながらも手足を悶えさせ、必死に抵抗をする。
目を瞑り、大量の涙を溜めながらも首を子供の様に振る。
茜「うふフフふ…沙ァ耶ぁ…!」
上に乗る茜の視線は相変わらず明後日を向いており、眼球の隙間からは小さい百足がはみ出し蠢いている。
その破れたダッフルコートから覗く千切れて延長された手足の関節からは幾重も重なった百足が蠢いているのが見えた。
そして、伸びた腕で押さえ付ける力は強力であり、普段の茜からは考えもつかない程だった。
茜は恍惚とした表情から有り得ないほどの長さの舌を伸ばし、沙耶の顔を舐め回す。
沙耶「!イッ…」
その口からは、恐らく百足のせいで裂けたであろう血の臭いと、口内から落ちてくる百足が顔面に落ちてきて、途轍もない嫌悪感が湧き上がる。
しかし、恐怖が勝ち、声も上げられないほどになっていた。
沙耶「なんっ…でぇっ…! こんなっ…! こんなことするのぉっ…!?」
茜「あタしィ…ネぇっ…沙耶ァにィ…っ 子供産マセてあげラレるゥのォっ…!」
沙耶「なに…?」
恍惚としたその幼馴染みだったモノから発せられた言葉の意味を、沙耶は理解出来なかった。
茜「先生ェがァ…ネぇっ…シてイイってェ…! うレぇしィィよォネぇっ!? 沙ァ耶ァっ!!」
涙を流しながら沙耶に訴える親友の姿は、恐怖でしかなかった。
沙耶「ぃいやぁぁァァァ!!!」
必死に抵抗し、身悶えするが、一向に解けない。
茜「スぐだカァらァっ…! すグっ…!」
そう言って、下の方でメキメキ音がしたかと思うと、茜の下半身から長大な百足がギチギチと現れた。
それを見てこれから先に起きる出来事を想定し、血の気が引く。
これからどうなるかも。
沙耶「イヤッ!イヤッ!やぁだぁぁぁぁ!!!」
より一層激しく抵抗するが、組み伏せた手足が解けることは無い。
沙耶の叫びを無視し、茜が沙耶の上着を無理矢理引き千切り、下着姿にさせていく。
真冬だという事も、半裸だという事も気にせず、沙耶は抵抗を続けるが、圧倒的な力の差に其の行為は空しく徒労と化す。
そもそも、寒さなど意識していられなかった。
暴れたのに無理矢理服を引き千切ったからか、沙耶の全身に痣が出来ていた。沙耶の押さえられた手足は雑に暴れすぎて傷付いている。
茜「大ァ丈ォォ夫ぅゥ…! 先ッぽォ…だァけぇ…ダカぁらぁァア…! ちょッと…ダケ…ぇぇ…! すグ…済ムカ…らぁァ…!!」
そう言って茜は沙耶の両腕を持って吊り上げる様に立たせる。
沙耶「もォ…! やぁだァァァァァ!!!」
茜「!!ガッ…!」
その時だった、茜の動きが止まったのは。
その様子に、沙耶はワケが解らず、固まってしまう。
よく見ると、茜の身体を何かが貫き、自分の腹部あたり寸前で止まっていた。
沙耶「!っ」
その貫いた"何か"がゆっくり抜かれると、左右に立っていた警備員が横真っ二つに斬り裂かれ、血を飛び散らす。
そして、動かなくなっていた茜が縦真っ二つに裂け、どさりと地面に落ちた。
その二つに分かれた茜の背後から、黒尽くめの男が現れた。
月明かりに照らされ、影となった男の眼は、紅く輝いていた様に視得た。
トシ達が真美を連れて裏門に向かっている頃―
黒い男は校内で屋本を追っていた―
が、窓から中庭を見ると其処には…




