前編 其の六
突如現れた男達は常識では考えられない方法で警備員達を斃していく―
六
夜11時5分―
―港区芝、私立御厨中高等学校1階エントランス―
その様相はどう形容して良いか、二人の中学生には解らなかった。
黒尽くめの男が両手にした拳銃で見知った警備員達を撃ち抜き、突如現れた眼鏡の優男は、紙切れを放り出し、炎を操っている。
これはなんなのか?
まるでドラマの特撮みたいだった。
いつも観ている土曜夜9時からの、昔そんなのがあったハズだ。
ただ一つ違うのは、とても生々しく、起きている物事も御都合では無いという事。
沙耶「…なんなんだろ…? コレぇ…」
真美「…わかんないよ…」
そんな思いで眼前に起きている、非現実的な一連の事柄を視ていた二人の思考は、警備員の襲撃という行為で、突然現実に返される。
沙耶「! やぁっ…! やぁだぁっ…! まみちゃぁっ…!」
そこまで言って、警備員三人に沙耶は捕まれ、どこかへ連れて行かれてしまう。
真美「さやちゃん!」
だが、そんな真美にも警備員二人が迫ってきていた。
そちらに注視し、沙耶が何処へ連れて行かれたかまでは見ていられなかった。
それ以前に、自分がヤバい。
茜に起きた事態がフラッシュバックし、身が震える。
トシ「! しゃがむんだッ!」
そう言われ、真美は反射的にその場に頭を抱えてしゃがみ込む。
走り出した眼鏡の優男は懐から紙切れを出し、真美の周囲にいる警備員に向かってその紙切れを投げた。
どんな技術か解らないが、紙は真っ直ぐ警備員達の頭上に向かい飛ぶ。
トシ「ナウマク・サマンダボダナン・インダラヤ・ソワカ!」
調度頭上あたりでトシがそう唱えると、激しい音と光を伴う雷となって、警備員二人を包んだ。
そして、音が止んでゆっくり目を開いた真美は、周囲を恐る恐る見回し、起き上がった。
そこには、焼け焦げた警備員二人が倒れ込んでいた。
トシ「大丈夫?」
そう言って眼鏡の優男が近付いてきた。
短髪でカッチリした印象を与える眼鏡と、首回りにファーの付いたコートと紺のセーター、下はGパンと、小綺麗な身形だった。
スズ「ごめんなさい…! 遅くなった…! 裏口で百足の警備員に襲われて…大丈夫だった? 彼女は?」
そこに声を掛けた女性が周囲の警備員を眼鏡の男と同じ様に紙切れで攻撃しながら現れる。
ロングの髪にカチューシャで前髪を上げ、首に白のマフラーとグレーのダウンコート、下は短い黄のフレアスカートと黒タイツを履いた女性だった。
一番特徴的なのが髪の毛で、一部所々に脱色が施されており、真面目な口調だが、喋らないでいると、近寄り難い感じがした。
トシ「生存者だ…! アイツも見付けたし、話をすれば聞いてくれるハズだ!」
その自信たっぷりの言葉に、後から来たその女性は、下を向いて呟く。
スズ「そうかな…」
トシ「? いや、話せばなんとかなる…! 俺達の思いを伝えれば…!」
スズ「そんな簡単じゃ…ないんじゃない…?」
遮る様に述べるその女性の言葉は、後ろめたそうで、重かった。
その意味を気にせず、トシは真美に振り向く。
トシ「安心して、直ぐここから逃がしてあげるから…!」
その爽やかさと真摯さは頼れるものがあった。
真美「あ…でも、友達が…!」
悲痛なその思いを眼前の男に伝える。
トシ「大丈夫! 絶対助けるから…!」
その態度に、ようやく不安が少し晴れた気がした。
友に対する悲痛な願いを目前の名も知らぬ男に伝えている間に、黒尽くめの男の方も、あらかた警備員を倒していたらしく、銃を弄っていた。
黒い男「…」
黒尽くめの男は銃を弄り終わると、無言でその場にいた自分達を意にも介さず、いなくなった屋本のいた場所へ向かおうとした。
トシ「待て!」
そう眼鏡の男が黒尽くめの男に声を掛けると、一瞬だけ足を止め一瞥すると、何も答えず歩みを進め始めた。
トシ「久し振りだな… 半年間、お前を探してたんだぞ? 目的は一緒なんだ それに、アイツは見た限り蟲憑きだ…! 多分、数が多い…! こっちも多いに越した事は無い…! だから、な?」
その真面目で心を打つ真っ直ぐな言葉は、信用に足るものだと感じた。
トシ「また、一緒に戦おう! 俺が…俺達がお前をなんとかするよ!」
そう言われれば、とても頼もしい、信じるに足り得るものだ。
勿論、賛同は得られる。
言った本人もそう思っている。
―が、
黒い男「…まだ、そんな事言ってんのか?」
帰ってきた言葉は、全く違ったものだった。
それは、嘲笑う様な言い方。
トシ「―え?」
そんな返答が来るとは思っていなかったのか、眼を見開いて驚愕する。
黒い男「オレは既にお前等を必要としていない それ程に力は手に入れている それに―信頼していない相手を、どうやって"なんとかする"んだ?」
その返答に、眼鏡の男は固まった。
言葉が出なかったというところか。
その言葉に、後悔の表情と共に俯く。
しかし、容赦なく黒尽くめの男は言葉を続ける。
黒い男「救いたきゃそのガキ達はお前等が救え オレは化物等を消す事以外に興味は無え それにコイツ等は自業自得だ 自分達でルールを破ってトラブルに巻き込まれたのに想定してなかった? ハッ ウケるわ」
その言葉で真美は不快な気持ちになりつつも、こんな事は起きると思っていないと心の中でごちる。
トシ「この子達はまだ子供で…!」
黒い男「理由になるか そもそもそれはお前達がオレに教えた事だろうが 相手はコッチの事情は考えてくれない、敵とは解り合うモノじゃないってな 鉄則だろ」
トシ「っ…! それは…ッ!」
絞り出したその"真っ当な答え"も否定され、ぐうの音も出なくなる。
黒い男「それに、オレはとっくにプルス・アウルトラを除名されてる どうするつもりだ? それとも後でオレを捕まえるか? またオレに本心を喋らないで誰かの代わりとするつもりか?」
トシ「…それは…」
答えられず、後ろめたさから、ついには視線を逸らしてしまう。
スズと喚ばれた女性は、自分の腕を掴みながら終始申し訳なさそうに俯いてしまっていた。
黒い男「…ホラな? そんなモンだよ お前等の考えなんて」
最後のその言葉には、失望が籠もっている様に感じた。
黒い男「あと…簡単に"絶対"とか付けるんじゃねぇ…! それがどれだけ難しいか…お前等は解ってねぇよ…!」
そう吐き捨てる様に言って、廊下の暗闇の中へ消えて行ってしまった。
トシ「そっ…!」
その言葉を出したときには、もう黒尽くめの男は居なかった。
トシ「そんなことはない…ッ」
後悔に苛まれた様なその言い様は、自分に言い聞かせている様だった。
真美は助けられた二人に連れられ出口へ―
その最中聞いた彼等の事とは―?




