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異聞録:東京異譚  作者: 小礒岳人
人の章

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26/237

前編 其の五

二人の前に現れた黒衣の男―

彼は…?



夜10時59分―


―港区芝、私立御厨中高等学校1階エントランス―

挿絵(By みてみん)



目前に現れた黒衣の男は、背中に刀らしき物を背負い、両手に銃を持っており、起き上がり様、右手の銃を成実に向かって撃ち込んだ。


衝撃音と共に撃ち出された弾丸は、成実の額を撃ち向く。


そして続け様に左手の銃で左前方に居た警備員の頭に銃弾を撃ち込んだ。


そのまま左横に居る警備員の腹に右後ろ回し蹴りを叩き込み、流れる様に身体を回転させて頭部に左上段回し蹴りを食らわすと、続けて体勢を変え、力を込めた右足刀を胴体にめり込ませ、打ち飛ばし、吹き飛ばされた警備員はエントランスにある柱に思い切り身体を打ちつける。そこに更に右手の銃の銃弾を撃ち込んだ。


次いで後方に居る右手側に居た警備員へ、頭を低くして懐に潜り込むと、右手の銃底で顎を上に殴り抜け、左手の銃をどこかに仕舞ったのか掌打を鳩尾(みぞおち)に食らわし、その衝撃で後ろに吹き飛んだところを、先程と同じ様に右手の銃で警備員を撃ち抜いた。


最後に、右手の銃を仕舞い、背中の刀を抜いたかと思うと、右前方に居た警備員に瞬速で近付き、体勢を屈めたかと思うと、思い切り腹を下から上へと斬り裂き、そのまま腰元に戻すと刃を横にして腰撓めにし、柄を両手で握ったかと思うと、思い切り横へ斬り抜けた。


斬られた警備員はゆっくりと血を噴き出しながら床へと倒れ込む。


黒衣の男は体勢を立て直しながらも、刀を振るい、血を落とし、背中の鞘に刀を収めた。


そして、左手で銃を腰から抜き、倒れた警備員に一発撃ち込んだ。


屋本「ほぉ…凄い腕だ 何処かの退魔師さんかな?」


関心したかの様な言い方だが、矢張り変わらず淡々と述べる。


黒い男「…どうでもいい」


屋本「…でも、ちょっと惜しいなぁ 僕等に銃は効かないよ」


そう言うと、成実が屋本の隣に現れる。


成実「アははハ~ あタシにはそンなノ意味ないッテぇ~!」


ケタケタ笑いながら、煽る様に、楽しむ様に喋り出す。


屋本「ね?」


その顔を前にし、黒い男の口元に笑みが浮かぶ。


黒い男「…そんな事、知ってたさ…そもそもお前等相手に何の対策をしてないとでも?」


屋本「…なんだって?」


そう言うと同じくして、成実が震え始める。


成実「?ッ…!? がッ!?? あガぁあァ??! ああアアァぁがガぁぁァアああ!!!??」


眼球がグルグル回り出し、眼から血と小さな百足が溢れ出し、喉を掻き(むし)り出すと口から百足がボタボタと落ちだした。


そして一頻(ひとしき)り苦しんだ後、成実は床にばたりと倒れ込んだ。


一間経って、口中から唾液に塗れた一際大きな百足が、藻掻(もが)く様にずるりと出てくると、弱々しく床へ倒れ込んだ。


百足と成実の身体は、未だビクビクと痙攣(けいれん)している。


屋本「…何をした?」


その様を見た屋本は、目前の男に問う。


矢本の声とトーンは変わらないが、流石に警戒心は上がっている様だった。


黒い男「…別に ただ弾頭に"俵藤太(たわらのとうた)の矢"の"欠片"を使っただけだ…」


そう言って右手で背中の刀を抜き、目前の痙攣している成実の口から出てきた百足に、思い切り突き刺す。


刺された百足は一層大きく悶えた挙げ句、ばたりと倒れ、ぐったりと動かなくなった。


屋本「!…へえ…ただの退魔師じゃ無さそうだ…」


黒い男「…そうだな…オレはお前達みたいな存在を狩る…"ダークスレイヤー(闇殺し)"ってトコロだ…!」


そう言って、思い切り刀で百足を斬り裂き、刀を鞘に仕舞った。


屋本「闇殺し(ダークスレイヤー)? まるで思春期の中学生みたいなネーミングセンスだね?」


黒い男「…」


何も答えず刀を背中の鞘に仕舞い、左手で腰裏のコートに隠れている銃を抜き、銃口を屋本に向ける。


その時だった。


第二の介入者が現れたのは。


トシ「! 見付けた! おい! スズ! こっちだ!」


そう言って、職員側の裏口から入って来た眼鏡の男は、まだ離れた場所にいるであろう誰かに声を掛けた。


屋本「…やれやれ…僕はこの地を(けが)したいだけなのに…手を引いてはもらえませんか?」


その状況に不利を感じたか、黒い男に問うた。


黒い男「…出来るか お前等人に仇なす存在は、全て狩る それが何であろうとな やってる事がなにかなんて知ったこっちゃ無い…オレが全て殺す」


その全てを拒絶する様な冷たい物言いは、その場に居る真美達二人にとっても、恐怖を感じさせるに十分だった。


屋本「仕方ない…ならばこの日の為に時間を掛けて作った我々を…相手にして貰いましょう」


そう屋本が言うと、後ろからぞろぞろと警備員達十数人が現れる。


トシ「!? なんだコイツ等…?! 何かに憑かれてるのか?」


そう言って、眼鏡の青年は、懐から紙切れを取り出した。


トシ「まだか!? スズ!!」


大声で裏口に投げ掛けるが、反応が無い。


真美達が出てきた警備員達に眼をこらすと、紛れて制服姿の者達が居るのも判った。


真美「咲田くん…?!」


それは、クラスで成実の右隣に座る、咲田一夏(さくたいちか)だった。


沙耶「ね…ねぇ…あれ…麻井くん…?」


沙耶が恐る恐る指差す先には、左隣の麻井和輝(あさいかずき)がいた。


二人とも、暗がりで表情は判らない。


だが、足つきは酷くフラついている。


沙耶「なん…? で…??」


そう言いつつも、その先を想像し、恐怖で震える。


―既に、ずっと前から…この教室は―


真美「化物と… 一緒だった…!」


沙耶「やっ…! やだぁ…っ イヤっ…!」


その言葉で、自分達の安全だった今までの日常は崩れ去る。


が、


突如として激しい衝撃音が室内に響き渡り、二人のその思考は遮られた。


真美「…え?」


視線を音のした方向に向けると、衝撃音の正体は、黒い男の構えていた銃から発されたものだった。


そして音と共に咲田一夏は人形の様に後方に倒れ込む。


沙耶「やっ…! いちくん…?」


知り合いの姿をしたモノが倒れ込み、動かなくなる様を見て、その一連の動きから眼が離せなかった。


トシ「なっ…?! 止めろ! その子達の前だぞ!?」


その、被害者である巻き込まれた子達の事を全く考えてないと思われるその行動に、思わずトシが声を上げる。


しかし、黒い男は全く気にせず、反応もしない。


そして続け様に轟音が発生し、麻井和輝も倒れ込んだ。


真美「! 麻井君?!」


それだけではない。


周囲の警備員達も撃たれていく。


いつの間にか両手で銃を二丁構え、乱射している。


淡々と知り合いを含め撃ち抜いていくその黒い男の様は、二人の眼に、冷酷な殺戮者という印象を与えた。


トシ「止せッ! その子達の同級生だぞッ! ナウマク・サマンダ(遍く諸仏に帰命致す)ボダナン・(特に焔魔天)エンマヤ・ソワカ(に帰命して奉る)!」


その聴き馴染みの無い言葉を発すると、持っていた紙切れを警備員に投げ、その紙切れから(たちま)ち警備員達数人を巻き込むほどの燃え盛る炎が溢れ出す。


沙耶「!な…に…?? あの人…?! 急に火が出たよぉ…?!」


困惑し、真美に(すが)り付く沙耶。


真美「わかんない…っ よっ…!」


二人は戸惑うしかなかった。


屋本「…少し、不利ですかね… 行きますか」


そう言って、どうやったのか暗がりに消えていった。


茜「沙耶ァァ…」


茜は名残惜しくも口惜しい口調で、屋本と同じく暗闇に消えた。

逃げた矢本達―

そして、その場に残った黒い男、眼鏡の男、そして二人―

更には…?

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