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宮廷内の諍い

 翌日、テレーザと深淵の止まり木亭に昼食を食べに行った。

 オードリーとメイは今日はレオノーラさんと家の大掃除をしているはずだ。

 

 今日の昼食はカタリーナとアステルも一緒だ。

 会ったのはずいぶん久しぶりな気がするな。遠征続きだったから仕方ないんだが。


「久しぶりね、ライエル。テレーザに相応しい男として歩んでいるようで、私としてもうれしいわ」


 相変わらずなにやら偉そうな口調でカタリーナが言う。


「活躍は聞いてるぜ、先輩……おっと、失礼。風使いメステル・ド・ヴェルトオルランド公」


 アステルがなにやら性格悪そうな顔で言った。

 称号というか、二つ名は冒険者でもS帯以上くらいしかもらえない名誉のあかしだ。

 うれしい反面まだ居心地が悪いんだが……分かって言ってるな、この野郎。



「……と言う事があったんだがな」


 ひとしきり食事も終わって、先日の塾で起きた話をしてみた。


「そうか」


 テレーザが珍しく鬱陶しそうに顔をしかめる。

 アステルは我関せずって感じで食後のお茶を飲んでいて、カタリーナが少し困ったような顔をした。


 国王派と宰相派で勢力争いをやっているのかもしれないが。

 師団にいるからと言って宰相派扱いされるのは面倒だ。俺としてはどっちでもない。

 というか、つい先日まで冒険者だった俺に騎士の忠誠心を求められて正直言うと困るぞ。


「ヴァーレリアス家はどっちなんだ?」

「どちらでもない。我が父上が傷を負われてから我が家は……まあ、なんだ」


 そう言うとテレーザが言葉を濁した。

 確か没落気味、という話を聞いたことが有る。これ以上この話は続けるべきじゃな

いな。


 しかし、面倒なことだ。

 ギルドにも勿論派閥も派閥争いもあったが、それでも魔獣討伐という最優先の任務があったから、深刻なもめ事になる前に双方がなんとなく矛を収めていたもんだが。


「というよりだな……殆どの家はどちらかについているということはない」

「そうなのか?」


「この話は……最近にわかに表れてきたものと聞いている」

「ただ……少なくとも宰相閣下自身が勢力争いをするような方ではないわね」


 カタリーナがお茶を飲みながらいう。


「そうなのか?」

「もともと先王陛下……マルセロ2世陛下と王弟であるジョアン宰相閣下との関係は良好だったわ。

勇敢で決断力のある先王陛下を博識で慎重な王弟閣下、ジョアン閣下は支えられた」


 カタリーナが説明してくれる。

 俺は先王のことは詳しくは知らない。

 ただ、長く続いていた諸外国との戦争に決着をつけて内治に力を尽くし、国内の魔獣狩りを推進したことは知っている。

 名君と呼んで差支えはないだろう。


「誰もが先王陛下がお亡くなりになるときにはジョアン閣下が次の王になると思ったけど、先王陛下は息子である今の王、ジョシュア三世陛下に王冠を譲られた。

新しい世代の王に王国を任せてジョアン閣下にはその補佐を望んだの」

「なるほど」


 この辺の力学は分からんが。

 世代交代をしなくてはいけない、という点は分かるな。


「もちろん色々と憶測を呼んでひと悶着あったのだけど……王陛下を支えることを宣言して、その騒動を治められたのは宰相閣下自身よ。あの方はあまり派閥争いをする方ではないと思う」


 カタリーナがいう。

 流石に博識というかいろんなことを知っているな。


 ただ……火種自体は燻っていたのかもしれない

 正論ではあっても、納得していて従っていても。どんな善人でも思うところはあるだろう。

 人の心は奇麗なだけじゃない。


「まあでもよ、本人がどうであっても他が放っておかないんだろ」

「まあ……そうかもしれないわね」


 カタリーナが答える。


「まったく、お偉いさんは大変だよな」


 アステルが気軽な口調で言った。

 まあ確かに。自分だけの意思だけではどうにもならない部分はあるだろうな。

 強ければ本人の意思にかかわらず取り巻きが現れる。冒険者も同じだ。


 偉くなれば金の心配だのそういうことからは解放される。

 だが良い事ばかりじゃないのかもしれない。



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普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ/僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。
元サラリーマンが異世界の探索者とともに、モンスターが現れるようになった無人の東京の探索に挑む、異世界転移ものです。
こちらは本作のベースになった現代ダンジョンものです。
高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~
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