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思いがけない余波

「失礼します。今、よろしいですか?」


 そんな感じで声を掛けられたのは、オードリーとメイと深淵の止まり木亭で食事をしている時だった。


 メイドさんは今のところテレーザの家から通いで来てもらっていて、料理や掃除とかをしてもらっているが。今日はオードリーたちの希望で外食にした。

 深淵の止まり木亭は冒険者の宿ではあるが、格式が高いのか、比較的落ち着いた雰囲気だし料理も美味しい。


 声を掛けてきたのは緑色に塗られた革鎧を着た軽戦士風の女の子だった。

 腰に差した短剣からは魔力を感じる。触媒、というか練成術師だな。


 金色の巻くような癖毛は短く整えられていて白い額が見えている。

 切れ長の涼やかな目もあいまって、凛々しいというか美少年っぽい。テレーザよりは少し年上だろうか。

 見たことがない顔だが、その顔には緊張した感じが漂っていた。


「対魔族宮廷魔導士団の風使い、ライエル・オルランド公とお見受けいたします。お間違いありませんでしょうか?」

「間違ってないが、オルランド公はやめてくれ」


 一応騎士というか貴族になりはしたんだが。

 メンタルは冒険者時代からあまり変わっていない。というかわずか1か月程度で変わるわけもない。

 なので、公なんて敬称をつけられるのは違和感がある。


「ですが……貴方は騎士です。お付けしないのは無礼に当たります」


 生真面目な口調でその子が言う。

 まあいいか。


「それで、何の用だい?」

「私はクルス・ブレットと言います。ランクはC2です」


 はきはきとした口調で名乗ってくれる。


「お食事中に御無礼かと思いましたが、次にお目にかかる機会があるか分からないので、お声がけしました。どうしても一言お礼を申し上げたく」

「何のことだ?」


「あなたのおかげで、私はこの度ようやく正式にパーティのメンバーになれました。今までは一時的な補助要員でしたが」

「それが俺と関係あるのかい?」

 

 そう聞くと、クルスが深々と頷いた。


「アルフェリズでの魔族ヴェパルの討伐。そしてこの度のご活躍により、練成術師の評価は大きく変わりました。あなたのおかげです」


 クルスの後ろには4人の男女がいる。あれが彼女のパーティメンバーらしい。

 戦士風が3人と魔法使いが一人。

 なんとなくロイドやヴァレンたちを思い出す編成だな。


「それは……おめでとう」


 パーティに参加できなかったり、違う道を行くことになった、などと言われて外される悲哀は身に染みている。

 力を認められて居場所ができるのは嬉しいもんだ。

 この子がいまいちランクが低いのは、討伐に出る機会が少なかったからかもしれないな。


「風属性かい?」

「はい!オルランド公と同じです!」


 嬉しそうな口調でクルスが答える。


「まあ、正式メンバーになれたのは君に実力があったからさ。おめでとう。

ただ説教臭いことを言うようだが、これからが大変だぜ」


 パーティに入れてもその先は自分でその場に相応しいことを証明しなくてはいけない。

 報酬を分け合い命を預け合うからこそ、この辺は結構シビアだ。

 

 それにパーティの中衛に布陣して前後の支援を主任務にする練成術師は、その判断ミスがパーティの命運を左右することも十分にあり得る。

 クルスが分かってますって感じで頷いた。


「あなたは私たち錬成術師の希望の星です。感謝しています。今後も御武運を!」

「ああ、ありがとう」


 ペコリと頭を下げると、仲間たちの方に走っていく。

 何か楽し気に何か話して、もう一度頭を下げて店を出ていった。


 貴族とか騎士とかは置いておくとしても、自分の戦いがこんな風に波及するなら嬉しい限りだな。

 オードリーとメイの方に視線を戻すと、二人がなにやらジト目で俺を見ていた。

 

「どうかしたか?」


「……おじさん」

「なんだ?」


「ダメだよ」

「うん、ダメだよ」


 二人が顔を見合わせて頷き合う。


「なにが?」


「ウワキはダメだよ」

「そうだよ」


「お姉ちゃんが泣いちゃうよ」

「……怒るかも」

「どっちにしてもダメだからね」

 

 念を押すようにオードリーが言った。


 ……どこでそう言う話を覚えてくるんだろう。

 テレーザは時々家に来ているからオードリーたちとすっかり仲良くなっているが、何を話しているのか聞きたくなってきた。





 とりあえず本章は此処まで。近日中に、その後の彼等(旧パーティ視点)を追加予定です。

 次章は書き溜め中につき少しお待ちください。今後ともよろしくお願いいたします。

 感想、評価等々頂けると嬉しいです。

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普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ/僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。
元サラリーマンが異世界の探索者とともに、モンスターが現れるようになった無人の東京の探索に挑む、異世界転移ものです。
こちらは本作のベースになった現代ダンジョンものです。
高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~
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