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二つの変化・下

 着いた街で事務処理や後始末で数日を要した。

 街道汽車の復旧にはしばらくかかるとのことで、馬車を仕立ててヴァルメーロに戻ると意外な光景が待っていた。


 馬車が着いたヴァルメーロの中央駅の前には人だかりができていて、沢山の人が出迎えてくれていた。 

 楽団までいて、にぎやかな音楽を演奏してくれている。

 馬車から出た所で花吹雪まで降ってきた。


「なにごとだ、これは?」


 団長が珍しく困惑した顔をする。

 

「よくぞ戻られました、アグアリオ団長殿」


 血色のいい顔ににこやかな笑みを浮かべた男が進み出てきた。

 薄茶色の髪を後ろになでつけた痩せた顔には皺が目立つ。50歳くらいだろうか。


 貴族風の赤いロングコートのような衣装を着ているが、服のあちこちに金モールのような飾りが付けられている。

 なんとなく高位の貴族なんだろうなというのは分かった。

 

「恐るべき魔族の討伐、そして市民を守り抜いた宮廷魔導士団の勇ましい戦いぶり、既に聞き及んでおりますぞ。英雄の帰還を皆が待ちわびておりました」


 芝居がかった口調でその男が言った。

 俺は見覚えがない顔だが。


「誰だ、あれは?」

「確か……ファヴェアーノ候だ。ジョアン宰相閣下の側近だな」


 隣のテレーザに小声で聞いたら答えてくれた。


 にこやかな笑いで演説しているファヴェアーノ候に対して団長の表情は硬い。

 前のときはともかく、今回は犠牲者が出ているから手放しで喜ぶって気分じゃない。

 ただ、こういう儀礼(セレモニー)も貴族の務めってことなんだろうか。


「そして騎士オルランド公!」


 ファヴェアーノ候が大仰な仕草で手を広げて俺たちの方を向いた。


「練成術師の身ながら今回の戦いではあなたの活躍は目覚ましかったと聞きますぞ。どこにおいでか?是非民衆に答えていただきたい」

「……お前の事だろうが」


 誰の事だと思ったが、テレーザが言ってようやく気付いた。

 この呼び方は初めてだな。


「俺ですが」

「おお、そんな後ろにおらずに。さあさあ、前に進まれよ」


 ファヴェアーノ候とやらが俺の手を取って隊列の前に引っ張っていく

 前に出てみると、楽団がドラムを威勢よく打ち鳴らした。


「民のために戦う彼らを称えよう!」


 ファヴェアーノ公が呼びかえると、拍手が一層大きくなった。

 音が波のように体に響いてくる。

 今までにも討伐の結果を称えられたり、直接礼を言われたことはあるが、こんな大げさなのは初めてだな。


「そして、練成術師、冒険者、騎士、貴族。分け隔てなき編成で魔族と戦う師団を編成されたジョアン宰相閣下の英知を称えよう。

其の見識はまさに我が国の柱石!」


 大歓声がまた上がって、ジョアン宰相や団長の名を周りの市民たちが連呼した。

 ……なんか一躍有名になってしまったな。

 だが、魔族が出ている状況はあまり喜ばしいことではない気もするんだが。


 ただ、ルーヴェン副団長曰く、この師団は国王にはあまりいい顔をされてないってことらしいし。

 手柄を立てていくことはいいことだろう。

 歓声に応える団員たちの顔を見ると、皆まんざらでもなさそうだ。


 そして、いち早くこんな師団を編成した宰相は大した先見の明だと思う。

 もし個別に魔族と対峙していれば犠牲者はもっと多かっただろうな。


 ふと目をやると、皆が喜びに沸く中で、硬いというか苦々しげな表情を浮かべている集団が目に入った。

 衣装を見る限り貴族っぽいが……なんなんだろうな。



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普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ/僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。
元サラリーマンが異世界の探索者とともに、モンスターが現れるようになった無人の東京の探索に挑む、異世界転移ものです。
こちらは本作のベースになった現代ダンジョンものです。
高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~
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