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夜襲・上

 基本的に夜の戦いは人間は分が悪い。

 これは単純に夜目が効かないからだ。人間にとって暗闇はそれだけで不利に働く。


 だから冒険者は基本的には一日で討伐にケリをつけるようにする。

 朝早く出発して夜の前に街に戻るのが鉄則だ。


 町の外で夜明かしすると、順番に警戒をしなくてはならない。

 それに起きて即座に臨戦態勢に入るのは難しい。宿屋で寝るのとはわけが違うから疲労もたまる。


 野営も含めた戦いは、ただ戦って倒せばいいというのとはかなり違う。

 冒険者ギルドで数日間に渡ってまとめて討伐するような依頼を受ける場合、A帯以上なのが条件なのはそれが理由だ。

 

 地面を陥没させたこの魔族が何を考えているのかはわからない。

 ただ、どういう形であれ夜に襲ってくるつもりだろう。

 そう言う意味では頭がいいやつだ。クソ魔族ではあるが。

 

「疲れたな」

「ああ、そうだな」


 一緒に見張りをしている騎士、ユトリロが言う。

 焚火にくべた枝が小さい音を立てた。

 ほんのりの熱が伝わってくるが、南部だけあってさほど夜の気温が下がらないのは助かるな。


 ユトリロは坊主頭とがっしりした顔立ちの厳つい感じで年上に見えるが、俺と同じくらいの年の両片手剣(バスタードソード)使いだ。 

 見た目は恐ろし気ではあるが、美人な奥方がいて娘もいるらしい。

 代々の騎士らしいが割と気さくな感じで話しやすい。


「来ると思うか?」

「分からんな」


 団長は来ると想定しているし、俺もこの状況が偶然だとは思わない。

 ただ、何も起きないならそれに越したことはない。心配のし過ぎならそれはそれでいい。


「何も起きないといいんだがな」

「違いない」


 そう言ったところでユトリロが大きくあくびをした。


「大丈夫か?」


 大丈夫だ、と言いたげにユトリロが頷く。


 騎士は代々優秀な恩恵(タレント)を持つエリートが多い。

 冒険者の手に負えない魔獣を討伐するのが仕事だが、こんな風に夜に見張りなんてする必要はない。

 そういう雑用は従士の仕事だ。

 こんな風に夜襲を警戒して寝ずの番なんてほとんどしたことはないだろう。


「従士時代を思い出すよ。お前はこういうの慣れてるのか?ライエル」

「冒険者はなんでもやるのさ」


 そういうとユトリロがいかつい顔に感心したような笑みを浮かべた。

 冒険者も基本的には野営はしないが、それでも長くやっていれば経験もある。

  

「まあもう少しの辛抱だ。交代したら寝ようぜ」

「ああ」 


 ユトリロが大きく伸びをして目をこする。

 月明かりに照らされた凸凹のある荒れ地にはまばらに灌木が立っている。

 今まで行ったところに比べて木が少ない。南部の景色はこんなものなんだろうか。


 月も出ていて雲もないからそこまで真っ暗というわけじゃない。

 隠れる場所がない開けた場所だから不意打ちを食らうことはまずない。

 全方位、どこから近づいてきても分かる。


 それに今回はテレーザやラファエラだけじゃない。アグアリオ団長にローランというかクレイがこの場にいる。

 何人かがルーヴェン副団長とカモンリスに残ったが、主力がほぼそろっている。その点は有利な点だな。

 汽車の乗客がいるのが少し不安だが。

 


 見張りを続けているが、特になにも変わったことはない。

 静かに風の吹く音がして遠くから獣のものらしき遠吠えが聞こえるだけだ。

 定期的に探知の風を飛ばしているが特に怪しい動きもない。


「そろそろ終わりだな」


 月が天頂から下がり始めていた。

 この時間は深夜で一番しんどい時間だな。大変な時間を割り振られたのは偶然なのかどうなのか。


 時報の鐘が一つ鳴る頃がそれぞれの見張りの時間だ。

 もう少しで終わりで、そうすれば休める。


 このまま何事もないならそれに越したことはない。

 怠らず警戒せよ。敵が来れば路銀が増える。何事も無ければ土産話が増える。冒険者の格言だ。

 警戒をして何もなければ、酒場の笑い話にすればいいだけさ。


「おい」


 もう一度声を掛けるがやっぱり返事がない。

 いつの間にか焚火の傍にいたユトリロの姿が見えなくなっていた。 



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普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ/僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。
元サラリーマンが異世界の探索者とともに、モンスターが現れるようになった無人の東京の探索に挑む、異世界転移ものです。
こちらは本作のベースになった現代ダンジョンものです。
高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~
― 新着の感想 ―
[一言] 闇に紛れて一人づつ……ですかね。恐ろしい相手だ。
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