予期せぬ足止め・上
つかの間の休息が終わって、予定通り昼に街道汽車が出た。
夜にはヴァルメールに着くらしい。
流れる景色を見る限りアルフェリズとヴァルメーロ間を結ぶものよりは少し遅いな。
5つの車両のうち2つの車両はこっちの師団が占有している。
午前中は海水浴に行った奴も多かったのか、座席で寝ている奴も多い。
テレーザも俺の隣で窓にもたれて寝ている。
団長は大きめの席を一人で占拠してサーベルの手入れをしていた。あれがあの人の触媒なんだろう。
しかし、この人はいつも一人でいる気がするな。
改めて思ったが、この人はなぜこの師団にいるんだろう。
最強の冒険者として多くの功績をあげているから金に不自由してはいないはずだ。
貴族の地位に惹かれるってタイプにも見えないんだが。
もう一方に目をやると、クレイが1人で窓の外を見ている姿が目に入ってきた。
入団してからすぐ、周りともコミュニケーションをとってごく普通の団員としてふるまっている。
顔を仮面で隠しているが、立ち居振る舞いは貴族のそれだ。
なので周囲も貴族の一員で何らかの家の事情で師団に参加している、という感じで受け入れているっぽい。
ローランのやった事はおそらくアレクト―ル魔法学園の一部にしか知られていないんだろうな。
俺が話しかけたら何事もなかったかのように応じるが、それが逆に違和感がある。
あいつは何を考えてるんだろうか。
いざ戦った時に信頼できるのか。
手持無沙汰なのでお土産で買ったドライフルーツをかじった。
マングレアというらしい見たこともないオレンジ色のフルーツを乾燥させたものだ。ざらっとした甘い糖の触感の後に酸味があっておいしい。
生のは腐るかもということでやめになった。あっちの方が美味かったが仕方ない。
俺も刀の手入れでもするか、と思ったが肩に何かが触れる。
窓によりかかっていたテレーザが今度はこっちに寄り掛かってきていた。
「う……ん」
テレーザが身じろぎする。
起きるかと思ったが、かすかに開いた唇から静かなため息が漏れて、すぐに寝息に変わった。
結った髪がまだしっとり濡れていて海の香りがする。
白い肌がほんのり日に焼けて薄紅色に染まっていた。
起こすのも気が引けるな。仕方ないから窓からの景色をぼんやりと眺める。
流れる景色が青い海から茶色のなだらかな丘と小さめの林に変わった。
窓から差し込む西日は明るいがテレーザは起きる気配がない。
やれやれだな。
身動きが取れないまま、時報の鐘が一つなるくらいの時間が過ぎたとき。
ゴンという大きな音がして、突然車体が大きく揺れた。
◆
「なんだ?」
落とし穴に落ちた時の様な短い落下の感覚があって、下から衝撃が来た。
体が座席から突き上げられる。
木と鉄のきしみ音が上がって車体が斜めに傾いた。金属同士がこすれ合う甲高い音が足元からする。
前にアルフェリズで馬車と路面汽車がぶつかった時と同じだ感じだ。
横転する。
とっさにテレーザを抱き寄せた。
「きゃあ!」
「うわっ!」
悲鳴がいくつか聞こえて、直後に馬車がひっくり返ったときのように天地がひっくり返った。
轟音が響いてガラスが砕ける音がする。
体が床か壁か何かわからないが硬いものにぶつかった。
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