その後の彼ら・5
「さあ、食べてくれよ」
今日会ったばかりの男、ジルヴァがにこやかに笑いながら言った。
ランクはA3の大剣使いの前衛。
年は俺より少し上くらいだろうか。
整えられた茶色の髪に穏やかな感じと、上品な身なりがいかにも都会風だ。
ここは彼らの根城らしい冒険者の宿、夜明けの向日葵亭。
高い天井と吊るされた沢山の明かり。
重厚なつくりの家具や椅子は見るからに歴史がある宿という感じだ。
そのテーブルには溢れんばかりに料理が並べられている。
皿には香草を振りかけた分厚い肉の焼いたもの、アルフェリズでたまに見かけるような魚を一匹丸ごと煮た暴れ煮が盛られていた。
籠には白い焼き立てのパン。それに緑色の葉野菜が盛られたサラダのボウルもある。
燻製の赤身の魚の上に落とし卵を載せて鮮やかなオレンジ色のソースをかけた料理もある。これは見たことがないな。
デキャンタには赤いワインが満たされている
店員が肉を食べやすいサイズにカットして、魚もほぐしてくれた。
準備を終えると店員が一礼して下がる。
「じゃあ遠慮なく頂きますね」
「美味しそう!」
イブとエレミアがそれぞれ皿から料理を取る。
「いいのか?」
料理を見るだけで結構いい値段だってことくらいは分かるが。
「命の恩人相手だぞ、当然だ」
「いや、本当に助けられた」
もう一人の男、フェリクスが言う。
こいつはB1。厳つい顔立ちとちょっと乱れた短めの黒髪、がっちりした体格でジルヴァより戦士っぽいが魔法使いだ。
ジルヴァと同じ年でずっと長く組んでいるのだそうだ。
◆
ロイドの希望で王都ヴァルメーロに来て2週間ほど。
宿代稼ぎも兼ねて折角だから討伐依頼もいくつか受けてみた。
正式な移籍はしなくてもギルドメンバーなら仕事を請けるくらいはできるらしい。
都で受けた討伐はさほどアルフェリズと変わらなかったが。
今回の討伐から戻る途中で、狼のような魔族と戦っているパーティを支援した。
それがこの二人だ。
「アルフェリズから来たって言っていたが、アンタたちは魔族との戦闘経験があるのか?」
ヴェパルやあれが率いていたスケルトンとの戦いはこっちでもそれなりに話題になっているらしい。
「少しな」
「なるほどな、おかげで助かったよ」
ライエルたちが倒したヴェパルの方は俺達は戦っていないが、バフォメットとは戦った。
魔族の再生能力と魔法でないと有効な打撃は与えにくいという点を知っていたからこそ、今回は落ち着いて戦えた。
俺達も初めてバフォメットと戦った時は対応策が分からなかったから、こいつらの驚きとか戸惑いは大いに分かる。
あのけた外れの再生能力は、こんなやつを倒せるのかという絶望感を生む。
エレミアにもこのフェリクスもあの女魔法使い、テレーザほどの火力は勿論出せないが。
前衛が徹底して足止めに徹して相手の機動力を封じ、その間に攻撃魔法を連発して畳みかけて何とか倒せた。
その手で倒しきれたのだから、おそらくバフォメットほどの強いものではなかったんだろう。
それは好運だった。
「しかし若いのに腕が立つな、兄さん。ランクは?」
ジルヴァがロイドに聞く。
「B3になったばかりだ」
「いや、その若さでB帯とはな。大したもんだぞ」
ジルヴァの言葉にロイドが照れたように頷く
「しかし助けてくれて感謝してるよ。ここで美味い酒が飲めているのもアンタたちのおかげだ」
そういってフェリクスがワインをあおる。
「目の前で冒険者仲間がやられそうになっているによ……逃げたりはしねぇさ」
ロイドが言う。どこかで聞いたセリフだ
イブとエレミアがなにやらニヤニヤしてロイドを見ていた
「なんだよ……イブ姐さん」
「良いこと言うなって思ったのよ」
あの時、ライエルが言っていたことだな。
「まったくだぜ。若いのにいい奴だな、お前は」
ジルヴァがロイドの肩をバシバシと叩いた。
◆
机の上に並べられた皿の料理はあらかた無くなった。
食後には小さなグラスに入ったちょっと強めの酒を勧められたが、これもなかなかにいける。
喉を焼くような強さと鼻を突く強い香草の香りが独特だが、癖になる味わいだ。
「なあ、あんた達、こっちに移籍する気は無いか?」
ジルヴァが真剣な顔で言った。
「魔族が出るって噂は聞こえてくるからな。新規に魔族の討伐を専門にする騎士団も出来たらしい。
お前たちみたいなやつがいてくれるとギルドとしても助かると思うぜ」
「アンタたちの実力なら俺達からギルドに推薦するよ」
フェリクスがジルヴァの言葉を継いだ
「俺は賛成だぜ、ヴァレンの旦那」
ロイドが食後酒を飲みながら言う。
アルフェリズは近辺の依頼のみに対して、王都は各地から色々な依頼が集まってきてあちこちに出向くことになる。
こいつの成長のためには悪い話じゃない。
「アタシも賛成」
イブの言葉にエレミアが頷く。
僅か10日ほどだが、イブやエレミアも王都の生活を楽しんでいる。
アルフェリズも小さな町ではないが、それでも王都の賑わいは別格だ。
……移籍か。
「どうだい?」
「それも……いいかもな」
ジルヴァが嬉しそうに笑みを浮かべる。
「よし、ありがとうよ。明日にでも早速行ってみようや」
アルフェリズで戦って稼いで……いつかは引退してギルドの訓練教官か町道場でも開くかと思っていた。それ以外の道はあまり考えたことが無かったが
……もう一旗と言うのもいいかもしれない。
本章はここで終わりです。
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