新しい団員
ヴァルメーロに帰還して数日後。
また今日も師団のメンバーが全員アグアリオ団長の屋敷に集められた。
広間に入ると何人かが声をかけてくる。少しは信頼関係も築けただろうか。
色々と話しているうちに、団長と副団長が入ってきた。
全員が姿勢を正して注目する。
「素晴らしい戦いぶりだった、諸君。
そして誰も下らん功名稼ぎに走らず誰一人犠牲が出なかったことを喜ばしく思う」
アグアリオ団長がいつも通りの淡々とした口調で言う。
今回の討伐の報酬は金か功績点かを選択させられたが、本当に全員に差をつけなかったらしい。
俺は家名なんてものに取り立ててこだわりは無いから金に換えてもらった。
テレーザたちやほとんどの貴族や騎士たちは功績点にしたらしいが。
こういうのは記録されて家の家格をあげたりしてくれるということなんだそうだが……説明されても詳しいところはさっぱりわからなかった。
冒険者ギルドのランクの様なものだろうという風に理解している。
貴族も冒険者も根本的にやることは変わらないな。
「だが、今回改めて魔法使いの火力の不足を痛感した」
アグアリオ団長が言うと、何人かが頷いた。
「新しくこの男を師団に加える。魔法使いだ。火力の足しになるだろう。入れ」
そういうと広間のドアが開いて一人の男が入ってきた。
◆
茶色の短めの髪。すらりとした長身を師団の隊服である緑色の長衣に包んでいる。
奇妙なのは顔の上半分を、舞踏会のような装飾を施した赤いマスクが隠していることだ。
男が一礼する。
「名はクレイだ。故有って顔を隠さざるを得ない理由があるが、実力は私が確認した。役に立つ魔法使いだ。各自適当に挨拶しておけ」
皆がひそひそと言葉を交わす。
「次の遠征については報告を吟味しているが恐らく南部のエスタ・ダモレイラ方面になるだろう。
各自休息をとり準備を整えておくこと。では解散」
そう言ってアグアリオ団長とルーヴェン副団長が部屋を出て行った。
◆
何人かがクレイに歩み寄って言葉を交わす。話し声が聞こえて来た。
俺も挨拶に行った方がいいんだろうか。
見るからに怪しげではあるが……あの団長が連れてきた奴だ。
腕はたつんだろうな。
テレーザを見ると、何かにとりつかれたようにクレイの方を見ていた。
「どうした?」
「あいつは……」
テレーザが震える声でつぶやく
「あいつは……ローランだ」
◆
団長を探そうと思ったが、探すまでもなかった。部屋を出たら廊下の真ん中で俺を待つように立っていた。
ドアを開けて別の部屋に入ると指で着いて来いという仕草をする。
入ると団長がドアを閉めた。
「言いたいことがあるなら聞こう」
「あいつは……ローランですか?」
「さっき言った通りだ。あいつはクレイだ」
団長が素っ気なく言うが。
俺が追いかけてくると分かっていたようだし……肯定してるようなもんだな。
「……あいつのことを知っているんですか?」
と聞いては見たもののこの質問は愚問もいいところだ。
知らないわけは無いか。
「我が師団に引き抜いてもどこからも文句が出ず、即実戦で使えそうなものを探したらあいつだったのだ。有能なものはこき使うのが私の方針でな」
何の問題があると言わんばかりに団長が言う。
あれがローランだとしたら……実際に戦ったから分かるが、頼れることは間違いない。
アレクトール魔法学園の実戦魔法の次席まで登ってきただけのことはあったと思うが。
とはいえあんな風に戦った相手だ。
すんなり仲間として戦えと言われても抵抗があるぞ。俺はまあ割り切れるがテレーザは難しい気がする。
「それに、あいつが誰だろうがどうでもいいことだ。違うか?」
「というと?」
「お前もA帯まできているなら分かるだろう。冒険者の編成はお友達どうしの仲良しピクニックではない。能力を認め連携しろ、それだけの話だ」
「まあ……それはそうですが」
「昨今は甘ったれた連中が、出自がどうだの編成の多様性がどうだのと下らんことを宣うが、そんなお題目は実戦では何に役にも立たん。
我々に最も重要なのは魔族を狩ること、そして我が師団からは犠牲を出さないことだ。それに役に立つなら誰でも構わん。
それに、だ」
そう言って団長が見透かすような視線で俺を見た。
「……功名心や名誉欲に妬かれる気持ちは分からないか?お前にも覚えはあるだろう」
「それは……まあ」
俺だって聖人君子ではない。
「いずれにせよこれは決定事項だ。詰まらん諍いを起こした場合は私が処理する。其れは約束しよう
そして、間違うな。あいつはクレイだ……いいか?では話は終わりだ」
そう言って団長が部屋から出て行った。
◆
広間に戻るとテレーザが駆け寄ってきた。表情が硬い。
他に何人かが残っていてクレイと話していたが、クレイがこっちに歩み寄ってきた。
俺自身はあいつとは戦った以外に殆ど接触は無かったが、ローランだと分かってしまうとさすがに気まずい。
喧嘩別れしたパーティのメンバーと顔を合わせるなんてことは長くやっていればなくはないが、それよりはるかに気まずい
「私の力を証明するためにこの師団に加わりました。よろしく」
クレイが握手を求めて来た。
金の糸で鳥の羽根の様な刺繍が施された赤い布の仮面。その下の顔はうかがい知れない。
剥き出しになった口元からは何の感情も感じられなかった。
あの時から今まで、こいつに何があったのか……そして、どう変わったのか。
手を握り返す
「仮面の下は多分いけ好かない奴だろうと思うが……実力は認めるよ。よろしくな」





