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決戦の一撃

 オーグルとトロールの動きが止まった。

 我に返ったようにきょろきょろと周りを見回す……見た目には何も変わっていないが。


「これならどうだ、オラ!」


 ノルベルトの長柄斧(バルディッシュ)がオーグルを切り裂いた。

 血が地面に撒き散らされてオーグルがよろめく。

 息をのんで見守るが、今度は元に戻ることもなくオーグルが倒れてライフコアに変わった。

 援護が切れたのか。


「【書架は南・想像の弐列。五拾弐頁三節……私は口述する】」


 俺に目配せして即座にテレーザが詠唱を始めた。

 この機を逃すわけにはいかない。

 魔獣にせよ魔族にせよ、殺せるときに完全に殺しきるのが鉄則だ。


「一気にケリをつけるぞ!ノルベルト、フルーレ、切りこんでくれ。ラファエラは援護!」

「行くぜぇ!!」

「はい!」


「風司の67番【白き吹雪の中を征く者よ、この外套をもて。凍てつく災いより汝を守らん】」


 防御の風がノルベルトとフルーレに纏いつく。

 ノルベルトとフルーレが飛び出した。立ちふさがるオーグルとトロールを二人の剣と斧が切り伏せていく。

 巨体が倒れて次々とライフコアに変わった。


「სცადე ხელახლა」


 そいつがまた何か唱えた。黒い魔法陣が地面に浮かぶ。

 またさっきみたいに強化されちゃたまったもんじゃない


「風よ!」


 刀を振ると、放物線を描いた風の刃がそいつの肩口を切り裂いた。

 傷から血が噴き出すが、すぐにふさがった。

 致命傷には全く程遠いが詠唱が止まって魔法陣が消える。

 これで十分。


「【此処は幽世10階層、森に茂るは黒茨。恐れを知らず分け入れば、待ち構えるは毒の棘】」


 立ち塞がろうとしたオーグルとトロールに黒い茨が纏わりついて、地面に倒れ込む。

 ノルベルトとフルーレが挟むように魔族に迫った。 


 そいつが雄たけびを上げて巨大なウォーハンマーを振りかぶった。

 宮殿の柱の様なそれが振る下ろされるより早く、ノルベルトの長柄斧(バルディッシュ)が胸板に突き刺さる。


 巨人が空気を震わせるような野太い悲鳴を上げる。

 一歩下がったそいつの傷口が少しづつ埋まっていった。やっぱり物理攻撃じゃダメか。

 鎖を握った巨大な左手がハンマーのように振られた。 


「クソが!」


 ノルベルトが叫んで長柄斧を構える。拳と刃がぶつかり合って、ノルベルトが体勢を崩した。

 ウォーハンマーが振り上げられる。

 させるか。


「風司の43番【束ねし風は(さなが)ら戦船を(もや)う鉄鎖。絡まれば重く、逃れること能わず】」


 刀の先から伸びた風の鎖が左右の手に絡んだ。

 魔族の動きがつんのめるように止まる。


「貰った!」


 フルーレの斬撃が足を切り裂いて、魔族が膝をついた。

 切り返した剣が今度は右手の手首を正確にとらえる。

 巨大なウォーハンマーごと右手が落ちて血のような黒い液体が飛び散った。


 おそらくもう詠唱も終わるはず。


「二人とも、下がれ!」

「【古の伝承に偽りあり。煉獄は業火が満ちたる場所にあらず。無明に燃ゆるはただ一対の篝火(かがりび)。煉獄の長曰く、何人たりとも彼の炎に殿油(とのゆ)を指すこと勿れ、一度燃え盛れば七界(ことごと)く灰燼に帰す故に】術式解放!」


 二人が飛びのくのに合わせるように、テレーザの魔法が完成した。

 一瞬の間があってそいつの傷口から炎が噴き出す。

 天を突くような火柱が吹き上がってそいつを内側から吹き飛ばした。


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普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ/僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。
元サラリーマンが異世界の探索者とともに、モンスターが現れるようになった無人の東京の探索に挑む、異世界転移ものです。
こちらは本作のベースになった現代ダンジョンものです。
高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~
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