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遭遇戦

 師団の最初の遠征はサファル・アナ。

 敵はトロールとオーグルの群れらしい。其のエリアの冒険者ギルドでは手におえないということでこっちにお鉢が回ってきたらしい。


 サファル・アナは東部の中規模な都市だ……と言っても行くのは初めてだ。

 街道汽車で途中まで行って1日の馬車の移動で辿り着いた町は少し高い丘の上、城壁に囲まれた都市だった。


 白っぽい石で作られた背の低い建物が立ち並んでいて、大きめの倉が町の一角に立てられている。丘に立てられているからか坂が多い。

 来る途中は延々と畑や果樹園が広がっていたから、農業都市ってことなんだろうな。


 周辺の街からはかなり離れている上に魔獣の出現も少なくないはずだ。

 城壁がかなり高くて厚かったが……防御が硬いのはそれが理由だろう。 


 宛がわれた宿で一晩過ごした翌朝、宿のホールに全員が集められた。


「住民や冒険者ギルドの情報によるとさらに東部の森にオーグルとトロールの群れが目撃されているとのことだ。

位置は分からんが、あのデカい連中が群れを成しているなら捕捉はさほど難しくあるまい」


 アグアリオ団長が言う。

 確かに大きさが大きさなだけに捕まえやすいだろう。


「編成は4手に分ける。一つは私、もう一つはアリオスに任せる」


 アリオスと呼ばれた騎士が椅子から立ち上がって団長に頭を下げる。

 俺より少し若い前衛だ。食事会で少しだけ話した。


 金色のくせっ毛とすらりとした鍛えた体が獅子(レオ)を思わせる長身の剣士だ。

 南部の騎士団から団長が引き抜いてきたらしい。


「もう一手はライエル、お前に任せる」


 アグアリオ団長が言うと周りが少しどよめいた。

 何人かがこちらを見ながら何かささやき合っている。


 俺以外は貴族や経験を積んだ騎士ばかりだ。

 冒険者上がりのしかも錬成術師に一つの班を任せるのは異例なんだろうな。


「何か言いたいことはあるか?」


 そう言うと皆が静まった。


「ライエル。返事が聞こえないが」

「分かりました」


 周りが不満を持つのも分かる気がする。この編成では俺とノルベルトは明らかに余所者だからな。

 ただ、冒険者の世界でも自分の能力は自分で証明しなくてはいけない。

 それと同じだ。今までと変わらない。


「ルーヴェンは街で待機。万が一の状況に備えよ」


 アグアリオ団長が言って、ルーヴェン副団長が軽く会釈して答えた。


「そして、お前らにはこれを渡しておく」


 そう言って、アグアリオ団長がくれたのは黒い硬い革の板に銀糸で魔法陣を刺繍したようなものだった


「なんですか、これ」

「最新の魔法理論(ロゴス)を応用したもので、双方の声を伝えるものだ。接敵した場合これで知らせろ」


 声を伝え合う魔道具ってわけか。

 風の練成術にも似たようなものはあるが、あれはある場所に声を送るものであって人に送るものじゃない。

 これは便利だな。


「いいか、個別に戦うな。合流を優先する。魔族との戦いは危険だ。戦いに犠牲は避けられん。だが無用な危険は避ける」


 そう言ってアグアリオ団長が全員を見回した。

 冒険者の最上位まで行った人だからこそなのかもしれないが、用心深いな。


「準備が整い次第出発する。支度に掛かれ」



 俺の編成はテレーザとノルベルト、俺とラファエラと、フルーレという前衛になった。

 冒険者のパーティも大体は3人から5人で構成されるからこのくらいの方がなじみがある。

 

 最後尾にはフルーレがいる。

 20歳くらいの騎士団からの移籍組だ。こげ茶の髪に育ちのよさそうな温和な雰囲気の整った顔立ち。


 剣の加護を持つ前衛のはずだが、怯えたような雰囲気で周りをきょろきょろ見てるのがなんとなく不安だ。

 森の中の探索とかに慣れていないだけだと思いたい。

 アグアリオ団長が引き抜いてきたんなら実力はあるんだろうが。

 

 先頭にはノルベルトがいる。

 重たげな長い刃を持つ長柄斧(バルディッシュ)を軽々と肩に担いで手慣れた感じで先行して進んでいく。

 こっちはさすが経験豊富な冒険者って感じだな。


 薄暗い森の中をゆっくり歩く。

 ひんやりした湿った空気と、木の葉のにおい。森の中に匂いだ。

 周囲からは何の気配も感じられない。野獣の気配もない。

 かすかに鳥の声が聞こえるだけだ。ただ、平穏な空気じゃないな


「いやな感じだよなぁ」


 先を行くノルベルトが呟く。

 確かに、静かだが……むしろ不穏だ。嵐の前の静けさだな。


 一応探査の風を周囲に軽く展開はしているんだが。

 なんせ今回は敵のサイズがサイズだから見逃すことはない。


 それにオーグル相手は人数さえそろえば比較的やりやすい。

 奴らの攻撃は力押しだし、図体がデカいから不意打ちを食らう危険がすくない。

 人数さえそろっていれば火力でゴリ押せば勝てるし、首尾よくいけば先手を取って切り崩せる。


 ノルベルトが足を止めた。


「なんか……やべぇぞ」


 重い口調でつぶやいてノルベルトが長柄斧(バルディッシュ)を構える。

 周りを見回すと立ち並ぶ木の向こうに大きな影がうごめているのが見えた。

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普通のリーマン、異世界渋谷でジョブチェンジ/僕は御茶ノ水勤務のサラリーマン。新宿で転職の話をしたら、渋谷で探索者をすることになった。
元サラリーマンが異世界の探索者とともに、モンスターが現れるようになった無人の東京の探索に挑む、異世界転移ものです。
こちらは本作のベースになった現代ダンジョンものです。
高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~
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